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アニメ化決定『ましろのおと』の見どころは? 羅川真里茂の“人生を描く”筆力

リアルサウンド

20/12/13(日) 11:00

 来春からアニメのオンエアが決定した「月刊少年マガジン」で連載中の羅川真里茂『ましろのおと』は、「津軽三味線」の奏者たちの成長を描き人気を集める作品だ。作者の羅川真里茂自身が青森県八戸出身ということもあり、リアルな津軽弁も魅力のひとつとなっている。

 主人公の澤村雪は、青森県で生まれ、兄の若菜と共に祖父の松吾郎が弾く津軽三味線の音を聞いて育った。そんな雪が師匠でもある松吾郎が亡くなったことを機に、自分の音を探すため上京することから物語は始まる。

津軽三味線が繋ぐ「家族」

 作者・羅川真里茂の代表作と言えば『赤ちゃんと僕』だ。母を亡くし、父と幼い弟と3人で暮らす拓也の物語。親子3人の生活、多感な時期を送る拓也の心情を丁寧に描いて、連載終了から20年を経た今でも多くのファンから親しまれている作品だ。

 本作『ましろのおと』でも、『赤ちゃんと僕』と同じようにさまざまな家族の形が描かれている。特に雪の家族は複雑だ。雪は祖父・松吾郎を慕い、兄である若菜のことは信頼しているが、母の梅子とは兄弟そろって険悪。

 梅子は青森の家を出て、ビューティー系の会社を設立し、そこで財を成していた。毎月100万円の生活費は振り込んでいるが、子育ては松五郎任せ。そんな梅子は、父である松吾郎の才能が世に出なかったことを悔やんでおり、その「音」を若菜か雪に継がせようとしている。雪が高校で津軽三味線愛好会に入ったと知れば、津軽三味線甲子園「松吾郎杯」を開催し、若菜を強引に津軽三味線奏者としてデビューさせ、売れっ子アーティストに仕上げてしまう。性格も金回りも派手な梅子は、質素な生活をしている雪たちにしてみれば、異世界の人物のよう。

 雪の父親は、神木流の師範である神木流弦だ。流絃には、養子として総一と舞がいるのだが、神木流は雪に継いでほしいと願っている。流弦との関係、そして義兄弟であり「津軽三味線」の奏者同士でもある総一と舞との関係など、「家族」の形が変わっていく様が本作の読みどころのひとつとなっている。

「家族」と「よその家族」

 雪はクールだが、情に乏しいかというと決してそういうわけでもない。上京した雪が世話になるのが、「たぬきち食堂」の店主・山野寅治と娘の桜だ。食堂のほか、下宿も経営しており、雪のことも親身に面倒を見ている。

 ある時、寅治が脳梗塞で倒れてしまう。倒れたことを後から知らされた雪は、その事実を知りながら黙っていたマネージャーに憤りをぶつける。しかし、寅治が倒れたところに居合わせた舞は涙を浮かべながら雪を怒鳴りつける。

「あんたが知ったドゴで何出来だってな!? 家族じゃないんだがらっ!」

 この言葉をきっかけに、雪は「家族」と「家族ではない人たち」の差を感じ、家族ではない自分だからこそできることは何かを模索し、また成長していくことになる。

 人は、ひとりで生きることはできない。育った環境や、その過程で関わることになる人たち、特に家族というのは人格や人生に大きな影響を与える。羅川作品はキャラクターたちのルーツを描くことで、よりその人物像に説得力を持たせている。ひとりひとりの人生が厚く描かれ、それが束になっていることで、より物語全体もスケールが大きくなり、読み応えが増していく。

 本作も、あまり馴染みのない「津軽三味線」を題材にはしているが、いくつもの人生が丁寧に描かれているからこそ、読者を掴んで離さない魅力的な物語になっているのではないだろうか。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『ましろのおと』1〜26巻発売中(講談社コミックス月刊マガジン)
著者:羅川真里茂
出版社:講談社
出版社ページ

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