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声優・工藤晴香が“ロックシンガー”として表現する音楽 ソロデビュー以降で開花したボーカルの個性

リアルサウンド

20/10/10(土) 12:00

 今年3月25日に1stミニアルバム『KDHR』(読み:くどはる)でソロアーティストデビューを果たした声優の工藤晴香が、早くも2ndミニアルバム『POWER CHORD』を10月7日にリリースした。全曲工藤自身が作詞を手がけた前作から引き続き、今作でも全6曲で作詞を担当したほか、「Magic Love」では作曲にも挑戦。デビュー作ではソロデビューに対する決意表明に加えて、これまで経験してきたことを受けて気づいた“許す心や間違いを認める精神的な強さ”、そしてこれまで出会ってきた“アナタ”への思いが綴られていたが、続く今作ではデビュー作リリース直後の今年4月から制作がスタートしたこともあり、激動の2020年を通じて彼女が感じた思いを“希望”が見える形でしたためている。

工藤晴香「POWER CHORD」全曲試聴トレーラー

 デビュー作『KDHR』リリース時に工藤にインタビューした際(参考:工藤晴香が語る、『KDHR』に至る音楽遍歴とソロへの強い意志 「『バンドリ!』で今まで知らなかったことを知れた」)、これまでの音楽遍歴について明かしてくれた。中学時代にASIAN KUNG-FU GENERATIONやBUMP OF CHICKENに出会ったことをきっかけにロックに興味を持った彼女は、高校生になると洋楽に手を出し始める。アヴリル・ラヴィーンやt.A.T.u.を入り口に、Green DayやNirvanaなどにたどり着き、「カート・コバーンみたいになりたい!」との思いからギターも始めている。

 また、別のインタビュー(参考:白夜書房『VOICE BRODY』Vol.8)では「いつか個人的な趣味全開の作品を作るとしたら、どんな音楽性にしたいか?」という問いに、「私、Nine Inch Nailsが大好きなんですよ。だから、ああいう激しさの中にも美しさがある音楽は、いつか挑戦してみたいですね」と回答。改めて本稿に挙がったような海外のロックバンドが工藤に与えた影響がかなり大きいことが伺え、この経験がのちに次世代ガールズバンドプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』(以下、『バンドリ!』)に携わり、リアルバンドRoseliaのギタリストとしても活躍するきっかけにもつながっていく。

 『バンドリ!』での活躍が評価され、ソロアーティストとしてのデビューが決まった際も、工藤は前出のインタビューで「どういう方向性やサウンドでやっていくかというのは、かなりディスカッションしました。例えば激しい曲、おとなしい曲、ちょっとシンセが入ったEDMっぽい曲とか、いろんな曲を試しに歌ってみて『こういうサウンドが自分の声にハマるんだ』ということを理解したりと、音作りに関してはじっくり時間をかけましたね」「もともと激しい曲がすごく好きというのは、一緒に作業をしてきたスタッフさんもわかってくださっていたので、『激しいけどシンセがすごく鳴っていて、ちょっとEDMっぽい』みたいな軸が決まって推敲を重ねていった感じでした」と説明しており、自身の趣味を反映させつつも、声優として活動するからこそ自分の声をうまく活かせるサウンドを選択したことが伺える。そして、これらの音楽性をうまく表現することができるクリエイターとして選ばれたのが、PassCodeのサウンドプロデュースで知られる平地孝次。デビュー作『KDHR』では全楽曲の作曲・アレンジを手がけ、エッジの効いたギターを全面的にフィーチャーしたハードロックから複雑な展開を繰り返すエレクトロニコア、ストレートなギターロックやポップチューン、歌を軸にしたスローナンバーなど幅広い音楽性が展開されており、各曲で聴ける工藤のボーカルも時に楽器の一部として機能するなど、かなり聴き応えのある内容に仕上がった。

 デビュー作ながらも非常に完成度の高いロックアルバム『KDHR』から半年という短いスパンで届けられた今作『POWER CHORD』は、前作の延長線上にある作風ながらも“アーティスト/ボーカリスト・工藤晴香”としての個性が確立されつつあることが伺える“進化の1枚”ではないだろうか。

工藤晴香「KEEP THE FAITH」MUSIC VIDEO(short ver.)

 彼女の音楽との出会いといまだ薄れぬロックへの愛情が刻まれたアンセミックな「GROOVY MUSIC TAPE」や「ROCK STAR」、ラウドロックのゴリゴリさとEDMやダブステップ以降のダンスミュージックが融合した「KEEP THE FAITH」などは前作『KDHR』での経験を踏まえ、さらに磨き抜かれたモダンサウンドを楽しむことができる。また、こういった派手な音像の楽曲群の中で工藤の声が埋もれることがないのは、声優として自身の声と向き合い続けてきたことで「最良の響かせ方/聴かせ方」を重々理解しているからこそだろう。その響かせ方もオートチューンなどのエフェクトを通じて楽器の一部として機能させるなど、自身の声を素材として用いる術も理解している節も伺える。そういった要素を含みつつ、初めてラップに挑戦した「KEEP THE FAITH」は前作からの進化が特に強く感じられるはずだ。

 また、「君へのMHz」は前作収録「アナタがいるから」に続くスローナンバーで、工藤のボーカリストとしての成長がもっとも感じられる1曲だろう。今年前半の“おうち時間”を通じて今まで以上に触れる機会の多かったラジオをテーマに、「自分はひとりじゃない」という思いをリスナーに伝えつつも自らにも語りかける歌詞を、ひときわ強い思いを込めて表現する彼女の歌声からは、心地よい温かみが感じられる。そんな楽曲のあとに続くのが、工藤が初めて作曲に携わった(平地との共作)「Magic Love」。良い意味で肩の力が抜けた彼女のボーカルは、エッジーな冒頭3曲ともバラード「君へのMHz」とも異なる魅力が感じられ、こういった声のバラエティ豊かさも声優を生業とする工藤ならではだと再認識させられる。そして、「My Story  My Life」では激動の日常を飛び越え“希望”に満ちた未来を強く感じさせ、アルバムをポジティブに締めくくる。

 アルバムタイトルにも用いられた“パワーコード”というワードには、シンプルながらも力強さが伝わる印象がある。実際、今作に収められた楽曲群は複雑な展開を要するものも含みつつ、全体的にはより思いがダイレクトに伝わる楽曲が増えた気がする。その一因に、まず間違いなく歌い手/表現者としての工藤の成長も大きく関係しており、処女作『KDHR』を経てこの『POWER CHORD』という作品で彼女は真のスタートラインに立った……そう確信している。

 だからこそ、これらの作品の楽曲をライブという場で表現する姿を早く観てみたい。残念ながら、観客を入れた形でのライブはまだまだ簡単にはできない状況かもしれないが、彼女が作品に込めた思いを目の前にいる観客にダイレクトに届けることによって、“アーティスト/ボーカリスト・工藤晴香”はさらに数段階成長するはずだから。

■リリース情報
『POWER CHORD』
2020年10月7日(水)発売
TYPE-A(CD+M-CARD):¥3,182+税
TYPE-B(CD+M-CARD):¥3,182+税
TYPE-C(CD):¥2,273+税

<CD> ※全タイプ共通
1. GROOVY MUSIC TAPE
2. ROCK STAR
3. KEEP THE FAITH ※日本テレビ系「バズリズム02」POWER PLAY
4. 君へのMHz
5. Magic Love
6. My Story My Life

<M-CARD>
TYPE-A
1. GROOVY MUSIC TAPE (Music Video)
2. ROCK STAR (Music Video)
3. KEEP THE FAITH (Music Video)
4. 君へのMHz (Music Video)
5. Magic Love (Music Video)
6. My Story My Life (Music Video)

TYPE-B
1. KEEP THE FAITH (Music Video)
2. KEEP THE FAITH (Music Video Making Movie)
3. Poetry Reading

■番組情報
『Artist#18File』(TOKYO MX)

初回放送:10月6日(火)
毎週火曜 21:54〜22:00 (TOKYO MX1)
再放送 毎週木曜25:00〜25:05
スマホアプリ/Webサイト『エムキャス』にてリアルタイム配信

工藤晴香 公式HP

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