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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

マシュー・マコノヒー

連載

第53回

── 今回はマシュー・マコノヒーでお願いします。今春、彼の主演作2本が続けて公開されます。ガイ・リッチーと組んだギャング映画『ジェントルメン』と、ハーモニー・コリン監督の『ビーチ・バム まじめに不真面目』です。

渡辺 この2本のマシューは、別人のように違います。『ジェントルメン』は高級そうなスーツに身を包んだスタイリッシュな悪党、『ビーチ・バム』は、アロハシャツを羽織ってフロリダのビーチでお酒とドラッグでヨレヨレしている詩人。それぞれ監督の個性が反映されたキャラクターなんですが、それを演じきっているのがマシューの実力なのかもしれません。個人的には『ジェントルメン』の彼の方が好きだったし映画も面白かった。

『ジェントルメン』
『ビーチ・バム まじめに不真面目』

── 彼は『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)でアカデミー主演男優賞を受賞しましたよね。

渡辺 はい。それまでは、ビーチが似合うシャツレスアクターと言われていましたよね。肉体美だけがウリの役者という意味で、『フールズ・ゴールド カリブ海に沈んだ恋の宝石』(08)なんて、まさにその典型。アメリカのタイム誌はその昔、“シャツレス映画トップ10”という企画を組み、“マシュー・マコノヒー出演作すべて”というふうにくくられていたくらいです。

『フールズ・ゴールド』

── ちょっとバカにされていた感じですね。

渡辺 だから、本人もそれじゃダメだと思って、ある時点からそういう映画への出演を封印し、インディペンデント系の個性的かつ良質な作品を選ぶようになった、みたいなことをどこかで読んだことがあったんです。『リンカーン弁護士』(11)あたりから、作品をちゃんと選んでいる感じがしましたからね。

で、『インターステラー』(14)のとき「いかにもハリウッド的な娯楽作への出演を止めて、良質のインディペンデント映画を選ぶようになったというのは本当ですか?」と尋ねたら、こう言っていました。

「私は一度も“ハリウッド映画はやりたくない”なんて言ったことはないんだけれど、いわゆるスタジオ映画のオファーはなかった。そういうリストに私の名前は入ってなかったんだよ。ときどき、オファーはもらったけど、それはこれまで私がずっとやってきたジャンルだったから、もう十分だろうってね。

では、そういう自分がやりたい仕事をどこで探すのか? インディペンデント映画だよ。みんなで“よっしゃ! やろうぜ”って感じで映画を作る。その感覚はとても個人的な経験になって大好きなんだ。そして、その中の何本かがうまくいった。『ダラス・バイヤーズクラブ』や『MUD -マッド-』(12)がね」

『ダラス・バイヤーズクラブ』

── なるほど!

渡辺 個人的には、その頃の彼の作品で印象的だったのはウィリアム・フリードキンの『キラー・スナイパー』(11)でした。ロリコン趣味のあるヘンタイの保安官役。登場するのはほぼヘンタイさんばかりという、ある意味、フリードキンらしい異色作です。あとは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)の、人の目を気にすることなく、胸を叩きながらヘンな歌を口ずさむ証券マン。これも素晴らしかった。

『キラー・スナイパー』

でも、彼のブレイクに繋がったのは『MUD』。『インターステラー』に彼を起用したクリストファー・ノーランも『MUD』が気に入ったからのようでした。

── ということは、方向転換がうまくいった人なんですね。

渡辺 そういうことになりそうです。なかなかこれができなくて消えていく人が多いのがハリウッドなので、マシューは頑張ったんだと思います。

『MUD -マッドー』

だから、こんなことも言っていました。

「私はデビューした当時から、映画作りというプロセスを経験するだけで満足していたんだ。でも今は、結果を重視している。つまり、結果とは、『ダラス…』や『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(14)、『ウルフ・オブ…』などが、いい記憶として観客の頭に残ることなんだよ。それはとてもグッドな気分だ」

こういう言葉を聞くと、自分のキャリアについて考えるようになったのはここ10年くらいという感じですよね。

── マシューに最初にインタビューしたのはどの作品だったんですか?

渡辺 それがすごーく古くて、彼が最初に注目された『評決のとき』(96)。なんですよ。考えてみたら、これも弁護士役ですね。日本では“マコノヒー”と表記されていますが、実際の発音は“マコナヘー”だということを、このとき本人から教えてもらったという記憶があります。実はそれくらいしか覚えてなくて、むしろ覚えているのはアメリカの情報誌に載った記事の方です。

この作品は、当時とても人気の高かった弁護士出身の作家ジョン・グリシャムのリーガルサスペンスで、その主人公の座を狙ってハリウッド中の若手がオーディションを受けたことでも知られていた。その激戦を勝ち抜いたことで、公開前からマシューは大注目されていたんです。

で、私が読んだ当時の記事で覚えているのは監督の発言です。監督は『バットマン&ロビン』で、アーマーに乳首をつけちゃったことでも知られるジョエル・シュマッカーなんですが、衣装合わせのとき、マシューにこう言ったと書かれていました。「もっとピチピチのパンツを履けば、私は君をスターにしてあげるよ」って。今だともうセクハラですが、当時は笑い話ですよ。

── ピチピチのパンツだったんですか?

渡辺 いや、ダボダボのチノパンでした。役柄が弁護士なので、さすがにピチピチはなかったんでしょうね。

『評決のとき』

後に、クライブ・カッスラーの生み出したヒーロー、ダーク・ピットを演じた『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』(05)のインタビューのときは、自分のキャリアについてこう語っていました。

「私のキャリアは逆さまで、『評決のとき』に出演したことで、キャリアの最初に有名になってしまった。映画史的に見ても、これほど注目された新人はいないんじゃないかというほどで、恐怖すら感じたよ。でも、ラッキーなことに、それから10年経っても、こうやってインタビューを受けることができている。こう見えても、その10年間でちゃんと成長しているんだよ(笑)。」

ちなみに、このときのインタビューは、彼の希望で、映画のキャンペーンで全米を回ったときに使った“サハラ・トラック”の中で行われたんです。彼が運転席、私は助手席に座ってやったんですが、周囲にはパパラッチがたくさんいて、私は大変居心地が悪かった(笑)。深夜、岩の上でお尻を出して動物の鳴き声を真似していたなどの奇行でも知られていた人なので、「変わり者というのは本当なんだ」って思いましたけどね。

『サハラ』

── それほどマシューの人気が高かったということですか?

渡辺 いや、この作品でペネロペ・クルスと共演していて、彼女との恋愛が話題になっていたからパパラッチが集まっていたんです。マシューは「みんな、君が僕の新しい恋人だと思っているかもね」と大笑いしてました。

このとき、ペネロペの取材もしたんですが、本当につき合っている感じではなくて、宣伝の一環だったんだと思います。

ファミリー

── それは稀有な経験ですね(笑)。まさか、その変人さんがオスカーホルダーになるとは、という感じがします。

渡辺 やっぱり、ちゃんと軌道修正できるかなんでしょうね。シャツレスアクターには年齢制限がありますから、その前にちゃんと体を見せなくてもいい役者になった。とはいえ、健康にはめちゃくちゃ気を遣っているようで、インタビューでは必ず食べ物について話しています。

「僕がいつも食べているのは穀物と魚と野菜。最近はそれにバッファローステーキが加わった。脂身が少なくてもとても美味しいんだ」って。いつだってシャツレスになっても対応できるボディはキープしているんだと思いますよ。

── 『ビーチ・バム』ではシャツレスしているんですか?

渡辺 してなかったような気がします。アルコールとドラッグ漬けの中年オヤジですから当然、体もプヨプヨじゃなきゃいけない。でも、鍛えた体のままなので脱がなかったのかもしれない。普通とは反対ですが、それも彼らしいような気がします(笑)。

※次回は5/11(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
(C)2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.
(C)2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Photo:AFLO

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