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SPICY CHOCOLATEが語る、“人生に寄り添う応援歌”で届ける思い「どんなに技術が発展しても人とのふれあいはなくならない」

リアルサウンド

20/3/9(月) 12:00

 「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」が配信チャートで19冠を獲得したことをはじめ、『渋谷純愛物語』シリーズのヒット、配信総数200万ダウンロード超の楽曲が詰まった『スパイシーチョコレート BEST OF LOVE SONGS』など、多くの名ラブソングを世に送り出してきたSPICY CHOCOLATEが、ニューアルバム『TOKYO HEART BEATS』をリリース。本作は『渋谷純愛物語』に続く新シリーズの第1作で、ラブソングだけでなく、「夢のカケラ feat. ファンキー加藤 & ベリーグッドマン」や「願いのせて feat. まるりとりゅうが & モン吉」など、聴く人の背中を押すような応援歌も収録されている。SPICY CHOCOLATEが考える、今の時代に必要とされる音楽とはどのようなものなのか。リーダーのKATSUYUKI a.k.a.DJ CONTROLERに話を聞いた。(榑林史章)

(関連:SPICY CHOCOLATEがラブソングで大切にしていること シェネル&Beverlyとの制作秘話を語る

■新シリーズのテーマは人生に寄り添う応援歌

――以前のインタビューで、レゲエにはREBEL(反逆)とLOVE(愛)という2つの側面があるというお話をされていましたね。今作『TOKYO HEART BEATS』ではそのREBELとLOVEにYELL(応援)が加わり、新たなフェーズに入ったという印象です。どんなイメージで制作されたのでしょうか。

KATSUYUKI:今までシリーズごとにアルバム3枚とベスト盤を出して完結していて、『渋谷純愛物語』シリーズも『スパイシーチョコレート BEST OF LOVE SONGS』で完結したので、ここらで新シリーズを作ろう、と。そこで今という時代を考えた時に、今は恋愛だけじゃない混沌とした世の中でもあるから、自分たちが前を向いて進んで行くための曲や、落ちている気持ちを上げることができる曲も入れられたらいいなと思ったんです。聴く人の胸や心を揺さぶるような音楽を提供したいという気持ちを込めました。

――昨年は台風などの自然災害も多かったし、今も新型コロナウイルスの不安が広がっていて、応援を必要としている人がたくさんいる。そんな今の時代にフィットしたテーマですね。『TOKYO HEART BEATS』というタイトルは、言葉を選ぶ時に何かヒントになったものはありましたか?

KATSUYUKI:今から20数年前、レゲエの本場であるジャマイカに初めて行った時に泊まった、海沿いにポツンと建つコテージの名前が、実は「HEART BEAT」だったんです。僕の中でその名前がずっと残っていて、今回新しいシリーズを始めるにあたって原点回帰の意味合いも含めて、タイトルの参考にしました。

――カリブ海の青い海と空が目の前に広がるコテージは、とても爽やかで美しいシチュエーションですね。

KATSUYUKI:確かにキレイだったんですけど、ど田舎だったので蚊に何十カ所と刺されて大変な目に遭った思い出があります(笑)。それでも初めてのジャマイカだったからすべてが新鮮だったし、それこそ心臓を揺らされるような経験がたくさんあって、レゲエという音楽にどっぷり浸かるきっかけになりました。

――レゲエにはもともと、応援歌の要素もあるのですか?

KATSUYUKI:気持ちをポジティブにするレゲエは、2000年代に入って以降ですね。60年代~70年代、ボブ・マーリーなどが歌っていたREBELやLOVEに始まり、それが進化したり飽きられたりすることでダンスホールレゲエが生まれ、僕がジャマイカに行った90年代中盤~後半にかけて主流だったのは、スラックネス(セックス・ドラッグ・バイオレンスといった露骨な表現のレゲエ)と呼ばれるものでした。そういったレゲエを一通り楽しんだ上で、じゃあ今の時代に何が必要なのか。人生で辛い時や壁にぶつかった時に自分の中で、自然と流れて来る曲ってあるじゃないですか。

――ふと口ずさんでしまうような。

KATSUYUKI:そうです。誰の中にもそういう曲があって、僕の中では長渕剛さんやサザンオールスターズ、THE BLUE HEARTSなどの曲がそれにあたります。そこで今度は、僕自身も聴いてくれる人の人生に寄り添える1曲をどれだけ提供できるかを目標に、背中を押してあげたり、悩んでいる時に手を引いてあげられる曲が作れたら良いなと思いました。そうした中で最初に出て来たのが、「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」という曲のアイデアです。

――「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」は、人生の終わりを迎えた時に笑っていられるようにするために、どういう人生を送ったら良いか、そのための背中を押してくれる曲ですね。

KATSUYUKI:はい。終わりの無い人生はないわけで……僕個人としても昨年はとても別れの多い1年で、人生は決して永遠じゃないことを実感しました。そこで自分が最期を迎える時は、どういう風に終わりたいかを考えるようになって、自分の人生が恨みや妬みで渦巻きながら終わっていくのは嫌だなって。自分の周りにはこんなに人がいてくれて良かった、恵まれていた、これまで生きていて良かった、ここまで来られて良かったなって、笑いながら終わりたいと思ったんです。最終的なテーマはそういったものですけど、1日の終わり、1週間の終わり、自分が目標達成に定めていた期間や、高校生活の3年間が終わるという時などに、「最後に笑おう」という曲が当てはまってくれたら良いなと思っています。

――〈でも頑張り続けたら明日に また土壇場で神がかったり 捨てたもんじゃないぜ この人生 最後に笑おう〉というフレーズがすごく良いですね。

KATSUYUKI:強いメッセージのある応援ソングになりましたね。今までこういう曲を作って来ていなかったので、ちょっと変わった進化をお見せできる曲なったんじゃないかなって思います。

■ファンキー加藤、まるりとりゅうが……第六感を信じたコラボ選び

――「夢のカケラ feat. ファンキー加藤 & ベリーグッドマン」も、今作を代表する応援歌の一つですね。

KATSUYUKI:「夢のカケラ」の根底にあるテーマは、セカンドチャンスです。負けた経験があるから勝ちが得られるし、どんな成功者でも失敗のない人生や間違いのない人生は絶対にないと思っていて。誰もが一度は失敗するし、誰もが間違えることがある。その上で、ちょっとした成功やちょっとした目標の達成にたどり着けるんです。だからたとえ失敗しても、そんなにくよくよしなくても大丈夫だよっていうことをテーマにしたくて。僕自身も今に至るまでにはたくさん失敗を経験したからこそ、どうやったら勝てるかを必死に考えて来たわけだし。そんな自分の経験も踏まえた上で、聴いてくださるみなさん全員にセカンドチャンスがあるんだということを、意識してもらえたら良いなと思います。

――SPICY CHOCOLATEにも、挫折があったんですか?

KATSUYUKI:もちろんありました。SPICY CHOCOLATEは今年で26年、メジャーデビューして13年経ちますけど、長い間なかなかヒットが出なくて、それでもバッターボックスに立ち続けたことで、2013年にようやく「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」というホームランが打てたんです。それ以降も含めてこれまでの間にいろんな人を見て来ましたけど、どんなに才能があって努力していても、ホームランが打てない人はたくさんいて。じゃあそこでホームランを打つためには、リスナーをノックアウトするためにはどうしたら良いか、そのことをすごく考えるようになりました。

――考えた結果、その答えというのは見つかったわけですか?

KATSUYUKI:自分よがりではダメということに行き着きました。あと、求めているばかりではなく、感謝の気持ちもちゃんと持っていないとダメです。そのことを歌っているのが、「めぐみ feat. SHOCK EYE & APOLLO」です。当たり前のようにあるけど、決して当たり前じゃない“恵み”に感謝できるかどうか。以前は神社にお参りに行っても「ヒットしますように」とか「1位を獲れますように」とお願いをしていたのですが、今は音楽活動を続けられていることに感謝して、「ありがとうございます」という気持ちで手を合わせることができます。日頃の行いって絶対にあると思うし、それによって自分の人生が変わっていくんじゃないかなって。26年やって、ようやくそういうことに気づけるようになりました。

――長く続けて来たからこその実感ですね。バッターボックスに立ち続ける上での、秘訣や心構えのようなものはありますか?

KATSUYUKI:一つ一つの打席を大切にすること。それは僕らで言えば1曲1曲になるわけですが、SPICY CHOCOLATEを応援してくれる人を良い意味で裏切りながら、同時に満足してもらえる曲を意識し続けることです。そういった意識を揺るぎないものとして持ち続けながら、その時代にフィットしたものにする。たとえば10年あったとしたら、その間で人はいろんなものを吸収して考え方や思想も変わります。10年前からSPICY CHOCOLATEを聴いてくれている人も、同じように成長して考え方が変わって来ている。だから10年前と同じことを歌っていてはダメで、じゃあ今の時代に合ったものは何なのかを、常に考えながらバッターボックスに立っています。僕より若い人にも聴いてほしいし、僕より先輩の人や同年代の人にも聴いてもらいたい。幅広く聴いてもらえるように、特に今作は工夫を凝らしました。

――常に人と一緒に作ることの温かさみたいなものも、その答えの一つでしょうね。

KATSUYUKI:そうですね。僕は歌えないので、だからこそそのアーティストの良さをどれだけ引き出すことができるかを考えます。ベリーグッドマン単体ではできないこと、ファンキー加藤さん一人ではできないことを、SPICY CHOCOLATEが間に入ることによって実現する。普段はやらないけどこういう機会なら挑戦してもいいという理由と場所をSPICY CHOCOLATEが提供して、お互いの才能とアイデアをフルに発揮してもらい、それが作品に反映できれば良いなと思っています。

――「願いのせて feat. まるりとりゅうが & モン吉」も、メッセージ性の強い応援歌ですね。〈もう君は独りじゃないから〉というフレーズは10代や20代の若い世代に刺さりそうです。そういう曲にまるりとりゅうがが参加することでメッセージの説得力が出ていると思いました。

KATSUYUKI:まるりとりゅうがは2人ともすごく歌が上手で、こちらから熱望して参加していただきました。彼らのことは動画を見て気になっていて。実際にライブも見に行かせてもらって、ぜひにとお声がけさせていただきました。今作への参加アーティストの世代は、20代、30代、40代が入り交じっていて。聴いてくれる人の年齢層を幅広くしたいというのが根底にあったので、若くて才能が溢れる人と一緒に曲を作りたいと思っていたんです。僕らは常にアンテナを張ってSNSやネットもチェックしてるんですけど、膨大な情報の中から第六感を信じてビビッと感じるものがあった人について掘り下げていくようにしています。

――2人は、初めて会った時はどんな反応でしたか?

KATSUYUKI:やっぱり緊張していましたね。僕も緊張していたし。でも緊張することは大事で、ほどよい緊張が自分の成長に繋がると思っています。僕も、まるりとりゅうがの曲をたくさん聴いてイメージを膨らませてレコーディングに臨みました。

――「夢のカケラ」に参加した、ファンキー加藤さんとベリーグッドマンさんは、どういうきっかけだったのでしょうか?

KATSUYUKI:ベリーグッドマンは同じレゲエシーンのアーティストで昔から交流があったので、先に声をかけさせていただいて。そこにもう一人誰が良いかと考えている時に、同じ事務所のファンキー加藤さんのライブを改めて見て、「これだ!」と閃いたんです。加藤さんの力強さとベリーグッドマンの絶妙なハーモニーを合体させて、そこにSPICY CHOCOLATEのテイストを足したら、新しいものができるんじゃないかと。これが正解でしたね。

■最終的に求められるのはグッドバイブスの交換

――自分で作詞作曲されているアーティストと一緒に制作する時は、役割り的にはどういう感じですか?

KATSUYUKI:初めましての人だったら、どういう音楽が好きなのか、いつもどういうスタイルでレコーディングをしているのか。まずはそういう話を聞いて、なるべくいつも通りにできるように、相手のやり方に合わせて環境を整えるようにしています。その上で楽曲のテーマや土台となるビートを提案させていただいて、それをベースに相手の意見を聞き入れながらブラッシュアップしていくのが、基本的なやり方です。でもそれはケースバイケースですね。

――「夢のカケラ」は、東京のスタジオに5人で集まって?

KATSUYUKI:はい。スタジオでお互いのアイデアを出して、それを持ち帰っての繰り返しで、言葉一つを選ぶにしてもたくさんの意見を交わしたし、全員黙ったまま3~4時間集中して作業していた時もあります。そうやって研ぎ澄ませていって、やっと完成したという感じです。加藤さんが軽く冗談を言って場を和ませてくれたし、ベリーグッドマンは湧き出るようにアイデアを出してくれて。良い緊張感がありながら、とても刺激のある制作でした。

――「願いのせて」の場合は?

KATSUYUKI:まるりとりゅうが、モン吉さんの3人が歌うことをイメージして、こちらでトラックとメロディを用意しました。こだわったのは、まるりとりゅうがの2人が、どうハモるかというところです。どっちがハモりを担当するか、上に行くのか下に行くのか。その上で、モン吉さんがどういう存在感を発揮するかなど。ある種パズルを組み立てるような感覚もありながら、どの制作もとても緻密な作業でしたね。

――様々な意見やアイデアをまとめるのは、大変そうですけど。

KATSUYUKI:人が相手なので、毎回やり方が違うし、なかなか思い通りにいかないこともあります。もっとこうしておけば良かったかなと思うこともあるけど、それも僕にとっては勉強。とにかく自分たちができる最善を尽くして、バッターボックスにしがみついてでも立ち続けるしかない。それが次に繋がるものになるように、常に心がけています。

――インタールードには「変わりゆく街並」という曲も収録しています。『渋谷純愛物語』シリーズから時代と共に求められるメッセージも変わり、それこそ渋谷の街も様変わりしました。そういう時代の流れに対応していくことが、バッターボックスに立ち続けることに通じると思いますけど、時代の流れによる変化について思うことはありますか?

KATSUYUKI:渋谷は昔の街並みがどんどんなくなっていて、昔から渋谷で遊んでいる人間としては寂しさもありますけど、これからもっと変わっていくんだろうなって思います。クラブがたくさんある円山町や、戦後からの百軒店のあたりはまだ何となく残っていますけど、でもそのうち30階や40階建てのビルにクラブが入っているのが当たり前みたいな、そういう時代になっていくんでしょうね。それが良いのか悪いのかは後になってみないと分かりませんけど、昔からの姿がまだ残っている間は、それを大事にしてその場所を最後まで楽しみたいなと思います。

――渋谷のクラブシーン自体も変わりましたか?

KATSUYUKI:昔と比べればやはりクラブで遊ぶ人は減っていますね。そもそも外で遊ぶこと自体が減っているというか。僕もDJをしにクラブに行ったり、今現場でどういう音が鳴っているのかパトロールしに行くんですけど、年々人が減っている実感があって。

――友だちとのコミュニケーションや遊びも、ネット中心になりましたからね。音楽も個々で聴くのが普通で、イヤフォンやヘッドフォンで聴くことが当たり前ですしね。

KATSUYUKI:そうなんですよね。レゲエというのはもともと黒人が、自分がどれだけでかいスピーカーを持っていて、「俺が聴いている音楽は格好いいんだぜ!」という感じで、サウンドシステムを自慢してその周りに人が集まって踊るという文化だったんです。そこから時代を経て、利便性が求められていくと同時に個々で聴かれるようになり、そこで必要とされる音楽やメッセージをどう伝えたら良いのか、それは今でもずっと模索しているところです。でも思うのは、スマホで全部完結できてしまう世の中でも最終的に求められるものは、やっぱり対面して直に話すことで感じられる空気感や温かみじゃないかなって。どんなに技術が発展して人と会わずにいろいろできるようになったとしても、人とのふれあいは必要なものだし、それは絶対なくならないと思います。

――そこで求められるのは、人と人が顔を付き合わせて作られることによって生まれるもの。つまりSPICY CHOCOLATEの音楽の持つ、熱や温もりなんでしょうね。

KATSUYUKI:そうだったら良いなと思いますね。そういう意味でも原点回帰して辿り着いたのが、今回の『TOKYO HEART BEATS』という作品です。レゲエの言葉で「バイブス」と表現しますけど、グッドバイブスの交換ができるようなものを、これからもたくさん提供できたら良いなと思います。

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