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大橋彩香、伊藤美来、中島由貴、ニノミヤユイ……アーティストとしての個性確立させる“声優ガールズポップ”4作品

リアルサウンド

20/12/13(日) 10:00

 アニメ音楽やその周辺の新譜をキュレーションする本連載。今回は「声優ガールズポップ」という切り口で4作品をピックアップします。というのも、これから年末にかけて、女性声優によるソロ作品が充実しているから。声優は声のプロフェッショナルなので、歌声にもそれぞれの個性や表現力の違いが明確に表れます。なおかつ、ソロでのアーティスト活動の場合、その人のパーソナルに寄り添った作品作りが行われ、作詞家・作曲家・編曲家ほか様々なクリエイターの力添えにより、音楽的にも「個」をしっかりと確立した作品になるケースが多いです。ここで紹介する4タイトルも、他にはない魅力を持った作品ばかり。ぜひ彼女たちの「声」に、耳を傾けてみてください。

 最初にピックアップするのは、大橋彩香のニューアルバム『WINGS』(12月16日発売)。2014年にアーティストデビューして以来、コンスタントにリリースを重ね、2021年には千葉・幕張メッセイベントホールにて自身初の単独アリーナ公演を行うことも決まっている彼女。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の島村卯月役としてアイドル活動を行うほか、『BanG Dream!』ではPoppin’Party・山吹沙綾役で特技のドラムを演奏、さらにNHK BSプレミアムで放送中の番組『みんなDEどーもくん!』では「歌のおねえさん」としてレギュラー出演するなど、マルチタレント化が進む声優シーンにおいて、最も幅広く活躍する声優の一人と言っても過言ではありません。

 通算3作目のアルバムとなる『WINGS』は、そんな彼女の歌唱スキルが存分に発揮された一枚。特に水野良樹(いきものがかり)が楽曲提供したリード曲「START DASH」は、澄み切った青空のような広大さを感じさせるサウンドと、そのなかを伸び伸びと羽ばたくように歌う彼女のハイトーンが最高に爽快なポップチューンです。その一方で今回のアルバムには、DECO*27提供の高速ロック「HOWL」、分厚いギターが印象的なダンスナンバー「Winding Road」、GRANRODEOのe-ZUKAこと飯塚昌明によるハードポップ「MASK」といったエッジーな楽曲も収録。ひとりぼっちのクリスマスの寂しさをポップに弾き飛ばす「キミがいないクリスマスなんて」、歌謡曲っぽい哀愁メロディを切なくも力強く歌いこなした「NOT YET」、童謡のように優しい世界観の「お月さま」など、多彩な曲調を自在に表現する歌唱センスはピカイチです。

大橋彩香 – START DASH [Official MV]
大橋彩香 3rd Album「WINGS」全曲試聴動画

 続いて紹介する伊藤美来は、『BanG Dream!』の弦巻こころ役や『プリンセスコネクト!Re:Dive』のコッコロ役などで知られる声優。豊田萌絵との声優ユニット・Pyxisとしても音楽活動を行っており、そちらではアイドルっぽさを前面に出したハイテンションな楽曲が中心ですが、ソロではより等身大な音楽性を志向。ピュアネスな魅力が封じ込められた1stアルバム『水彩 ~aquaveil~』(2017年)、シティポップ的な洗練性も感じさせた2ndアルバム『PopSkip』(2019年)と、充実した作品を発表してきました。

 それらに続く3枚目のニューアルバム『Rhythmic Flavor』(12月23日発売)は、これまで以上にバラエティに富んだ楽曲にチャレンジした意欲作。チル〜ローファイ感のあるファニーな打ち込みポップ「BEAM YOU」では、シンガーソングライターの竹内アンナが歌詞を提供。伊藤と同年代の女性だからこそ書ける絶妙なニュアンスの女心とポップさが、主役のキュートな魅力と化学反応を起こした中毒性の高いナンバーに仕上がっています。アルバムには他にも、ゆいにしおが楽曲提供した自分らしさをガーリーに主張する「hello new pink」、本人作詞による華やかなブラスポップ「Good Song」(作編曲はfhánaの佐藤純一)、そしてCharaが作詞・作曲、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)が編曲したメロウソウル「vivace」などを収録。彼女の甘い声質の美点を高品質な楽曲と共に味わえる逸品になっています。

伊藤美来 / BEAM YOU
伊藤美来 / Good Song

 すでにソロアーティストとしてのキャリアも十分な前述の二人とは違い、これからその第一歩を踏み出そうとしているのが、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の乙倉悠貴役などで人気を集める中島由貴。前述の二人も出演する『BanG Dream!』では、Roseliaの今井リサ役を務め、ライブでは実際にベース演奏もこなす実力派です。かつては声優ユニットのアース・スター ドリームにも所属していましたが、12月23日にリリースされる1stアルバム『Chapter I』で、ソロアーティストとしてデビューを果たします。

 アルバムのリード曲「Chapter I」は、y0c1e名義の活動でも知られる佐高陵平が作編曲を手がけた快活なギターロックチューン。これから始まる新しい活動への期待感と、サビの〈最高で 最高な 主人公は私〉という歌詞に象徴されるポジティブなフィーリングが、彼女自身の明るく前向きなパーソナルと結びついた一曲と言えるでしょう。その透き通るようなクリアボイスは、どんなサウンドにも気持ちよく馴染み、K-POPフレイバ—のキュートなエレポップ「Sunny Parade」から、切ない恋模様を描いた青春感溢れるエモーショナルロック「マーブル」まで、いろんなテイストの楽曲を楽しむことができます。彼女の歌声がこれからどんな色に染まっていくのか。その期待と予感が詰まった、ワクワクするような始まりの一枚です。

【中島由貴】デビューアルバム「Chapter Ⅰ」試聴用MV
【中島由貴】デビューアルバム「Chapter Ⅰ」全曲試聴クロスフェード

 最後に紹介するニノミヤユイは、声優・二ノ宮ゆいがアーティスト活動を行う際の名義。今年1月にバグベア、カノエラナ、佐藤純一(fhána)らが参加したアルバム『愛とか感情』でデビューし、8月には1stシングル表題曲「つらぬいて憂鬱」で初のアニメタイアップを経験。まだ弱冠19歳ながら、自身のネガティブな要素をクリエイティブに落とし込み、作詞なども含めて自分らしい表現を追求する、新しいタイプの存在です(声優活動とアーティスト活動で名前を使い分けているのは、そこに明確な線を引いているからでしょう)。

 このたびリリースされるミニアルバム『哀情解離』(12月23日発売)のテーマは「陰×ロック」。彼女がこれまで作品を通じて見せてきた、感情の「陰」の部分をさらに深く掘り下げ、それを自身の好きなロックサウンドに乗せてアウトプットした、強烈な個性を放つ一枚になっています。リード曲「痛人間讃歌」を提供したのは、彼女が大ファンだというロックバンドのミオヤマザキ(作詞はmio、作曲はtaka)。周囲から期待されたり押し付けられる自分のイメージを跳ねのけるような、切れ味鋭い言葉とサウンドが心に刺さる一曲です。さらにニノミヤが多大な影響を受けたと語るDECO*27の楽曲提供が実現した「サイセンタン・コンフュージョン」(DECO*27は『愛とか感情』にもギター演奏で参加していた)、活動終了を宣言したボカロPの蜂屋ななしによる異色のエレクトロスウィング「No attention」など、アグレッシブなナンバーがずらり。彼女と同じくネガティブな感情を心に抱えた人にこそ聴いてほしい、ありのままの自分を肯定してくれる作品になっています。

【ニノミヤユイ】「痛人間讃歌」Music Video(Full Size )
【ニノミヤユイ】ミニアルバム「哀情解離」試聴動画

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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