Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『チャンネルはそのまま!』が傑作になった理由 芳根京子キャリア最高の好演がもたらすユニークさ

リアルサウンド

20/1/5(日) 10:00

 北海道のローカルテレビ局HTBの開局50周年を記念して製作されたドラマ『チャンネルはそのまま!』が、2019年日本民間放送連盟賞のテレビ部門でグランプリを受賞したことを受け、1月5日からテレビ朝日をはじめ全国各局で放送される。これまでHTBを皮切りに全国各地のローカル局を転々としながら放送されており、それに加えてNetflixでのグローバル配信と、まさに娯楽の多様化の中でテレビドラマが置かれている複雑な現状を体現してきたかのような流れを歩んできた本作。この機会に改めて、その作品としての魅力をまとめてみたい。

参考:ほか場面写真はこちらから

 昨年夏クールにTBS系列でドラマ化された『Heaven? ご苦楽レストラン』で知られる漫画家・佐々木倫子の同名コミックを原作にした本作の舞台は、HTBを彷彿とさせる(現に社屋の外観は南平岸にある旧社屋が使われている)北海道のご当地テレビ局「北海道ホシテレビ」。そこに何年かぶりの“バカ枠”として採用され、報道部に配属された新人・雪丸花子を中心に、彼女の世話係(通称:バカ係)を任された山根をはじめとした同期入社の面々がそれぞれの仕事で直面する悩みや、ライバルテレビ局からの嫌がらせなど、テレビ局のドタバタとした内幕がコミカルに映し出されていく。

 大泉洋をはじめとしたTEAM NACSメンバーの総出演や、個性豊かなキャラクターたちが見せるユニークな掛け合いなど、“北海道エンターテインメント”色をいかんなく押し出した雰囲気に、総監督を務める本広克行の代表作である『踊る大捜査線』を彷彿とさせるような小さなトラブルが大きな事件へと発展していく展開。さらにはテレビ局という特殊な職業の舞台裏から、『同期のサクラ』さながらの同期入社の仲間たちの結束のドラマなど、全5話という比較的短い中に、ありとあらゆる面白みが凝縮された作品というだけで、その贅沢さから極めて高く評価できよう。そして最終話に待ち受けている、それまでののほほんとしたコメディ展開とは打って変わったスリリングな展開は、近年のドラマの中でもまさに出色の出来栄えである。

 その本作をさらに無二の傑作へと押し上げているのは、やはり主人公・雪丸花子を演じている芳根京子の演技に他ならないだろう。NHKの朝ドラ『べっぴんさん』で全国的な知名度を獲得して以後、月9ドラマや時代劇から、アニメ声優など様々な役柄に挑戦してきた彼女ではあるが、その真骨頂はコメディ作品で発揮されるのだと改めて感じる。予想外の動きで画面内を動き回り、コミカルな雰囲気を補うように登場する文字情報に持っていかれることなく自身の表情だけで笑いを生み出し、コメディに欠かすことのできない“間”を完璧に掌握する。今後芳根京子という女優の代表作として真っ先に挙げられてもおかしくないほど、キャリア最高の爆発的な好演といっても過言ではないだろう。

 そして、そんな雪丸にかき回されていく周囲の人々に訪れる微かな心の変化も本作を彩る重要な部分だ。往々にして、このタイプの“お仕事ドラマ”というものは主人公の変化や成長が物語の軸として描かれることが主流ではあるが、本作ではそのような展開にはならない(その点もまた『同期のサクラ』に近しい部分と思える)。あくまでも“テレビが好きな視聴者”という視点のままテレビ局内を内側からかき回していく雪丸が、無意識に自分らしさを貫くことで、自然と周囲はその影響を受けていく。そう文字にすると、雪丸はあたかも視聴者の代弁者であるかのように思えるが、それもまた違う。視聴者とはまた違う位置で、無軌道に自分の世界を飛び回っている。よって回を重ねても、主人公と他の登場人物とのギャップが常に広いままありつづけることになり、殊更本作のユニークさを高めていくのである。

 また、本作には“スポンサーありき”で進められる昨今のテレビ業界に向けた問題提起を促す側面も有している。無論それは、視聴者に向けてはひとつのステートメントのようなものに過ぎず、直接そのテーマを投げかけられるのはテレビ関係者などの作り手側にあるわけだが、“視聴者ありき”というものであると同時に、何よりも“とにかく面白いものを作る”というあまりにも純粋なその気概は、いち視聴者の目から見ても極めて好意的に映るのではないだろうか。複雑なテーマ性が込められた作品であっても、視聴者に見える部分はひたすら楽しいだけのエンターテインメントであり、その中に密かに深い意味合いが込められている。それこそが、真のエンターテインメントと呼ぶにふさわしいものと呼べよう。

 最終話の佳境で、本作の監督を務めている藤村忠寿自らが演じる情報部部長・小倉のセリフにこうある。「いまテレビの前にいる人たちが、そのとき観たいものを放送する。それがテレビ局の使命」。いつでも観たい時に観たい作品を観るというのが常識になっている現在で、崩れかけているテレビならではの面白さ。多くの人と同じ時間に同じものを体験する。それもまたひとつの“臨場感”だ。このドラマにとって、ようやく全国規模の“臨場感”が味わえる機会でもある今回の放送のタイミングは、より本作の魅力と今日性を高めてくれる、またとない機会となるに違いない。(文=久保田和馬)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む