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赤い公園 津野米咲、モー娘。「泡沫」でポップセンス発揮 バンド活動にも表れた“音楽深化”

リアルサウンド

16/5/27(金) 14:00

 モーニング娘。’16「泡沫サタデーナイト!」が話題だ。久々となるストレートな“赤羽橋ファンク”全開のダンスナンバー。カラフルでコミカルに展開していくMVも相俟って、YouTubeの再生回数も軒並み上昇中である。

モーニング娘。’16『泡沫サタデーナイト!』

 鈴木俊介による巧みなファンクアレンジから滲み出る往年のハロー!プロジェクト感。作詞作曲は赤い公園のギタリスト・津野米咲。楽曲コンペで採用され、結果としてモーニング娘。’16が歌うことになり、メロディも構成もシンプルにしたと語っている。一聴して耳馴染みのよさがありつつも、音の飛び方など、実際歌ってみると難しいという津野らしいメロディ。低めのAメロにはじまり、流れるBメロ、そこから一気に開放されるサビ、という解りやすい王道的なJ-POPになぞらえる津野作風。「漢字+カタカナ」のタイトルは赤い公園における常套手段でもある。

 “ハロプロの大ファンである津野の曲”という先入観を持って聴いてしまう部分もあるが、そもそもハロプロをひっくるめたJ-POP素養によって津野の音楽が形成されたと考えるのほうが正しいのかもしれない。SMAP「Joy!!」(2013年)をはじめとした楽曲提供で類稀なるポップセンス、生粋の“じぇいぽっぱー”っぷりを現していたが、外部提供曲もバンド曲も本質は変わらない。つかみどころのない音楽性として知られる赤い公園も、一癖あるサウンドの中に見え隠れする慎み深いポップセンスを奥ゆかしく体現しているバンドだ。オリジナル曲もさることながら、シングルカップリングで恒例となっているJ-POPカバーも「LA・LA・LA LOVE SONG(久保田利伸)」「POP STAR(平井堅)」……、といった選曲なんて、普通のロックバンドだったら怖くて踏み込めない領域である。

メンバーが演奏に参加し、メインボーカルが変わった赤い公園状態の遠藤舞「MUJINA」

 そんな赤い公園がますます面白くなってきている。その要因のひとつが、自分たちだけでなんでも器用にこなせるはずなのに、それを敢えてやらない選択をしていることだ。3月にリリースされたアルバム『純情ランドセル』は5人のプロデューサーを迎え入れている。個性的な音楽を武器とし、セルフ・プロデュースを行っていたバンドに外部の人間が関わるとなれば、あまり良いイメージを持たれないのが普通である。しかし、はじめて外部プロデューサーを迎えた前作『猛烈リトミック』が示したのは良い意味での“メジャー感”だった。蔦谷好位置なくして「NOW ON AIR」のあの閃光を放つようなきらびやかなアレンジは生まれなかっただろうし、亀田誠治による「絶対的な関係」の暴力的なサウンドしかり、結果として楽曲にさまざまな彩りを与え、バンドの方向性をより明確なものとした。

 バンドのほぼ全曲の詞曲を手掛ける津野は、外部プロデューサーを迎えることに対し、「機会がなかっただけ」「ギタリストに徹することができる」などといった抵抗のない旨を発言しており、楽曲を客観視する第三者的存在として、そこから生まれる化学反応を楽しんでいるようにも思える。赤い公園本来の魅力を損なわずに新たな可能性を引き出してくれる、いわば赤い公園とプロデューサーとのコラボレーションでもある。『純情ランドセル』のプロデュースは前作に続き、亀田や蔦谷といった、いかにもな面々から、津野が楽曲提供したBOMIを通じて繋がったというPABLO(Pay money To my Pain)、そして會田茂一という個性派バンドマンに至るまで幅広い。中でもaikoやいきものががかりなどのメインストリーム寄りJ-POPヒットを手掛ける島田昌典の起用は興味深いところだ。楽曲に見合ったタイプの違う複数のプロデューサーを人選を含めてトータル・プロデュースし、作品をプロダクト・コントロールしているといっても過言ではあるまい。

津野の“ひねくれた”ポップセンスが爆発する、BOMI「月曜のメランコリー」

 近年はアレンジを含めた楽曲トラック制作や、ロックバンドにおいてはリフやリズム、アレンジ、はたまたサウンド自体が楽曲の構成要素となるわけで、作曲者の定義は場合によってそれぞれだ。しかし、「歌メロを作った人が作曲者」という暗黙の諒解が古くからあることも事実で、いつの時代もどんなアレンジを用いても楽曲の本質が変わらない普遍的なメロディは強い。赤い公園がさまざまなプロデューサー&アレンジャーを迎えるのも、いうなれば津野自身がメロディ&ソングラインティングに絶対的な自信を持っている表れでもあるだろう。とにかく歌メロディを第一優先とした80〜90年代のアニメソングを数多く手掛けていた作曲家・つのごうじを父に持ち、クラシックからジャズ、幅広い音楽を聴きながら、王道なロックだけは通ってきてないというバックボーンを持つ津野らしいところでもある。

アコースティックライブでの「NOW ON AIR」

『純情ランドセル』で魅せつけた音楽深化

 『純情ランドセル』は『猛烈リトミック』で得たものを更に深化させた赤い公園の姿が詰まっている。ロックバンド然としたビートの「KOIKI」、きらめきある美しいメロディの「Canvas」、はたしてこういうタイプの曲までやる必要性があるのだろうか……、と思ってしまった時点で完全に負け、良い意味で裏切られた「黄色い花」、といったまったく異なるベクトルを向いた3曲のシングルから、限界のない音楽の振り幅にただならぬ予感を感じさせていたが、その期待を裏切らない内容である。

赤い公園アルバム「純情ランドセル」全曲試聴映像

 十八番の赤い公園節でありながら、サウンドはサイケデリックで新たな息吹を感じる「ボール」の幕開けから、綿密な音の構築がより細やかに行き届いているのは一聴瞭然。アーバン・ソウルな「ショートホープ」、ノスタルジックでマジカルな音に包まれる「デイドリーム」など、これまで以上に懐の広さ。なにより彼女たちの自信が溢れており、生き生きとした音に表れていることだ。「KOIKI」で既に感じられた、暴れているんだけどうるさくならない腰が据えたドラミングの歌川菜穂(Dr)、妙に色気のあるグルーヴを弾き出す藤本ひかり(Ba)、いつになくギタリストしている津野、そこに乗る格段に表現力が増した佐藤千明(Vo)の歌、演奏面での成熟度も増している。そして、スターリング・サウンドのシニアエンジニア、トム・コイン氏によるマスタリングのクリアで立体感のある音像が、赤い公園の創りだす優美な音空間を引き立たせている。

 そうした大人びた雰囲気の反面で、ユニークな側面を見せるのが「東京」と「西東京」だ。東京都立川市出身ならではの彼女たちにしか成し得ない説得力で攻めていく。同じ東京都といえど、23区とそれ以外の地域ではまったく違う感覚だったりもするわけで。かといって地方出身者ほどの憧れも怖さもない東京観、そんな微妙な距離感から見た、野暮ったさを感じさせる曲調の洗練されたいない「東京」と、多摩地区・西東京ならではのオラオラのヤンキーノリが凄まじくも微笑ましいパンキッシュな「西東京」の対比。「ああ、田無タワーって天気によって照明の色が変わるんだよなぁ、」なんて思い出した西東京出身者は、だいたい友達 ……なんてことを考える、上京者とはまた違った解る人にしか解らない絶妙な郷愁である。

 ほぼ全曲2分前後〜4分弱、最長でも4分強、全14曲約48分という相変わらずのコンパクトさだが、短さを感じさせない凄まじい情報量であり、飽きさせない短さでもある。攻撃性を持ちながらも、実に女性らしく官能的。聴きやすさとクセになる気持ち悪さを共存させるバランス感覚はさすが。こんなバンド名で白装束に身を包み、毒々しく狂気に満ちた音楽を轟かせていたバンドが、マニアックさ一辺倒な音楽に偏るわけでなく、貪欲にポップ性を追求した音楽探究をし続け、明確に打ち出しているという事実にあらためて驚愕する。

 先日行われた『J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S』において、イベント・オーガナイザーの亀田誠治が「軽音楽部の女子のノリなんで、レコーディング現場はとにかくうるさいっ!!」と言っていたが……。ディープな音楽とは裏腹にドキュメンタリー映像『情熱公園』やラジオ『オールナイトニッポン0 [ZERO]』などで知る彼女たちの素の姿は、まぎれもなくただの愛すべきおバカな女子たちである。複雑な音楽を造り、それを我々ファンがこうして勝手な解釈で小難しく深読みしている様子を本人たちはニヤニヤ眺めているかのような……もう、赤い公園の思う壷なのだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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