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『私の家政夫ナギサさん』を通して見える、“家族にしかできない仕事” 次週は恋の予感も?

リアルサウンド

20/7/22(水) 12:40

 「なんかもう人間てしんどい」と、もらしたくなる夜がある。仕事をして、帰ってきて、洗濯物を取り込んで、畳んで、アイロンをかけて、定位置にしまって、ご飯を作って、食べて、食器を洗って、お風呂を洗って、歯を磨いて、体を洗って、髪を乾かして……ちゃんとするって本当に大変だ。この「しんどい」は、どんなに「やればできる」という気合を入れても乗り越えられないものがある。時間は有限だからだ。何かに比重を置けば、完璧にとはいかない。

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 『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)第3話。メイ(多部未華子)は家事が苦手なのに加えて仕事が忙しく、部屋がすぐに散らかってしまう。「仕事も家事も両立できる子になって」と育てられた手前、こんな汚れた部屋を母・美登里(草刈民代)に見せられないと、家政夫のナギサさん(大森南朋)に片付けてもらうことに。スマートな作戦に思われたが、思わぬタイミングで美登里とナギサさんが遭遇してしまうのだった。

 案の定、メイが家事のできない子だと知って落胆する美登里。美登里がメイにかける期待の大きさは、彼女自身が持つコンプレックスからきているようだった。結婚を機に、家庭に入った美登里。だが、美登里もまた家事が大の苦手だったのだ。専業主婦という仕事の面白さを見い出せず、お母さんらしいことができない自分を受け入れられずにいた美登里。

 実はコンプレックスを抱くことは、ネガティブなことばかりではない。自分のできないことと向き合うことで、別の得意を見つけられたり、他者を尊敬できるキッカケにもなる。だが、コンプレックスをこじらせてしまうと、自分を正当化しようと認識が歪んでいく。専業主婦なんて、家事なんて……つまらない仕事だ。自分ができないことを棚に上げて、そんなふうに思い込もうとしてしまうのだ。

 美登里の抱える自己矛盾。自分にもできないことを、メイや妹・唯(趣里)に「やればできる子」と追い込んでいく。もちろん相手に期待をして、その可能性を信じてあげることはいいことだ。だが、美登里の場合は娘たちの選択と自分の人生をつい重ねて見てしまう、つまり課題の分離をできていないことが、母と娘の双方にとって息苦しい日々を生んでいる。
メイには「一片の悔い無し」と胸を張っていえる人生を送ってほしい。仕事も家事も“できる女”になってほしい。そう願う気持ちは決してウソではない。でも、美登里が本当に満たされるのは、娘たちが期待に応えることではなく、そうなれなかった自分自身を受け容れること。

 そんなこじれてしまった美登里の心を、やさしく解いてあげたのがナギサさんだった。倒れた娘に何をしてあげればいいかわからない。そんな「お母さんらしくない、できない自分」に耐えられず、その場を放り出そうとした美登里に「ただそばにいてあげること」だと諭すナギサさん。そして、美登里の料理にも付き添い、やさしくフォローをしていくのだった。「何もできなくてもいい」となだめながら。

 たとえ味付けがうまくなくても、その気持ちがおいしいと思える料理がある。ただそばにいてくれるだけで、薬よりも効く看病がある。メイを抱きしめ「ずっとそばにいるから」という美登里。自分の期待に応えてくれるいい子だからではなく、メイがメイであることそのものを愛しいと思っていることが伝わり、メイの心にも温かいものが湧き上がる。そして、その抱擁は、美登里が認められなかった「できない自分」自身を抱きしめているかのようだった。

 ナギサさんがメイと美登里の母娘にしたことを見ると、改めて家事というのはその文字通り“家のこと”なのだと気付かされる。炊事や洗濯といったタスクはほんの表面的なことにすぎず、その根幹にある目的は心地よく過ごせるようにうまく回していくことそのものなのだ。体も心も健康に。そこに住まう人が、自分自身を好きでいられるように向き合うことも、家事なのだ。

 極論、掃除ができなくても、料理が苦手でも、いい家庭は作れる。なぜなら、その作業は得意な誰かに頼むこともできるから。でも、ただそばにいて抱きしめることだったり、その存在そのものを認めてあげることだったり……そうした“家のこと”は最終的に家族の仕事なのかもしれない。家政夫という立場のナギサさんを通じて、家族にしかできない仕事が見えてくる。

 ナギサさんのおかげで、美登里との「しんどい」が少し緩和されたメイ。だが、今度は恋の矢印が入り乱れそうな予感だ。きっと、混乱したメイをまたナギサさんが、上手にケアしていくのではないか。それとも、メイにとって欠かせない存在になりつつあるナギサさんとの関係が複雑化するのだろうか。どうやってナギサさんが家政夫となったのか、どうしてこれほど包容力があるのか、メイが倒れたと聞いたときの的確な指示は過去の職業に関連しているのか……など、まだ知らないナギサさんの素顔も気になるところだ。

(文=佐藤結衣)

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