ユダヤ系ポーランド人であるイエールジ・コジンスキーは、きわめて数奇な人生をたどった天才作家だが、幼少期はカトリック教徒になりすましてホロコーストを逃れた経験があり、この時期の心的外傷で話すことができなくなった。本作はその記憶に根ざした自伝的原作の映画化だが、3時間近い少年の地獄めぐりの記である。ドイツ軍またはロシア軍に進攻された村や町を彷徨しながら、少年は戦時下ゆえにむき出しになった人間の暗くおぞましい側面に次々に巻き込まれる。常にのどかで美しい風景のなかで、残虐さと暴力性が際立つ。バーツラフ・マルホウル監督の視座はどこまでも澄明で長さも感じさせないが、この地獄図を描写しつくした後の、もう一段の跳躍が欲しかった。みごとな語りではあるのだが……。少年が出会う大人たちとしてハーベイ・カイテルやウド・キア、ジュリアン・サンズ、ステラン・スカルスガルドらが続々登場するのも嬉しかった。