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Big Thiefメンバーによるソロ新作、Wilcoやスティーヴィー・ワンダーを歌ったLambchop初のカバー盤……USインディー必聴の5作

リアルサウンド

21/1/17(日) 10:00

Buck Meek『Two Saviors』

 近年、USインディーシーンで、ますます存在感を発揮するようになってきたBig Thief。バンドのギタリスト、バック・ミークが新ソロアルバムをリリースした。ミークはボーカルのエイドリアン・レンカーと並んで、バンドの主要ソングライターであり、これまでレンカーとのデュオアルバムもリリースしてきた。本作にはトゥエイン名義で活動するマット・デイヴィッドソンや、弟のディラン・ミークが参加。ペダルスティールやフィドル、オルガンを加えたバンドサウンドを中心に、ルーツ色が強いサウンドを披露している。なかでも、カントリー色が濃厚だが、メロディは多彩でサウンドはふんわり柔らか。そして、ファルセットを織り交ぜたヒルビリー風のボーカルは、飄々としたなかに優しさが滲んでいる。焚き火のように聴く者をじんわりと温めてくれる音楽だ。

Buck Meek – Candle (Official Video)

Flanafi『Flanafi』

 フィラデルフィアのデュオ、パラガスのメンバー、サイモン・マルティネスによるソロユニット。本作は1stアルバムで、すべての楽器をサイモンが一人で多重録音している。宅録風のサウンドだが、J・ディラを思わせる密室的なブレイクビートに、サイモンが弾くアクロバティックなギターが絡む。パラガスでも変拍子のビートとギターの複雑な掛け合いが軸になっていたが、ジャズやプログレからの影響を感じさせるパラガスに対して、こちらはヒップホップやファンクからの影響が色濃いのが特徴だ。曲の構造は変態的だが、そこに心地よいグルーヴやメロディを挟み込み、甘く囁くように歌うことでメロウサイケとも言えるような、奇妙な世界を生み出している。R&B由来の先鋭的なビートを異質なものとして捉え、アバンギャルドな感性で再構築したようなアプローチが独創的で面白い。

Flanafi – Inner Urge

Darci Phenix『Wishbone』

 ジャケットに惹かれて聴いた、ポートランドの女性シンガーソングライター。ダルシ・フェニックスはこれまで自主制作でアルバムを1枚発表しているが、本作は<Team Love>からのリリースで、これがオフィシャルなデビューアルバムらしい。ジャケットの絵を手掛けたのは日本人の画家、網代幸介で、最初はアーティスト本人が描いたのかなと思ったほど、アルバムのガーリーな世界を見事に表現している。ストリングスも織り交ぜたアコースティックでフォーキーなサウンド。そこにインディポップの色彩もほんのり加えて、メロディは繊細で愛らしい。そして、花を摘みながら鼻歌を歌っているような自然体の歌声も魅力的。子守唄のように優しくイノセントな歌が、この辛い浮世を忘れさせてくれる。

Darci Phenix – Hospitality

Heather Trost『Petrichor』

 Neutral Milk Hotelのジェレミー・バーンズの妻であり、A Hawk and a Hacksawのメンバーとしても活動するヘザー・トロストのソロアルバム。ソロ2作目となる本作は、バーンズのスタジオで彼と2人で作り上げた。Hawk and a Hacksawでは、東欧のトラッドミュージックを独自に解釈したエキゾティックなサウンドを聴かせていたが、本作ではフォーキーな歌を、エレクトロニックなエフェクトで加工したサイケデリックなドリームポップを展開。リバーブをたっぷり効かせたシンフォニックで歪んだサウンドには、Neutral Milk Hotelをはじめ個性豊かなメンツが集ったレーベル、<Elephant 6>の遺伝子が刻み込まれている。その一方で、ヘザーの歌声は清らかな乙女のようで、作り込んだサウンドとのコントラストがユニークだ。夫婦で経営するニュートラル・ミルク・ペンション。そんなラブリーなムードも楽しい一枚。

Heather Trost – Love It Grows (Official Video)

Lambchop『Trip』

 ナッシュビルを拠点に活動するオルタナカントリーバンド。最近はカート・ワグナーのソロプロジェクト色が強くなり、オートチューンやリズムボックスを使うなど、R&Bの要素を取り入れて新しいアプローチに取り組んでいたが、新作は初のカバーアルバムだ。Wilco(オルタナカントリー)。スティーヴィー・ワンダー(ソウル)。ジョージ・ジョーンズ(カントリー)、Mirrors(プロトパンク)など、カートのルーツがわかる選曲で、ラストナンバーは親交が深いYo La Tengoのメンバー、ジェイムズ・マクニューの曲というのも微笑ましい。Yo La Tengoに通じる丁寧に音を重ねて生み出されたアンビエントな音響空間と、カートの深みのある歌声が生み出すメロウネスはますます味わい深さを増し、アルバムのゆったりとした時の流れに身を委ねたくなる。

Lambchop – Reservations (Official Audio)
RealSound_ReleaseCuration@Yasuo Murao20210117

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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