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スティーブ・ジョブズも愛した「旅情詩人」の足跡をたどる 『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』SOMPO美術館にて開催中

ぴあ

川瀬巴水《加賀八田》1924年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

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浮世絵版画の手法を用いて、大正から昭和かけての風景や人物をみずみずしく描き出した「新版画」の代表的作家、川瀬巴水(かわせはすい、1883~1957)。彼の足跡を振り返る展覧会、『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』が、SOMPO美術館で12月26日(日)まで開催されている。

幼少期から画家を志していた川瀬巴水は、10代の頃に日本画家に入門したものの、家族の反対などもあり一度は道を諦め、家業を継ぐ。しかし、芸術の道を諦めきれず、27歳にして鏑木清方に入門。そこで同門の伊東深水の風景版画に心ひかれ、版画の道へと進んでいくこととなる。

深水の版画を手掛けていた版元の渡邊庄三郎は、新時代の版画「新版画」を提唱した人物。江戸時代から続く浮世絵の技術や表現法を継承しつつも、芸術性をさらに強めた新版画と巴水の絵が好相性であることをいち早く見抜き、二人三脚で次々とヒット作を世に発表していく。

展示風景より

本展は、時系列に沿って3章構成で巴水の作品を紹介。「第1章 版画家・巴水、ふるさと東京と旅みやげ」では、デビュー作の「塩原三部作」や「東京十二題」、「旅みやげ」など、初期の人気作を紹介していく。

川瀬巴水「塩原三部作」1918年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

デビュー作の「塩原三部作」は、巴水ゆかりの土地である塩原を舞台にしたもの。巴水はのこぎりの歯のようなギザギザした輪郭線や、抑揚をつけた線を作品に用いている。「塩原三部作」の一点、《塩原おかね路》では、岩肌などにその手法が用いられている。これらの表現は浮世絵ではタブーとされていたもの。巴水はデビューの時から挑戦を試みていたのだ。

川瀬巴水《塩原おかね路》1918年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

デビューが好評だった巴水は全国各地を旅し、その風景を描きためた。巴水が各地で描いた写生は、その後のヒットする連作『旅みやげ』へと結実していく。

川瀬巴水の写生帖第9号 朝日嶽と八ヶ嶽 1924年 大田区立郷土博物館
川瀬巴水 東京十二題 左《五月雨ふる山王》 右《こま形河岸》1919年  木版、紙 渡邊木版美術画舗

しかし、1923年に関東大震災が巴水を襲う。自宅が全焼し、全国各地を描いた写生帖も消失。また、ときには「歌川広重の模倣だ」とそしりを受けることもあった。
「第2章 「旅情詩人」巴水、名声の確立とスランプ」では、逆境をはねのけて制作した、代表作でもある《馬込の月》などを紹介。ひたむきに制作にはげむ巴水を追う

川瀬巴水《芝増上寺》 1925年 木版、紙 渡邊木版美術画舗
川瀬巴水「旅みやげ第三集」 左《福岡西公園》 右《周防錦帯橋》1928年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

また、川瀬巴水の充実した資料を収蔵する大田区立郷土博物館の版木をスケッチ、作品とあわせて展示。巴水の絵の制作プロセスに思いを馳せることができる。

奥《池上市之倉(夕陽)》版木、手前 川瀬巴水 写生帖22号 市倉
川瀬巴水 《池上市之倉(夕陽)》1928年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

人気作家でありながらも、自身の作品の代わり映えのなさに葛藤を抱えていた巴水は、1939年、画家仲間に誘われて朝鮮旅行へ赴く。それまで見たことのなかった広大な風景や、見慣れぬ文化に魅了された巴水は、「朝鮮八景」「続朝鮮風景」シリーズを発表。大胆な構図と精微な描写が組み合わさったさらなる新境地を開拓した。

展示風景より 川瀬巴水「朝鮮八景」1939年 木版、紙 渡邊木版美術画舗
展示風景より 川瀬巴水「朝鮮八景」1939年 木版、紙 渡邊木版美術画舗

そして戦後、進駐軍関係者たちが次々と木版画を買い求めたことから、戦前にも劣らない空前の版画ブームが訪れる。このブームにより大量の新版画がアメリカに渡り、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズを魅了し、彼は20代後半から巴水の作品収集を開始した。本展ではジョブズと新版画に関する資料も合わせて展示する。

色鮮やかに、そして細やかに描写した風景画で日本人のみならず世界中の人々を魅了した川瀬巴水。その独特の世界をしっかりと堪能してみよう。

なお、11月17日(水)からは後期展示となり一部展示が入れ替えられる。川瀬巴水の人気作《The Japan Trede Monthly表紙(No,68)》は後期からの登場だ。雪が積もった夜の日本庭園に真っ赤な服を着たサンタが横切るという、一度見たら忘れられない構図を描けたのも、巴水が外国から愛された理由なのかもしれない。

構成・文:浦島茂世

【開催情報】
『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』
10月2日(土)~12月26日(日)、SOMPO美術館にて開催。
※会期中に一部展示替えあり
前期:10月2日(土)~11月14日(日)
後期:11月17日(水)~12月26日(日)

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