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井上陽水は70歳を迎える“いまが旬” バンドサウンドによる全国ツアーファイナル公演

リアルサウンド

18/7/10(火) 10:00

 井上陽水の全国ツアー『井上陽水 コンサート2018 ROCK PICNIC』のファイナル、Zepp DiverCity TOKYO公演。「北海道の利尻町や山口県の日本海側などにも行きました」(井上陽水)というコメント通り、小さめのライブハウス、ホールなどを中心とした今回のツアーには、井上のライブを支えてきた小島良喜(Key)のほか、田口慎二(Gt)、なかむらしょーこ(Ba)、張替智広(Dr/キンモクセイ)と若手のミュージシャンを起用。生々しいバンドサウンドによって井上陽水の奥深い音楽性を堪能できる、貴重なステージが展開された。

(関連:井上陽水の“歌の魔力”を堪能するーー全国ツアーオーチャードホール公演を見て

 この日のオープニングは「アジアの純真」。独特のエキゾチズムを感じさせる旋律、サイケデリックな音像が混ざり合い、いきなり井上陽水の音楽世界に引きずり込まれる。さらに軽やかなラテンナンバー「女神」(NHK『ブラタモリ』オープニングテーマ)、歌謡とロックンロールがナチュラルに溶け合う「Make-up Shadow」。古今東西の音楽を自由に行き来しながら、濃密なグルーヴと豊かな歌心を共存させたボーカルを響かせる井上陽水のパワーが会場全体に広がる。一瞬たりともピッチを外さない歌の上手さは言わずもがな。歌の途中、オフマイクで“Whoo!”“Yeah!”と合いの手を入れるのだが、それがすべてハッキリと聴こえる。どんな声量なんだ、一体。

 「4月から始まったこのツアー、今日が最終日でございまして。最後まで誠心誠意務めたいと思いますので、どうぞ楽しんでいってください。と言っても私の曲は不吉な曲が多くございますので(笑)、みなさんが抱えているトラブルや心配事を思い起こさせることもあるかもしれませんが、そこも楽しんでもらえればなと」という粋な挨拶のあとは、「めいっぱいブルージな曲を」と「映画に行こう」へ。井上陽水のギターカッティングに導かれたフォークロック「My House」では田口のギターソロと〈これがロックビジネス/これがフォークセールス/俺の唄も疑わしいわ〉というフレーズが心地よく絡み合う。音数を厳密に抑制したバンドサウンドも絶品。ミュージシャンのセンスは存分に活かされているのだが、決して余分なフレーズは入れず、歌を際立たせることに意識を傾けていることが伝わってくる。バンド全体の音の大きさも丁度良く、めちゃくちゃ聴きやすい。当たり前だが、音はデカけりゃいいってものじゃない。

 軽妙すぎるトークも井上陽水のライブの魅力。「次の曲も”ブラタモリの曲”で……」と「瞬き」(NHK『ブラタモリ』エンディングテーマ)について話し始めたと思ったら「聞き耳を立てられているようですけども……ほら、生きていくのって大変じゃないですか。今日僕がしゃべっていることを記憶に留めて、10年後くらいに“いま本当に大変な状況だけど、あのとき井上さんが言ってた言葉を思い出せば、ひょっとすると乗り越えられるかもしれない”とか、そういう話はしませんから」。当然のように笑いが起きるわけだが、穏やかで美しい「瞬き」が始まった瞬間、スッと音楽の世界に没頭させられる。ラテン、ボサノヴァ、さらに地中海あたりの香りが漂うアレンジも心地いい。

 〈利尻の島で待ってる君に/やっとの思いで会えた〉〈海では昆布も敗けないくらいによろこんでいるよ〉〈泳ぐ熊さん/東へ西へ〉と(ツアーで訪れた)“利尻島バージョン”で「東へ西へ」を挟み「帰れない二人」へ。名盤『氷の世界』(1973年)に収録されているこの曲は、言うまでもなく、忌野清志郎との共作による名曲。70年代のアメリカのフォークロック、ウエストコーストサウンドと日本のフォークソングが有機的に結びついたこの曲は、普遍的としか言いようがない深淵な魅力を放っていた。

 15分の休憩を挟んだ後半は、しなやかなロックンロールナンバー「感謝知らずの女」、フィードバック・ギターと匂い立つような色気をたたえた歌が強烈なインパクトを残した「Just Fitt」でスタート。井上陽水のパフォーマンスも、前半に比べギアが一段上がっている。

 「時間は止めようがございません。歌ったりしゃべったりしながら時間が過ぎていますけども、何となく終わりが近いんだなと予感していただければと。我々の年代にはグッと染み入るような話でしたね」というMCから、ジャズ、ブギウギのテイストでリアレンジされた「少年時代」で爽やかな夏を演出させた後、ライブは後半へ。

 「“気をつけて、お嬢さん”という歌です」という9年ぶりのニューシングル『care』の表題曲(7月25日リリース/大塚製薬『ポカリスエット』新CMソング)、疾走感のあるサウンドとともに〈バスの中はとっても寒いけれど/君の嘘や偽り程じゃない〉というラインが響き渡る「夜のバス」、真偽のわからない情報が飛び交う2010年代の社会を予見したとしか思えない「最後のニュース」、そして、重厚にしてドラマティックな演奏、濃密なエモーションを放つボーカルを軸にした「傘がない」で本編は終了した。

 アンコールで登場した井上陽水は「たくさん拍手をいただき、ありがとうございました。長い間座ってるのも大変でしょう。いきなり外に出るとめまいとか心配ですので、少し運動してから出てくださいね」と観客を立たせ、強靭なファンクネスを備えた「氷の世界」、ドリーミーなポップワールドを描き出す「夢の中へ」という名曲を披露。大喝采のなかツアーはエンディングを迎えた。

 名曲、代表曲を惜しげもなく披露しながら、決して“古き良き”ではなく、きわめて現代的なロックロール、ポップミュージックを体現してみせた今回のツアー。今年70歳を迎える井上陽水は、大げさでも何でもなく、いまが旬。次のツアーは絶対に(特にこれまで井上陽水の音楽に触れてこなかった30代以下の音楽ファンに)観てほしいと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■セットリスト
『井上陽水 コンサート2018 ROCK PICNIC』
7月3日(火)東京・Zepp DiverCity TOKYO

1.アジアの純真
2.女神
3.Make-up Shadow
4.映画に行こう
5.My House
6.瞬き
7.東へ西へ
8.帰れない二人
9.感謝知らずの女
10.Just Fit
11.少年時代
12.care
13.夜のバス
14.最後のニュース
15.傘がない
【アンコール】
16.氷の世界
17.夢の中へ

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