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乃木坂46 井上小百合、弛まぬ努力で切り開いた女優への道 グループ卒業に寄せて

リアルサウンド

20/4/28(火) 6:00

 4月27日に約8年半在籍した乃木坂46を卒業した井上小百合。『えんぶ』2020年4月号にて発表された「えんぶチャート2019」俳優部門で94位(女性アイドルでトップ)にランクインしたように、卒業後は女優としての活躍が充分に期待できるだろう。しかし、彼女のアイドル人生は決して平坦な道のりではなかった。

参考:乃木坂46 井上小百合が卒業発表 選抜・アンダー・舞台演劇でグループの基盤を築いた功績

 「役者になりたい」という夢を抱いて15歳で芸能界に入った井上だが、オーディションを受けては落ちるという日々を送っていた。そんな時、「アイドルになるのはどうだろう」という助言をもらう。最初はアイドルに抵抗を感じていた井上だが、経験を積むことの必要を感じて一歩踏み出すと、仕事をしながら役者を目指すことができ、自分のことを知ってもらえるかもしれないアイドルは自分にうってつけだと気づいた。

 2011年8月に乃木坂46のオーディションに合格すると、井上の人生は大きく動き出す。念願の舞台に出演することができたのだ。しかし、乃木坂46メンバー総出演の舞台『16人のプリンシパル』に井上は戸惑う。第1幕を見た観客が投票し、選ばれた者だけが第2幕に出演できるシステムだったのだ。

 「お芝居って、もっと楽しくて、元気をもらえるようなものだと思っていたのにと。どうしてお芝居で大切な人たちの涙を見なければならないのかと思いました」(参考:井上小百合 1st写真集『存在』)。それでも井上は精一杯取り組んで、結果を出すしかなかった。

 その努力が実り、外部の舞台である學蘭歌劇『帝一の國』(2014年4月から5月)の白鳥美美子役に選ばれる。『16人のプリンシパル』を観たスタッフがオファーしたという。井上が初めて報われた瞬間だった。

 役をもらえない苦しさも16役を覚える苦しさの両方を経験している井上にとって、ひとつの役を追求できること自体が尊い時間になり、井上は『帝一の國』で舞台の楽しさを知った。

 一方、乃木坂46では2014年4月に『アンダーライブ』(シングル非選抜メンバーで構成されたライブ)が始まり、6~7月にシリーズ化。10月に行われた『アンダーライブ・セカンドシーズン』では、センターの井上がケガに苦しみながらも立ち上がる姿を見せて求心力を一気に高めた。その時のセンター曲「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」は全体ライブの定番曲になる。

 その後、井上は『すべての犬は天国へ行く』や『墓場、女子高生』などの乃木坂46メンバー中心の舞台、『音楽劇『夜曲』nocturne』や『若様組まいる~アイスクリン強し~』といった外部の舞台を通して、芝居の実力を身につけていく。

 2019年、井上の夢が実現する。外部の舞台に4本出演することになったのだ。

 3月の『愛のレキシアター「ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ」』では、山本耕史をはじめとした人気と実力を兼ね備えたキャストの中でしっかりと存在感を示すことに成功。八嶋智人などの先輩俳優たちから愛されていることも伝わった。同じ年齢の松岡茉優には芝居だけでなく、その生き方に感銘を受けたという。

 6月の『SLANG』は、井上以外のキャストが全員男性という舞台だった。「負けたくない」という思いでぶつかり、“アイドル”という先入観を払拭させた。

 9月の『Little Women -若草物語-』は、ブロードウェイミュージカルの日本初演作品。井上が演じたベスは病弱ながら誰よりも優しい心を持った女性だ。『乃木坂工事中』(テレビ東京系)で「口が悪い」とイジられたこともある井上が発さないような上品なセリフも多かったが、ボランティア活動に積極的に参加するように心根の優しい彼女だから演じることができたのだろう。小劇場演劇が好きな井上だが、この舞台で幅を広げることに成功する。

 10月の『フラガール』では、ついに主演を務める。『若草物語』の楽屋でフラダンスの練習をするほど時間に追われていたが、本番ではセンターが似合う井上らしく主役の輝きを放っていた。

「まどか先生(矢島舞美)やフラガールのメンバーと出会っていきながらどんどん成長していって、大人たちを変えていく。自分もそんな感じだなと思っていて。乃木坂46のメンバーやドラマや映画、舞台でいろんな共演者の方々に出会っていきながらどんどん成長して。何もないと思っていたけど、ちょっとずつ何かを掴んでいく感じが、自分の人生とも少しリンクしているのかなって思いました」(参照:ランキングBOX)。

 2020年7月から乃木坂46の活動を休止していた井上だが、このタイミング(10月5日)で卒業を発表した。「ひとりでやっていけるかもしれないスタート地点に、乃木坂46のおかげで立たせてもらえるようになった」(参照:『乃木坂46×週刊プレイボーイ2019』)と感じたからだ。

 井上は「ひっそり」と卒業しようと考えたこともあったが、これは乃木坂46で出会ったファンに対する愛があってこそだった。グルーブ卒業後も芸能の世界で生きていこうとしている井上にとって、これからも一緒に歩んでいきたいファンにお別れを言う必要性を感じていなかったのだ。

 しかし、熱烈なハロプロファンとしても知られている松岡茉優の助言もあって、ファンの方たちに感謝の気持ちを表すためにも「アイドル・井上小百合の最後を見せたほうがいい」と、今年3月リリースの25thシングル『しあわせの保護色』に参加し、ファンのためのセレモニーの開催(日程は未定)を決断した。

 松岡はパーソナリティを務めているラジオ番組『マチネのまえに』(TBSラジオ/4月12日放送)で「私はモーニング娘。が大好きで、普段はそれをもらう側ですから、与える側の彼女(井上)の意見を聞いて、『そんなふうに思ってるんだな。そういうふうに考えてくれてるんだな』と勉強になったし。さゆにゃんのファンの人には怒られちゃうかもしれないけど、『ファンとしての気持ち』を少しだけ代弁してみたりもしました」と語り、リクエスト曲の「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」を流した。

 井上にとってアイドル最後のライブは今年2月に行われた『8th YEAR BIRTHDAY LIVE 2020』の1日目、2日目になった。1日目には「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」をパフォーマンス。そこにはいたのは5年半前の「弱い自分を奮い立たせる井上小百合」ではなく、現在の「清々しく前を向いている井上小百合」だった。「アイドル・井上小百合」の到達点を見た気がした。

 その一方、井上は今年も舞台に立ち続けた。1月の『天国の本屋』では、オリジナルミュージカルを作り上げていく楽しさを学んだ。3月の『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』では、一部公演が中止になってしまったが、とびっきりキュートでありながら「ある問題」を抱えている花屋の店員・オードリーを演じた。

 花といえば、井上小百合は自身の名前の由来について、2012年4月28日に更新されたブログでこう綴っている(参照:井上小百合 公式ブログ「わたしっ ++」)。

「昔からうちの庭には、立派な松ノ木や、鳥などの動物の形に整えられた植木、盆栽や、沢山の花たちが いっぱいあったのですが、その中に ぽつん って、毎年 一輪だけ鉄砲百合が 咲くそうなんです。別に、種を植えた訳でもないのに、その百合は、強く根をはって毎年 花を咲かせます。そこから、その百合の花のように凛とした美しい女性になってほしいと名付けられました」

 2020年4月27日、ブログに「アイドルになってよかったです!」(参照:井上小百合 公式ブログ「La Fin!」)と書き残してグループを卒業した井上小百合は、新たなステージでも凛とした美しい花を咲かせることだろう。(大貫真之介)

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