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記録映画「東京オリンピック2017」に七尾旅人がコメント「極めて批評的で野心的」

ナタリー

「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」ポスタービジュアル

オリンピックに翻弄されたアパートの住民を映したドキュメンタリー「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」より、元住人やシンガーソングライター・七尾旅人のコメントが到着した。

東京・明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した10棟の都営住宅「都営霞ヶ丘アパート」に住む人々を2014年から2017年にかけて追った本作。都営霞ヶ丘アパートは1964年の東京オリンピック開発の一環として建設され、東京2020オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊されている。なお取り壊しの計画は2012年7月、東京都からの一方的な移転の通達によって始まった。

今回解禁された場面写真には、五輪ファーストの政策によって奪われた住民たちの暮らしや、移転住民の有志による記者会見の様子が捉えられている。

アパートの元住人・菊池浩司氏は「自分は独り身で、家族もいなくて、裁判まで我慢できないから、とっても焦ってたよ。当時、めちゃくちゃだったんだから」「選手の人たちは一生懸命練習しているからなにも言えないけど、五輪の組織委員会の人たちには、自分たちだけ良ければいいんじゃなくて、思いやりを持って接して欲しい」とコメント。

七尾は「時代に翻弄される個々人の息遣いを、地道に誠実に掬い取り、記録化しながら、同時に1964年の東京オリンピックと現在進行形のオリンピックのはざまに横たわるものを露わにしようとする、極めて批評的で野心的なドキュメンタリー映画だと感じた」とつづった。コメント全文は下記の通り。

本作で劇場映画監督デビューを果たした青山真也が監督・撮影・編集を担当した「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」は、8月13日に東京・アップリンク吉祥寺ほか全国で公開される。東京ドキュメンタリー映画祭2020では特別賞を受賞した。

菊池浩司氏(元アパート住民)コメント

そうだそうだ、懐かしいな、この場所。
ウチの下に住んでいた森田さん、もう亡くなっちゃったけど、この時は元気に映っているね。

自分は独り身で、家族もいなくて、裁判まで我慢できないから、とっても焦ってたよ。当時、めちゃくちゃだったんだから。
犠牲? 姥捨山みたいに扱って、馬鹿にしてるよな。本当。

選手の人たちは一生懸命練習しているからなにも言えないけど、五輪の組織委員会の人たちには、自分たちだけ良ければいいんじゃなくて、思いやりを持って接して欲しい。
この映画を見て欲しいね。

森まゆみ(作家 / 神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会 共同代表)コメント

神宮外苑に作られた巨大新国立競技場、最大の問題は、そこにあった都営霞ヶ丘アパートの住民を立ち退かせたことである。国策によって何度も住まいを失った人々に、青山さんは寄り添ってずっとカメラを回し続けた。感謝の言葉もない。

井上健一(映画ライター / 東京ドキュメンタリー映画祭2020特別賞審査員)コメント

国立競技場の再開発により、転居を余儀なくされた古いアパートの住人たち。ナレーションもなく、感情を激しく揺さぶる音楽もなく、カメラはただ淡々と、戦後昭和から平成を支え合って暮らしてきた彼らの日常と引っ越し作業を見つめるのみ。にもかかわらず、そこで積み重ねられ、今は失われた生活の重みがひしひしと伝わり、胸を打つ。過剰な演出を排し、ほぼ映像のみで語り切るストイックなスタイルに本作の誠実さが滲む。あだ花のように煌めく神宮外苑の花火が、この上なく儚く美しい。

松崎まこと(映画活動家 / 放送作家 / 東京ドキュメンタリー映画祭2020特別賞審査員)コメント

「TOKYO2020」が未曽有の人災であることを、我々はいま思い知らされている。
霞ヶ丘アパートの住民たちは、そうした災害のとば口に居合わせてしまった。ある者にとっては不都合な彼ら彼女らの存在を、本作は静かにカメラで寄り添うことで、見事に可視化する。終の棲家を追われて、かの地を去っていく者たちには、「どうかご無事で」と祈る他はないのだろうか?

澤山恵次(東京ドキュメンタリー映画祭スタッフ)コメント

外苑前からキラー通りを15分位歩くと霞ヶ丘がある。東京のど真ん中にこんな佇まいがある事もここに移り住んだ背景も広く知られていないまま取り壊されてしまった。無残な生々しい映像を一切排除し登場する人たちのそれまでの日常がしっかりと映し出される事で現時点では延期後の開催が未だに結論の見えない東京オリンピック及び日本の方向性が数の論理だけで総意となっていることを改めて考えさせられるまさに今観るべき記録。

七尾旅人(シンガーソングライター)コメント

ちょうどいま岡田利規・作演出による能の構成をとった演劇作品「未練の幽霊と怪物」に音楽担当で参加している。その第一部ではザハ・ハディドが、失意のうちに無念の死を遂げた亡霊となって登場し、やがて建つはずだったスタジアムは、舞台上にイメージとして幻出する。
膨らみ続ける総工費などを理由に白紙撤回されたこのザハ案の後、新国立競技場の立案と施工は日本国内の建築家とゼネコンに委ねられていくが、この過程で、住み慣れた家を奪われ、人生を大きく揺るがされていったお年寄りたちの日々を、青山真也のカメラが4年間に渡って粘り強く、丁寧に追っている。
国家プロジェクトの影で圧殺されていく、ちいさくも切実な声。ひとつひとつの部屋にしみついた生活実感の背後からは、日本の敗戦~高度成長期以降のストーリーが透けて見えてくる。
時代に翻弄される個々人の息遣いを、地道に誠実に掬い取り、記録化しながら、同時に1964年の東京オリンピックと現在進行形のオリンピックのはざまに横たわるものを露わにしようとする、極めて批評的で野心的なドキュメンタリー映画だと感じた。
今日は2021年5月22日。昨日IOCのジョン・コーツが「緊急事態宣言が出ていても問題なく開催できる」と発言し、物議を醸している。日本の政治家たちは、この映画に登場する愛すべきお年寄りたちとは異なる、生気の感じられない目で、ぬかに釘を打つような答弁を繰り返している。たくさんの血を吸い、無念を生み出しながら、歴史的パンデミックのただなかで、新時代の東京五輪が幕を上げようとしている。

(c)Shinya Aoyama

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