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映像で音楽を奏でる人々 第20回 ベタを大事にする寿司くん

ナタリー

21/3/12(金) 21:00

寿司くん(こやまたくや)

ミュージックビデオの監督など、あらゆる形で音楽に関わる映像作家たちにフォーカスを当てた連載「映像で音楽を奏でる人々」。第20回となる今回はヤバイTシャツ屋さんのメンバーであり、寿司くん名義で映像ディレクターとしても活動しているこやまたくやに話を聞く。

大阪芸術大学で結成され、今や人気バンドとなったヤバTだが、在学時は寿司くんとしての知名度のほうが高かったというこやま。本連載ではこやま少年が映像の道に進むことになった理由や盟友・岡崎体育との出会い、ヤバTのMVへのこだわりについて語ってくれた。

取材・文 / 清本千尋 撮影 / 草場雄介

「放送甲子園」全国大会で得た経験

僕は子供の頃から映像媒体がすごく好きだったんです。映像媒体ってなんだ?って思うかもしれないんですけど、テレビ番組や映画が大好きで。小学生の頃はテレビの映像を真似してみようと、親のビデオカメラを使っていろいろ映像を撮っていたんですよね。まあそれが直接今の自分の作家性に影響しているかというとそうではないんですが。中学に入ってからは音楽に夢中になって、ギターも始めました。

高校では大好きなマキシマム ザ ホルモンや10-FEETの曲を校内放送で流したいという理由で放送部に入りました。僕が通っていた高校の放送部は校内のアナウンスを担当するだけじゃなくて、「放送甲子園」と言われている「NHK杯全国高校放送コンテスト」に参加していたんです。アナウンスやテレビドラマ、テレビドキュメント、ラジオドラマ、ラジオドキュメント、朗読……いろんな部門があって、入部した年はラジオドキュメント部門に出品する先輩の作業を僕も手伝ったんですよ。でも映像媒体が好きだし、学校に映像機材もそろっていたので、その翌年に僕はラジオドキュメントではなくてテレビドキュメント部門に参加してみようと作品を作ったんです。

とは言えドキュメントっていうのは名ばかりで、中身は悪ふざけしている映像でした。学生らしい作品が評価されるコンクールなので、撮影したのは教室。「日本史の授業中、教科書、資料集、ノートを机に置こうとしてもどうしても全部うまく置ききれへん。けど、全部置かないと受験にも落ちてしまうからなんとかして机にきれいに置こうとする」という内容で。自分で撮影から編集まで手がけたその作品が全国大会まで行って、ネットでいろんな人に観てもらえて、Twitterでもいい反響がたくさんあった。そうやってダイレクトに感想をもらったときすごく気分がよかったんです。「放送甲子園」に向けて作品を作ったことで映像制作の面白さに気付いて、さらには全国大会まで行ったことで自信が付いたので映像系の大学に進むことに決めました。

MVを撮っていなかったらヤバTを結成していなかった

映像系の大学に行こうと思って、いろんな大学のオープンキャンパスや学園祭に足を運んで、雰囲気が一番よかった大阪芸大に入りました。でも何か具体的に作りたいものがないまま映像学科に入ってしまったので、1年生で映像制作の基礎を学び、そのまま過ごした2年生が終わる頃に「これじゃあ何者にもなれへんくてヤバい。将来どうしていくんや」と焦ったんですよね。それで自分ができそうなことを全部やってみようとコントやドキュメンタリーなどいろんな映像を作って、その中の1つが「寿司くん」のアニメでした。「寿司くん」がバズったのはうれしかったですね。僕は何かを作るのが好きっていうより作ったものを観てもらうことが好きで、自己顕示欲がすごくあるんですよ。

寿司くんのアニメが話題になり始めた頃、たまたまグッドモーニング世界っていう友達のバンドから頼まれて初めてMVを作ったんです。「自己犠牲」という曲のMVなんですけど、これが公開されたら大阪・堺界隈のいくつかのバンドからも「うちのバンドも撮ってほしい」と依頼されてMVを作ることになって。自分で言うのもアレですけど、器用なのでなんでも人に見せられる程度のものは作れるんです。今観返すとひどいもんですけど、当時はMVでも80点ぐらいのものが作れてるなと思ってました。

自分の中にある「面白い」のアウトプットはアニメでやってたと思いますし、MVは人から頼まれなかったらやってなかった。いろんなMVを撮るうちにバンドっていいなと思い始めてヤバイTシャツ屋さんを結成したので、MVを撮ってなかったらきっとヤバTを組んでなかったと思います。

岡崎体育との出会い、そして新人賞受賞へ

映像作家として転機になった出来事は、やっぱり岡崎体育くんとの出会いですかね。当時Twitterフォロワー300人くらいだった体育くんが「いつかMVを寿司くんに撮ってもらいたい」みたいなツイートをしていて、「じゃあ今度ライブ行きます」みたいな感じでライブを観に行ったんですよ。そしたらライブもいいし話も面白いし、加えて中学校の先輩やったという奇跡もあって。

出会った頃の体育くんの人気度は、ライブにお客さんを5人呼べるか呼べないかぐらい。それやのにライブはホンマに面白くて、この面白さをたくさんの人に伝えなアカンと思ったんです。体育くんは今でこそプロモーションやマーケティングが上手なイメージがあると思うんですけど、当時はホンマに「もっとちゃんとしたらいいのに!」と思ってましたね(笑)。全然ライブの告知もしいひんし、曲の宣伝もあんまりやらへん。一方僕は寿司くんのアニメを広めようといろいろ考えながらやっていたんで、そんな体育くんを見て「なんでこんないい音楽やってるのに広まらへんねん! いや、広めようとせんねん!」って思っていました(笑)。体育くんが僕を見つけてくれたのは、単純に学生でMVをバンバン作っているような人が僕ぐらいしかいなかったからやと思います。YouTuberとかもまだいなかった頃やし。寿司くんはYouTubeを始めるのが早すぎたかもしれないなと思いますね。

「家族構成」を皮切りに体育くんのMVを監督するようになって、メジャーデビュー作に入っている「MUSIC VIDEO」のMVは「第20回文化庁メディア芸術祭」の「エンターテインメント部門 新人賞」に選ばれました(参照:岡崎体育と寿司くん、新人賞受賞のメディア芸術祭内覧会で「次は大賞」)。

そもそも自分が映像を担当したアーティストがメジャーデビューするっていうのが初めてやったんで感慨深くて、スペースシャワーTVで画面の下のほうに「Director 寿司くん」って出ただけでうれしかったのに賞までもらえるとは。その年の「文化庁メディア芸術祭」で賞を獲っていたのは「シン・ゴジラ」とかそうそうたる作品ばかりだったんです。そんな中で僕と体育くんと、体育くんのマネージャーの松下さんだけのスタッフチームで、お金もかけず僕がカメラを回して撮ったビデオが新人賞を獲れんねや……って思いました。MVはそのアーティストとディレクターとのコラボレーション作品やと思うんですけど、体育くんのMVは曲自体が面白いのでどうやっても大丈夫だなと安心して監督できます。完全に人任せですけど(笑)。

自己顕示欲が強すぎて

さっき体育くんのマーケティングがあまりちゃんとしていなかったという話をしましたけど、僕自身がマーケティング上手だったかというとそういうことではなくて、自己顕示欲が強すぎて自分が作った作品が観てもらえへんなら意味ないなと思ってずっとやってるだけなんですよ。高校時代にたくさんの人に自分の作品を褒めてもらってうれしかった経験があるから、あんまり反応がないと、いまだにすごく寂しい気持ちになるんです。大学の頃に同級生が「わかる人にだけわかればいい」って言いながら映画を撮ってるのとかも「観てもらってちゃんとわかってもらわなアカンのちゃうん?」ってずっと思ってて。僕はとにかくいろんな人に観てもらいたい、だからちゃんと届くように考えていろいろ工夫していたと思います。

僕が映像を作るうえで心がけているのは誰にでもわかりやすくすること。自分の世界が強すぎて観ている人に何も伝わらへんっていうのが芸大生あるあるなんですけど、学生の頃からそうならないように心がけていました。シュールな世界観の中でも軸にあるものというか、“何がしたいか”はわかるようにしていたと思います。映像は基礎しか習ってへんから、寿司くんの作品はカット割りとかカメラワークがわりと単純。でも単純なことがシュールだと捉えられた部分もあるんです。そのチープさが味になっていたし、親しみやすさも生んでいたと思います。

ヤバTのMVはワンカットがウケる

僕が学生の頃は映像編集できる人なんてほとんどいなかったのに、今は誰でもできる時代になったじゃないですか。だから今、自分が撮影技術、編集技術の面でほかの人より特別うまくできることはないと思っていて。そうなるともうアイデア次第なんですよ。ヤバTなんてその最たる例です。誰もヤバTのMVに撮影技術やカメラワークは求めていないので、もうアイデア勝負。「かわE」のフラッシュモブが失敗するというアイデアや「無線LANばり便利」の定点カメラの前でずっとごちゃごちゃやって最後に家のWi-Fiのパスワードを公開するみたいな、そういうアイデアだけ。それだけでやってる気がします。

ほかの人のMVはすごく時間をかけてアイデアを練るし、編集も時間をかけるんですけど、その労力を自分にかけたくなくて、ヤバTのMVってすごくシンプルでワンカットのものが多いんです。編集するのが大変だからというのももちろんあるんですけど、ヤバTのMVの場合は単純なやつほどウケるんです。「KOKYAKU満足度1位」のMVはライブ映像みたいな編集もしたし、カッコいいカット割りもしたし、ストーリー仕立ての凝った内容にしたんですよ。でも全然再生回数が伸びない! あんなにがんばったのに! めちゃくちゃカッコいい演奏シーンとシュールなドラマシーンで構成した「Tank-top in your heart」もそう(笑)。逆にシンプルに作った「無線LANばり便利」やハリウッドに行くっていうワンアイデアだけで作った「あつまれ!パーティーピーポー」はめちゃくちゃ再生される。たぶんそういう気を張ってない感じがヤバTのMVには合ってるんですよね。去年出したアルバム「You need the Tank-top」の特にリード曲にしてるわけでもない曲「げんきもりもり!モーリーファンタジー」もワンカットでMVを作ったら結局それが一番再生されてて。編集せんほうが再生されるんやったら編集せんほうがええやんっていう至極真っ当な理由でラクをしています(笑)。

ワンカット撮影は当日の大変さはありますけど、撮ったあとに編集をいっぱいするより全然ラクです。その日にみんなでがんばればいいだけだから。最新作の「くそ現代っ子ごみかす20代」のMVもワンカットで撮りました。ヤバTみたいな何をしでかすかわからへん人たちにはワンカットのMVがホンマにオススメです。でもカッコよさを売りにしている人はちゃんとカット割りして作ったほうがカッコいいと思います。

映像もお笑いもベタが大事

誰でも映像を簡単に作って発信できるようになって、その中で目立つためにはアイデアが必要だという話はしましたけど、そのアイデアを生み出すためのインプットも大事だと思っていて。MVなんてホンマにあるあるとパロディの連続やし、それのもとになるのは自分の中に蓄積された“面白いもの”だと思うんで、自分の中にそういう要素をたくさん取り込むことは面白い映像を作るうえで重要なことやと思いますね。オリジナリティ100%でバズる映像ってなかなかないんですよ。ヤバTの映像もオマージュと言うほどではないですけど、基本に沿っている中で1個ズラすみたいなアイデアが多くて、完全に理解できないものはないはず。つまりカオスではないんですよ。吉本新喜劇と同じで、「あ、いつものやつや、いつものやつや、いつものやつや……そこでスカすんかい!」っていう。そういう面白さがヤバTの映像にはあると思っています。

「ヤバみ」のMVなんかは当時ドローン撮影が流行っていたので「ヤバTも流行りに乗ってドローン使うんや」っていうところから始まり、サビになるとグングン本人たちから離れていくっていうボケだったんです。ホンマにベタなことをやってからズラすようにしてます。

僕、基本ベタができひんのはダメやなと思ってるんです。だからこそ作品にわかりやすさを求めるんですよね、僕自身が。自分のやりたいことを突然やろうとすると何もわからないものになる。急に何が起きてるのかわからないからベタをやるのが大事やと思うんです。「M-1」でもベタなネタが高得点になったりするじゃないですか。おいでやすこがさんなんてホンマにベタなことをやって高得点を取ったし。基本って大事なんですよ。

夢はテレビで自分の番組を持つこと

今後寿司くんとして作品を作るなら、大学の卒業制作で作った「あつまれ!わくわくパーク」みたいなオムニバス作品をもう一度やりたいですね。「あつまれ!わくわくパーク」は大人向けの子供番組みたいなイメージで作った作品で、主演の体育くんが子供たちと一緒に歌を歌うパートがあって、アニメがあって、体操があって、またアニメがあって、エンディングがあるという構成なんです。NHKの子供向け番組って全部短いじゃないですか。歌番組、人形劇、体操……いろんなジャンルの短編がたくさん流れてる。あれって子供が飽きひんように作ってるんでしょうけど、僕の作品も飽きひんように観てもらいたいんで、作るならオムニバスがいいなって。

テレビが好きなのでテレビで自分の番組を持つというのはずっと夢ですね。すごく大変でしょうけど。音楽とかコントとかをアートっぽく見せられるような番組が作れたらいいなと思います。ただもう今は音楽と自分のバンドのMVしかやってへんので、あまり大きい声でやりたいとは言えないです(笑)。映像は作るのにすごく時間がかかるので、バンド以外の映像はやりたくてもなかなかできないなと思います。学生時代はたくさんしばた(しばたありぼぼ。ヤバTのベース&ボーカル)に手伝ってもらってましたし、もりもと(もりもりもと。ヤバTのドラム&コーラス)も最近コントしたいって言ってたんで、バンドで番組を作るのもいいかもしれない。

寿司くんが影響を受けた映像作品

「オー!マイキー」

小学生の頃に大好きでよく観ていました。間のつけかたやブラックユーモアの部分で影響を受けていると思います。「寿司くん」の間の感じとか、突然顔がアップになるところとかすごく「オー!マイキー」っぽいなと思います。

映画「マスク」

ジム・キャリーの出ているコメディ映画はだいたい好きなんですけど、中でも「マスク」が一番好きで、子供の頃から何度も観ています。ジム・キャリー扮するスタンリーがマスクに変身するときに高速回転するんですけど、僕が高速で動くものが好きなのはその高速回転から来てると思っていて。あと「マスク」は物語の構成も好きで、映画を観終わったときの幸福感はヤバTの音楽自体やライブの構成に通ずるものがあると思います。胸クソ悪いものよりハッピーエンドな作品が好きなんですよね。

ヤバイTシャツ屋さんの今後のスケジュール

テレ朝チャンネル1 / スカパー!オンデマンドで、3月5日に開催されたツアー「ヤバイTシャツ屋さん “You need the Tank-top” TOUR 2020-2021」東京・Zepp Tokyo公演の模様がオンエアされることが決定。5月にはメンバーそれぞれの地元を回る、初のホールツアー「ヤバイTシャツ屋さん “こうえんデビュー” TOUR 2021」を開催する。

テレ朝チャンネル1 / スカパー!オンデマンド「『ヤバイTシャツ屋さん “You need the Tank-top” TOUR 2020-2021』完全版」

2021年4月3日(土)21:30~23:00
※スカパー!オンデマンドでは4月10日(土)23:59まで配信

ヤバイTシャツ屋さん “こうえんデビュー” TOUR 2021

2021年5月11日(火)京都府 宇治市文化センター 大ホール
2021年5月12日(水)京都府 宇治市文化センター 大ホール
2021年5月18日(火)大阪府 高槻現代劇場 大ホール
2021年5月19日(水)大阪府 高槻現代劇場 大ホール
2021年5月26日(水)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
2021年5月27日(木)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール

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