Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

多部未華子が本当に輝くのは30代から? 『これは経費で落ちません!』の“森若さん”が大評判

リアルサウンド

19/9/6(金) 8:00

 今期は上野樹里、黒木華、石原さとみ、深キョンなどのドラマがよく記事で取り上げられているように、近年はアラサー女優の主演ドラマが話題を集める傾向がある。そんな中、久しぶりにドラマの主演を務める多部未華子が、ドラマ10の『これは経費で落ちません!』(NHK総合)で評価を高めている。

 多部が演じているのは、中堅せっけん会社の経理部員・森若沙名子。毎回、社員たちが提出する領収書や請求書から感じる違和感をもとに、経費で購入した物品の私的流用や、「自腹」で処理してしまっている小物、不正などの「真実」を探っていく物語だ。

【写真】山田太陽と沙名子さん

 「経理部」のお仕事モノというと、「細かい部分を突いてくる、正しくも面倒な人たち」をイメージする人も少なからずいるだろう。また、正義感で社内の不正を暴き、バシッと決め台詞で解決……といったヒロインを想像する人もいるだろう。

 だが、このヒロイン・森若は、不正を暴いたことで社員を退社に追い込んでしまうことになった過去により、「うさぎを追うな!」と自分に言い聞かせ、深い追及を避けようとするときもある。それでもやはり「違和感」や「不正のニオイ」は放置できない。

 その心の揺らぎが本作の魅力の一つでもある。そして、これは多部未華子だからこそ表現できるものだろう。

 何故なら、違和感を追及する表現は、ともすればヒステリックになったり、大仰になったりしかねないし、逆に感情的にならずに自分がなすべき「経理の仕事」を粛々と行う姿は、上手な役者が演じなければ、よくある無表情で天然なロボット演技になりかねないからだ。

 その点、多部未華子には、真っすぐで強い「芯」がありつつ、柔らかさもある。正義感と迷いとの間で葛藤する様も、実に繊細で、抑制された感情表現の中にも、日々のタスクを粛々と行う心地よさや達成感がわずかな微笑みから感じられる。

 これは、本来、表情豊かで、多彩な感情表現を持つ多部未華子だからこそ出せる心の機微ではないだろうか。彼女の姿勢の良さや凛とした佇まい、心地よく響く声によるところも大きいと思う。

 思えば『山田太郎ものがたり』(TBS系)で、玉の輿を狙う妄想女子高生をコミカルに演じていたのは、もう10年以上前の2007年。三白眼で堂々としていて、表情豊かで、当時からすでにうまかったのは強く印象に残っている。

 さらに『鹿男あをによし』(08年、フジテレビ系)では、ミステリアスな女子高生を演じた。明らかにただ者ではない、神秘的な雰囲気を放つ当時19歳の彼女の存在感は、摩訶不思議な万城目学ワールドに説得力を与えていた。

 その後、NHKの朝ドラ『つばさ』で“20歳のおかん”を堂々たる演技で好演。『デカワンコ』(日本テレビ系)の天然キャラのコスプレ刑事が注目されたり、近年は『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系)の時もヒロイン役で話題になったり、淡麗ジュークボックスのCMでも強い印象を残している。

 ちなみに、10代の頃から「個性派・演技派」として評価されてきた彼女の真の実力を見せつけられた気がしたのは、2017年に上演された舞台『オーランドー』だった。

 これは英国女流作家ヴァージニア・ウルフの代表作を劇作家サラ・ルールが翻訳した作品で、白井晃の演出により、多部未華子と小日向文世、戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹、小芝風花の6名が20役以上を演じたもの。

 多部は、16世紀から20世紀にまたがる時を超え、女性たちを魅了した美貌の青年貴族に挑んだが、想像を絶するような膨大なセリフ量を滑舌よくスピーディに繰り出す様は圧巻で、その心地よい声に聴き入るうちに、観客側も時を超えていくような不思議な快感を覚えることができた。

 「本当は舞台のほうが実力を発揮できるんじゃないか」と思うほどだったが、そんな彼女がテレビドラマに主演として戻ってきたのは、ずいぶん得をした気分にもなる。

 現在30歳にして、少年のような凛々しさや少女のような愛らしさを持ちつつ、コメディエンヌとしての才覚にも磨きをかけている多部未華子。彼女が存分に本当の輝きを見せるのは、30代からかもしれない。

(田幸和歌子)

アプリで読む