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玉川奈々福の 浪花節的ココロ

命と覚悟と恋情と~小松村七五郎の女房お民

毎月連載

第9回

19/8/7(水)

 どうも浪曲の登場人物たちは、命を軽く扱います。「1人の命は地球より重い」と、かつてこの国の総理大臣がおっしゃったそうです(いまの総理大臣がそう思ってるかは知りませんが)。
 清水次郎長伝の中で唯一女性が大活躍する話、『お民の度胸』。小松村七五郎の女房お民という人がいます。
 自分たちが間もなく斬られて死ぬかもしれない絶体絶命の状況の中で、亭主にさらりと、「二人で心中したと思って諦めちゃおう」なんて言うのです。諦めちゃおう???
 同じく次郎長伝に登場する森の石松という人も、親分次郎長に対して「惚れたおめえに斬られて死んだら本望だい。さ、遠慮なく、斬ってやっておくんねえっ!」と、親分の前にあぐらをかき、首筋叩いて啖呵を切る。

 おいおいおいおい。
 なぜ、彼らは命を軽く扱うのか。

 無宿人。世間のはみ出し者。社会の最下層の、吹けば飛ぶような存在であることを、彼らは痛いほどに自覚している。そんな人間にとって、命を賭ける瞬間だけが唯一の自己証明、だからではないか。

 それにしても、その大胆さよ。
 では、何に命を賭けているのか ──自身を裏切らないこと。自分の、誠。
 浪曲の物語の中の人たちの、これ、ひとつ大きな美徳です。

 「命を失っても、自分を裏切らない」

 人と生まれて、こう生きられたら本望だ。またよりによって、絶体絶命の状況で、恋情をほとばしらせたりするから、こっちは演じてて……気持ちいいやら可笑しいやら...

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