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『ドカベン』は野球界における“予言の書”か? 漫画のプレイが現実になった瞬間

リアルサウンド

20/10/16(金) 8:00

 野球漫画のパイオニア、『ドカベン』。山田太郎、岩鬼正美、殿馬一人らが所属する明訓高校が数多くの強敵を相手に戦うストーリーは多くの野球少年に影響を与えた。

 また、『ドカベン』に加え『球道くん』『一球さん』『ダントツ』など水島新司作品の登場人物が総登場した『大甲子園』もファンが多い。

 そんな『ドカベン』と『大甲子園』は、作中に描かれたことが、後に現実になることが少なくない。そこで今回はそんなシーンを振り返ってみよう。

5打席連続敬遠

 『ドカベン』が現実になったプレーのなかで多くの人に強いインパクトを与えたのが、山田太郎の5打席連続敬遠だ。山田が2年の春の甲子園大会で、明訓高校は江川学院と対戦。そこで先発したのは、控え投手の中二三男だった。

 2回戦でノーヒットノーランを達成した中は、山田太郎との勝負を徹底的に避け、3打席連続敬遠。さらに8回には1点リードの満塁でありながら敬遠し、同点に追いつかれてしまう。山田は延長戦に入った10回にも歩かされ、5打席連続となった。明訓高校は殿馬の活躍でサヨナラ勝ちしている。(ドカベン28巻)

 5打席連続敬遠が現実になったのが、1992年の甲子園·明徳義塾高校対星稜高校戦だ。当時山田太郎にも匹敵する打者として名を馳せていた星稜高校·松井秀喜選手に対し、明徳義塾が全ての打席で勝負を避け、敬遠する。星稜高校が負けてしまったことから、5打席連続敬遠はニュースなどに取り上げられ、議論を巻き起こした。

 この連続敬遠では、松井選手と山田が一度もボールに手を出すことなく一塁に歩いている。ボール球に手を出さず、ひたすらストライク待つ姿勢を貫いたことで、「スラッガー松井秀喜」の評価が高まった。そしてプロ野球に入り、歴史に名を残す大選手になったのだ。その点も共通しているといえるだろう。

ルールの盲点

 山田太郎が2年だった夏の甲子園神奈川大会。不知火守率いる白新高校との試合は、山田が超スローボールを武器にした不知火に手も足も出ず、大苦戦する。

 10回表、1アウト満塁のチャンスを迎えた明訓高校は、5番の微笑三太郎がスクイズを敢行。しかしピッチャーフライとなり、飛球を捕球した投手はランナーが飛び出していた一塁に送球し、ダブルプレーでチェンジ。得点は認められないものと思われた。

 ところが一塁がアウトになる前に、スクイズのためスタートを切っていた三塁ランナーの岩鬼がホームベースを踏んでいたのだ。ここで白新高校がアウトを3塁走者で成立するようアピールしていれば0点だったのだが、一塁でアウトを取ったうえ、アピールせずベンチに戻ったため、1点が認められた。(ドカベン35巻)

 非常に難解なルールを描いたことに、掲載当時、賛否両論。現実ではありえないプレーとされていたが、2012年にこのプレーが甲子園で再現される。済々黌高校対鳴門高校戦で、済々黌が1アウト1塁3塁からショートライナーを放った際、ショートがライナーを捕球後、ボールを1塁に送球。1塁ランナーがアウトになる前に3塁ランナーがホームを踏み、アピールもなかったため、得点が認められたのだ。

 試合後、済々黌の三塁ランナーが「漫画のドカベンで知っていた」と話し、『ドカベン』を参考にしたことを告白している。このプレーは「ドカベンプレー」とも呼ばれ、現在は野球選手や関係者に周知されている。

高校生で160キロ

 『大甲子園』で、青田高校の中西球道が山田太郎に対し、163キロのボールを投げ込んだ。(『大甲子園』23巻)なお山田はこの球をライトラッキーゾーンにホームランしている。当時高校生で160キロを投げる投手は「ありえない」と思われていた。

 ところが2012年、花巻東高校の大谷翔平投手が夢の160キロを投げ、「160キロを投げる高校球児」が現実になる。さらに2019年には、大船渡高校の佐々木郎希投手が、紅白戦ながら中西球道にならぶ163キロを記録。県大会でも、160キロを投げている。漫画に時代が追いついたのだ。

1番ピッチャーで先頭打者ホームラン

 『大甲子園』の明訓高校対青田高校戦。前日の試合が延長18回引き分け再試合になったことから、エースの里中智に代わり岩鬼正美が1番ピッチャーで出場する。

 悪球しか打てない岩鬼は、捕手のミットを見て、その位置にバットを合わせるよう画策。するとミットを見すぎていたため、顔めがけてボールが来ることになり、咄嗟にバットを出す。コツンと当たっただけだったが、打球はレフトスタンドめがけて飛んでいき、プレイボールホームランとなった。(『大甲子園』23巻)

 「1番ピッチャーが先頭打者ホームラン」はそもそもピッチャーが1番に入ることが珍しく、再現不可能と思われていたが、これを実現させたのが北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手だ。

 2016年7月3日の福岡ソフトバンクホークス対北海道日本ハムファイターズ戦で1番ピッチャーに起用された大谷選手は、初球をライトスタンドに叩き込むホームラン。これは長いプロ野球の歴史でも史上初の出来事だった。そして、このホームランのあと「これまで1番ピッチャーで先頭打者ホームランを打ったのは岩鬼だけ」とメディアに取り上げられることに。

 大谷選手は「投手で160キロ」に続き、「漫画の話」を現実にしてみせた。岩鬼が避けたバットに当たったホームランだったのに対し、大谷選手はしっかり振り抜いてのホームラン。漫画を凌駕したと感じた人も多かった。

次々に現実となる水島ワールド

 連載されていた頃、「現実には起こり得ないだろう」とされたことが、次々と現実になっている『ドカベン』と『大甲子園』。水島氏の先見の明には、驚くばかりだ。

■書籍情報
『ドカベン』既刊48巻
水島新司 著
出版社:秋田書店

『大甲子園』既刊17巻
水島新司 著
出版社:秋田書店

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