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春日太一 実は洋画が好き

かつてのテレビはB級映画の宝庫! 何度観ても飽きない『処刑ライダー』

毎月連載

第20回

『処刑ライダー』 (C) 1986 Turbo Productions, LLC

かつて、テレビ地上波の夜に毎日のように各局で放送していた「洋画劇場」。

1980年代の終わりから90年代半ばくらいにかけて、これらの枠でやたら何度もかけられていた映画があった。前回の『星の王子ニューヨークへ行く』はその代表例といえるし、他にもブロンソンの『ロサンゼルス』やシュワルツェネッガーの『バトルランナー』。基本的には、「ハリウッドスターの主演作でちょっとB級寄り」という作品がテレビではよく放映されていたような気がする。

その一方で、『キング・ソロモンの秘宝』とか『ザ・カンニング』『地獄の女囚コマンド』といった、当時の大スターは出ていないし、タイトルからしてB級感あふれる作品も、何度かリピート放送されていた。これらの作品はいずれも、観ている間は気軽に楽しめて、観終えたら次の瞬間には内容を忘れるようなライト感がある。そのため、放送される度に繰り返し観ていた。

中でもとりわけ楽しめたのが、『処刑ライダー』。

『処刑ライダー』 (C) 1986 Turbo Productions, LLC

昨今の洋画では見られなくなった、インパクト満点の邦題がもう素晴らしい。もちろん中身も最高。どれだけ観ても飽きないし、放送のある日はその度に日中からワクワクしながら過ごした。

舞台はアリゾナの片田舎。そこでは、暴走族が町を我が物顔で蹂躙、彼らは峠を走る車を見つけてはレースを挑み、勝利したら車を強奪していた。そして、ジェイミーという青年が彼らに惨殺されるところから物語は始まる。

『処刑ライダー』 (C) 1986 Turbo Productions, LLC

そんな町に、ジェイクという青年がやってくる。同時に謎の黒ずくめのスーパーカーが出現、暴走族たちにレースを挑み、そしてそのレース中に暴走族たちは次々と命を落としていった。

あらすじだけだと陰惨な内容に思われるかもしれないが、そんなことは全くない。

ジェイクを演じるチャーリー・シーン、彼と恋に落ちるジェイミーの元恋人を演じるシェリリン・フェンの織り成す「いかにもなアメリカの美男美女」による恋愛模様、それに激しく嫉妬するリーダー(ニック・カサヴェテス)を始めとする暴走族の面々の分かりやすいまでの悪役ぶり。そして、宇宙刑事かロボコップかというような扮装で悪党たちを容赦なく叩きのめす「処刑ライダー」の無敵さ。

『処刑ライダー』 (C) 1986 Turbo Productions, LLC

加えて、約90分と短い上映時間の半分近くがスピーディなカーアクションでダレる場面は一切ない。そこに80年代半ばならではの軽快なロックがBGMとして流れる。

この映画自体がアリゾナそのもの── カラッと明るい、陽気なノリの作品なのだ。そのため、何も考えずに楽しく観ているうちに、アッという間にエンディングを迎える。その勧善懲悪の、見事なまでのウェルメイドさには観る度にスカッとさせてもらってきた。

とにかくノリノリ。頭を空にさせてくれて、観ている間は厭な現実を吹き飛ばしてくれる。

そんな最高の映画を、かつてのテレビは放送してくれていた。

関連情報

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販売元:ハピネット
(C) 1986 Turbo Productions, LLC

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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