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シド『承認欲求』インタビュー 「16年の色濃い歴史を乗せて、新しい扉を開く」 

ぴあ

19/9/5(木) 7:00

シド

ヴィジュアル系ロックバンド、シドが2年ぶりにニューアルバム『承認欲求』をリリースする。昨年、結成15周年&メジャーデビュー10周年を迎え、今年3月にアニバーサリーイヤーのグランドファイナルとして『SID 15th Anniversary GRAND FINAL at 横浜アリーナ 〜その未来へ〜』を行ったシドは、アルバム発売後、全国ホールツアーを開催する。次々に色と形を変えながら進化する楽曲制作と精力的に行うライブへの尽きない情熱、シドが持つその衝動の理由を探るインタビューを敢行した。

変化することへの恐れをバンドとしての生き様で打ち砕いていきたい

——アルバム『承認欲求』を聴かせていただいて、前作『NOMAD』の時から見ても飾り立てた感じのカッコよさではなく、今のシドの等身大の良さが出ていると感じました。この1年ほどで『SIDぴあ』を出していただいたり、エッセイ本を出されたりと、15年間の過去を振り返る機会を作ってこられたと思うのですが、そういった振り返りを経て、今のシドがどんなバンドなのか? 教えていただけますでしょうか。

マオ シドはヴィジュアル系というジャンルでバンドを始めて、その畑で育ってきて、色々な刺激を受けながら、形を変えて、でも軸は守りつつやってきました。音楽という軸はもちろん、ステージでヴィジュアルの部分もしっかり見せるということも大切にしてきましたし、ステージだけじゃなくジャケットとか細かいところでも、軸は守りつつも、とにかく変化を楽しめるバンドでありたいというところに今たどり着いているのかなと思います。

でも途中では、変化することの恐れというのはありました。なんでもそうだと思うんです。バンドだけじゃなくて、ファンのみんなの日常もそうだと思うんですけど、変化することの恐れをバンドとしての生き様で打ち砕いていけるような、そういうのを見せながら活動していきたいなっていうところに今ちょうどたどり着いているところで。それがまさにこのアルバムに繋がっていて、いろんなものをそぎ落として、一つ大きな変化を、自分たち的には成し遂げることができたと思っています。あとは受け取ってくれた皆さんが、どういう風に受け取るかはまた別としても、俺たちはまた一つ皮剥けたよっていうのはあるので。今そこにいます。

——自然体の姿を見せられるようになったというのがあるんでしょうか?

マオ もちろんありますね。それって多分、音楽だけじゃなくなんでもそうだと思うんですけど。人と人が15、6年一緒にいたら、自然な姿って見せられるようになってくると思うし、ファンに対して活動しているバンドだからこそできている、安心感の中だからこそやれることだとも思うので。だから自然体でできていますね、昔よりは。

——メンバー間でのバンドでの役割は、15年の長い時間の中で変わってきていると思うのですが、たとえば前作の『NOMAD』からの2年間で変わったりしましたか?

マオ 『NOMAD』からの2年間だったらそんなに変わってないかも。

ゆうや 変わってないよね。

——では変わったタイミングは?

マオ 『NOMAD』からということで振り返ってみたら『NOMAD』で、新生シドになったという感じが俺の中ではしていて。役割って意味ではあまり変わってないかもしれないですし、このバンドはこれが役割、この人はこうっていうより、それぞれなんですよね。それぞれが時々で得意分野が変わったりとか、その得意分野の人が時期によっては2人いたりとか、そういうバンドなので。上手いことそこでやっていると思うので。役割で言ったら常に変わってきているかも。

——今、「新生シド」というワードが出ましたが、15周年を経て、今回のアルバムでもまた、新しいシドの新章がスタートしていると思います。15周年を経て、見えたものって一言で表すと何になりますか?

Shinji 全員の中で、余分なものをそぎ落としていこう、というのが今回のアルバムではあって、それを出せたなと思っています。シドってみんな何でも割とできてしまうバンドで、すごくいろんなことを曲に対してできてしまうんですけど、それを今回は良い意味でそぎ落としているんです。

——なるほど。Shinjiさんの中での余分なものって何ですか?

Shinji その点で言ったら、僕は失敗って結構するんですけど。やっぱり失敗がないと気づかないことも多いなって思っていて。例えば、バンドだからこそ4人の意見があって、一人で曲をグイグイ進めるのも違うというか。みんなの意見で、その曲が出来上がってくっていうバンドならではのこともあるし……。そぎ落したものは、もう色々ですよ、ギターの本数も減りましたし。昔は本当に、たくさんのギターを使いたいとか、たくさんのブランドのギターを弾きたいとかっていう願望がすごく強かったんですけど、今はもう逆で。弦が切れない限り変えたくないなと。やっぱり情報量が多すぎるとまとまらなくなっちゃうので。減らしたいなと思ってますね。

——明希さんはいかがですか?

明希 いろんな意味で、アーティストとしてなのか、人間としてなのかは分からないですけど、あんまり心配することがなくなったかなというのはありますね。こうならないようにこうしよう、こうならないようにこうしなきゃ、あれどうかな?って考えるよりも、音楽に対してここまで自分のキャリアができたし、自信というのがやっぱりあるし。少々の揺れというか、出来事では、揺らがなくなってきたのかなという気はしますね。

——以前は考えすぎたり、不安になったりも?

明希 なんか120%やんなきゃいけない、くらいに勝手に思っていて。もっと俯瞰で自分のことも、もちろんバンドのことも、見るっていう気持ちというか、その観点があったほうがチームとしていい結果になるなっていうのを思ってきて。そういう部分ではそぎ落とされた部分が多いのかな。考えすぎて気苦労してたりっていうのもないし。今は、そういう気持ちですかね。変わったところっていうと。

——『SIDぴあ』でもおっしゃってましたね。以前は自分の曲が選ばれるかというのを気にしていたけど、今は4人のシドのカラーを考えていると。

明希 そうですね。でもやっぱりそこの部分に関しては、常に15年間戦いつづけてきたところなので。メンバーと切磋琢磨してきたというか。そこはきっと本質は多分変わらないんじゃないかなという気はしますけど。でも、どういう方向にバンドが向いても、プラスアルファでいられる存在に、よりいられるようにはなってきたかなという感じです。

——ゆうやさんはいかがですか?

ゆうや 明希と近いです。やっぱり自信だと思うんですよね。だって俺らってもう15年以上やってきて、毎回毎回こんなにいろんな、自分たちの持ってるものだけに頼らないで、何が新しくて、何が必要でって、16年やってきたんです。もう、これすごいじゃんっていう風にまず思うから。自信なのかなっていうところはあります、とっても。

——揺れなくなったみたいなところも?

ゆうや うーん……明希と同じで、いらない心配をしなくなったのはありますね。考えすぎるところとか、そこじゃねぇなっていうところに気づけるようにもなったし。それが、シンプルな考えに持っていけるコツだったりするのかもしれないし。そう思うと自信がついたからなんだろうなって思います。

——それは、ライブでの演奏やパフォーマンスにも影響してるなって思います?

ゆうや そうですね、ドラムという、ずっと同じポジションにいるので、あそこだけは自分がエキスパートだと思ってるので。ドラムに対しては自信はあるし、あそこにいるとすごく安心するしっていうのもあるので、ライブにももちろん現れているのかなと思います。

今伝えたい言葉は、今のうちに伝えようと思った

——アルバム『承認欲求』はすごく攻めたタイトルだなと思いましたが、とても温かい、優しい曲が多くて、中身を聴かないと想像できないアルバムでした。アルバムのコンセプトは今回どんな風に決まったんですか?

マオ コンセプトは、タイトルをつけた後でいうと、『言葉でしっかり時代にシドを刻みたい』というのがあって。承認欲求っていう言葉が、2019年の今を象徴している言葉でもあると思うので、そこにしっかりシドの音楽を刻み込んでおきたいなっていう意味でつけました。『承認欲求』という曲から始まり、今のシドができる、シンプルで強い楽曲たちを中に詰め込んで、最後『君色の朝』でしっかりちゃんと希望を残して終わる。すごくコンセプトがあるものにできたのかなと思っています。

——シドは聴く人に寄り添う、共感性を呼ぶ歌詞・曲が多いと思っています。今回はそれをより強く感じたのですが、聴く人に寄り添いたいとか希望を与えたい、みたいな思いは今回は強かったんですか?

マオ そうですね……今まで我慢していたわけではないんですけど、特に最近それが出てきていて。いっぱい出てきちゃうんですよね。

——それは何かきっかけが?

マオ やっぱり一回休んだ時に色々考えたことが大きかったんですかね、振り返ってみると。その時に、思ったことはすぐやらないとな、というのがすごく気づいたことでもあったんですよね。やりたいことを何かの理由をつけてやんなかったりだとか、何かの理由をつけて臆病になっちゃったりとかっていうんじゃなくて。今、伝えたい言葉は、今のうちに伝えようっていうのを感じて。もともとそういう性格ではあるんですけど、余計にそういうスタイルに、言葉に関してはなってきているのかな。歌詞に対しては、今思っていることを出すことが多くなっていますね。

——よりご自身の思いというものをストレートに表現されている?

マオ そうですね。ストレートにしたほうが伝わるのかなとか、とにかく「伝わる」というところをすごく重視しているかもしれないですね。

——ライブで聴いたときに聴き取りやすい歌詞というのも意識されているのかなと思いました。

マオ もちろんそこはありますね。今って歌詞カードを見ない人も多いので、それでも伝わるようなものを意識しています。だからといって、難しい言葉は書けないから簡単なことを書くっていう風にしてしまうと、本当の気持ちは伝わらないと思っているので、難しいことを書ける準備はちゃんと日々アンテナ張って勉強して仕入れながらも、ザルを振った時に細かい網目からちっちゃい原石だけが落ちてくるイメージというか。そこは本当にシンプルだけど伝わる言葉がある。ここには難しいことがいっぱい残っていて、いつでも難しい言葉を俺は使えるんだよっていう状況の中で、伝わりやすいことを伝えていくっていう方向に結構今来てます、作詞に関しては。

——本当は難しい部分は上にあるんですね?

マオ そうですね、そこも書きたいっちゃ書きたいんですよね。ただ今後のシド、特に今のシドに関してはそれは違うなと思っていて。難しいことも書きたいは書きたいんです。

——明希さん、すごく頷いてらっしゃいましたけど、曲に関してはいかがですか? 今回入ってるご自身作曲のものでいうと。

明希 自分的に一個一個の曲にテーマを持っていたような気がするんですよね。例えば2曲目の『Blood Vessel』だったら、自分たちの思う、スリリングな場面のシドっていうか、変な話ですけど、チューニングを落としてヘヴィにグワッ!って攻めるような楽曲よりも、フレーズとか空気感がエッジが効いてるというかジャンル感も含めて、こういうスリリングさのほうがシドっぽいのかなっていうイメージでした。

で、『Trick』はこの中でいうとロック色の強い曲だと思うんですけど、その辺も新しい見せ方というか、あんまり日本の歌謡曲ロックっぽいコード感じゃないというか、メロディの乗り方もちょっと不思議な感じがあって。そういうところもテーマでした。

『涙雨』は、結構昔からあった曲なんですよ。『2℃目の彼女』とかそのへんぐらいの時に元々の原曲みたいなものはあって。最近、アルバムを作る上で過去曲をちらっと聴くんですけど、その時にメロディが引っかかって。今のシドのスキルでこの曲をやったら結構壮大な、今までにないバラードの色が出るんじゃないかなと思って。

10曲目の『君色の朝』は、横浜アリーナの時のライブのイメージというか。セットリストのあの流れで、新曲をハメるんだったらあの場所で、この曲で、っていういろんなタイミングが重なって。最後に未来が見えるような曲になって、15年目のありがとうと、これからの16年目もよろしくね、応援してねっていうような意味合いの曲で、未来をちゃんと見据えた楽曲になっていたらいいなと思っています。

——シドのライブのラストを飾るのが想像できるような。

明希 これを作った時はラスト感はあんまりなかったんですよ。マオくんの歌詞がハマって、よりそっちにいったのかなと。最後を締めくくる雰囲気がより濃くなっていったのは歌詞のおかげです。アルバムの曲順はマオくん中心に決まったんですけど、最初『君色の朝』がラストになったのは意外で。でも並べて聴いてみて、歌詞もちゃんと読むと、逆にこれしかないなと、今聴いてみると思います。

——ゆうやさん作曲の『ポジティブの魔法』はめちゃくちゃゆうやさんっぽいというか、ゆうやさんそのものだなと思いました。

ゆうや 本当ですか!? 僕から出るこの優しさが……出てますよねぇ(笑)僕が書いたこういう優しい感じの曲に、マオくんの歌詞がすごくマッチしていてすごくいいなぁと思いますね。本当に、ゆうやの顔、見えてきますよね。

——ゆうやさんの曲なんだろうなって。

ゆうや 一発で分かっちゃう感じですよね。僕も本当すごいそう思ってます。

——作曲は割とスムーズにできた感じなんですか?

ゆうや そうですね、これ狙いが元々あって。こういう感じにしたいなっていう。単純にシドのオリジナル音源の中に、アコースティックの曲がないなって思ったのがきっかけで。アコースティックバージョンみたいなライブはやったりするけど、アコースティックの曲があったら面白いなぁって思ったのがきっかけで、この曲を作りました。

——新しいシドの曲になりましたね。Shinjiさん作曲の『承認欲求』はアルバムのタイトルにもなっていますけど、これはどういった経緯で出来上がった曲ですか?

Shinj 基本的に僕の曲の作り方って、アレンジとメロディが一緒に進んでいく感じで作ることが多いんですけど、この曲に関しては最初はアレンジを全く考えずにコードだけでメロディをガシっと作った曲で。ちょっと初めての感じですね。

——『承認欲求』っていうタイトルとか、マオさんの歌詞がこうなるっていうイメージみたいなものは最初から共有されていたんですか?

Shinj いや全くないですね。むしろこれは朝作った曲で、そういう歌詞がはまるなんて全然思ってなかったんです。

——マオさんは、『承認欲求』というフレーズが今の時代を表す言葉だなというのを肌で感じられていたんですか?

マオ そうですね。本当、どこに行ってもそこにぶつかるっていうか、テーマの一つだと思うし。世界的なテーマにもなっていると思うんですよ。世界が繋がってるみたいなイメージをみんな持っていて、実際ある部分に関しては繋がっていると思うんですけど、実はちっちゃい世界の中にいるっていう滑稽な感じ、異様な感じが、今の時代だなと。僕が20代の前半だったら何も感じないテーマだと思うんですけど、この歳だから感じたこと、人生の最初の半分はそうじゃないところで生きてきた自分だから感じたテーマだと思うんで、これは自分にしか書けないなと思って書きましたね。

あと自分もかなり世の中的には「承認欲求」というのは、満たされても満たされなくてもどっちでもいいんですけど、自分を「好き」ってファンの人に言われちゃうと、その人に対しては承認されたい欲求がグイッと上がっちゃうんで。ついつい、パーっとその気持ちに応えたいっていう気持ちが強くなっていってしまうんですけど。それって別に楽しい範囲内かなと思うし、誰も損してないし、俺も楽しいし、いいかなって思っていて。

ただ、そういう「認められたい欲求」がどんどんどんどん、見ず知らずの人に対してまでってなっていくのは考えてしまう。今、「承認欲求」が原因の怖い事件もあるし。だからその辺のいろんな角度から、受け取れる歌詞にしたいなと思って書きました。

——今、「ファンの人に対しては期待に応えたい」し、「それが楽しい範囲内」だとおっしゃいましたが、本当にそうなんだろうなと思っていました。ファンからの期待に応えるしんどさみたいなものが、昔より減ってきたんじゃないかなと勝手に想像していまして。

マオ そうですね。期待には結果的には、多分前より応えられてるのかなっていう気は自分ではしているんですけど、それは結果的なだけであって。応えなきゃって思って応えているわけでは確かにないですね。自分がやりたいなって思ったことを今ひたすらやれているし、前より実際のところはたくさん忙しく動いているかもしれないんですけど、それが「やんなきゃ」っていう感じじゃなくて。やりたくてやっている感じがすごく良いですね。

——すごく良いサイクルなんですね。

マオ そうなんですよ、だからこういう歌詞も生まれたと思うし。

——だからこんな優しい雰囲気のアルバムになったんですね。

声ではない、音みたいなエネルギーを感じた瞬間、満たされた

——ライブのお話を伺いたいんですけど、シドの魅力ってやっぱりライブだなって思っていて。今年もすごく精力的にライブをされてきていて、次は9月からホールツアーですね。今の皆さんのライブへの原動力っていうのは何ですか? ずっと変わらないものからきている?

マオ めちゃめちゃ変わっていると思います。最初は正直、お客さんが増えるっていうところ、だけとまでは言わないですけど、そこを本当に4人とも目指してやってきたんで。ある時、突然変わってきたというか。それぞれ変わった場所は違うと思うんですけど、今はそこじゃないところに行き着いている感じがしますね。

——マオさんにとっての”ある時”というのは?

マオ バンドを始めたきっかけが「人に知られたい」「人気になりたい」「モテたい」とかっていう、本当に言ってしまえばちょっと不純な欲求だけで始めているんで。それが満たされた瞬間かな。ライブをやっていて、キャー!とかマオー!とかっていう声が、ウワーー!っていう声じゃない、何か音みたいなものになった時に、なんかキタな俺!っていうので一回満たされた感じがしますね。なのでそこからは、最初の原動力だった「人気になりたい」ばっかりじゃないところをもっと突き詰めていきたいというのは感じました。それがどのライブだったかっていうのは分からないですし、いまだにキャーキャーやっぱり言われたいですけど(笑)でもそこが全てじゃないなと。

——キャーっていう声には今もエネルギーを感じる?

マオ なんだろうね、あれは。自分の歌で、明らかに何かが動いているっていうのを感じるからかな。自分の歌に対して興奮して人がキャーって言ってるんじゃなくて、何かが動いてるっていう。一個ずつ紐解いていくと、聴いている人たちの人生だったりとか、みんなそれぞれが動いていて。自分の歌詞だったりとか歌だったりとか曲だったりで。それを感じたときに「ただ人気になりたい」とかじゃいかんなって、発信するものもちゃんとしなきゃなって、しっかりそこで思ったんですよね。

——マオさん個人だけではなくて、シドとしてもそれは、変化した瞬間だったのかもしれないですね。明希さんはいかがですか? ライブに対する今の原動力について。

明希 俺は変わらないですね。やりたいことが変わらないから。音楽が好きなので。バンドをやりたい、ライブをしたいっていうのが、バンドやろうって決めた16〜17歳の初期衝動からずっと変わらない。

——音楽が嫌になったことは?

明希 嫌になったっていうか、疲れたことはもちろんたくさんあるけど。そうですね、ないかな嫌になったっていうのは。音楽自体はね。

——こんなたくさんのライブ本数をずっとやり続けるって想像できないくらいすごいことだなぁと思っているんですが。体力的にも、精神的にも。

明希 あんまり苦じゃないんですよね。体力的に疲れたりとか、精神的に疲れたりっていうのは多分あったんでしょうけど、それで全部崩れちゃったっていうのはまだなくて、幸い。自分としては学生の頃にバンドやって、軽音部で授業終わった後に部活の時間があるじゃないですか。あの感じがまだ終わってないっていう感じなんですよね、変な言い方かもしれないですけど。そういうイメージでずーっと音楽をやれてるから、ライブへの、音楽への欲求がずっとあるから、バンドって楽しいなってずっと思ってきたので、それが原動力ですかね。

——それ、ライブで観ているほうもわかるかもしれないです。シドの魅力って、変わらないことも魅力だと思っていて。少年っぽかったりとか、ステージでずっとバカっぽいこと言ってみたりとか、そういうのを含めて、めちゃくちゃ楽しそうな4人っていうのが魅力だと思うので。Shinjiさんはいかがですか?

Shinj バラードを演奏していて、お客さんで泣いている人を見かけたりするときですね。自分たちが作った曲を、渾身で弾いて、ちゃんと伝わったんだなとか、そういうのがすごい一番嬉しくて。自分も、少年の頃ってライブ見に行って、自分の好きな曲が流れたりするとやっぱり泣くほど嬉しかったりしたので、なんかそういうのいいなぁって思って。

体力的にはずっとやってるのがキツい時もありますけど、そういう瞬間で全部オッケーになっちゃったりするから。最近そういうのすごい感じます。年齢を重ねれば重ねるほど。

——プライベートの自分が変わってきたことが影響していたりはしますか?

Shinj どうなんですかね。ライブで僕が意識してるのは、あんまり緊張しすぎても良くないし、でも緊張感なくなっちゃいけない。だから割とライブに臨む前は、ちょっと自分に話しかけるというか。例えばツアーがちょっと佳境になってくると慣れてくるんで、緊張しなくなってくるんですよ。でもそれじゃいかんぞと自分に問いかけて。ガチガチは駄目だけど、緊張感を持ってちゃんとやりたいなっていう。

——そのバランスは今の方が昔より取れている?

Shinj そうですね。

——ゆうやさんはいかがですか?

ゆうや ライブの原動力……やっぱりファンじゃないかな。ファンの人たちが待っててくれているから、シドのゆうやでいられる、というのが原動力であって、ライブでワッってやれてることが繋がってるのかなって気がしますね。そこがなかったら、もうめちゃくちゃ若くはないですから、そこに逆らってこんなことしてやろう! とかも思わないだろうし。多分きっと、暴れ曲限定ライブなんてやらないだろうし。ここまで色々やってきた俺たちが、ここにきて、暴れ曲限定ライブをやるっていうのは結構傑作だなって思うんですけど。

それも、ファンの人に対しての原動力があるから、そんな自分たち面白くない?ここにきてこれやるの面白くない?って思っているところがあるんですよね。それをやるにはいろんな支度が必要だったりもするけど、それをさせてくれるのはそこらへんのところだったりするんじゃないかと思うんです。じゃないとやれないような気がするんですよね。本当に年相応か、気にしてる部分も気にしなくなるんじゃないかと思いますけどね。体調管理をしっかりしようとかも、多分気にしなくなるんじゃないかな。ライブってファンがいないと成り立たないと思うので。ファンの存在が大きな原動力になっているんじゃないかなと思います。

シドのゆうやでいさせてくれるのはファンだから。若い奴に負けないくらい、これからもバカバカ暴れてやろうと思ってますね。

——若いアーティストのことは気になったりするんですか?

ゆうや 気にはならないですけど、僕らも若いアーティスト、という時期を経てきてるので、自分のめっちゃ若い頃と比較して、いや、あの頃より今の方が全然動けるなって自分でも思っちゃったりするとか色々あるし。そういう、若い頃の自分にまず勝っていきたいなと。俺は割と若い頃から他の人よりも動けるタイプだったりするので、そんな自分に勝ってればもう最高だなって思っちゃったりするんで。どんどんどんどん逆らって、アホみたいにやっていけたらいいんじゃないかなと思いますね、ずっと。

メンバーのエンタメ紹介「窓もトイレも開けていないとダメなんです」

——ぴあのwebとアプリが、”検索では出会えないエンタテインメントとの出会い”というのがコンセプトなので、皆さんが最近出会ったエンタメについて一つ教えてください。

明希 最近家のそばに、めちゃくちゃ美味いカレー屋を見つけて。超辛いんですよ! むっちゃくちゃ辛くて。俺、辛いのあんまりいきすぎると食べれないんですけど、それは結構イケて、楽しみの一つです。次の日に仕事がない日だと、昼間からそこで食べて、そのあと酒飲んで。持ち帰りのも買ったりとかして。ビーフカレーなんですけど、いろんなスパイスをずーっと煮込んでて。強力な辛さなんですけど、イケるんですよね、そこのカレーだけは。辛さだけを売りにして、この辛さに耐えられたらみたいなのあるじゃないですか。そういうのではなくて、ちゃんと旨辛な味なのでそれが好きですね。

——それは食べてみたいですね! マオさんはいかがですか?

マオ 俺もご飯なんですけど、この間、河村隆一さんに連れて行ってもらったお店で、めちゃめちゃエンタメだなと思ったお店があって。お店の中に入ると、まずでっかいワゴンでいろんな食材がバーって置かれていて。その食材から、じゃあこれとこれとこれ使ってパスタ作ってください、とか。まずは前菜から20種類くらい置いてあるんですけど、好きなのちょっとずつでもいいし、これだけいっぱいでもいいしみたいな並べ方ができて、そういうのがどんどんどんどん出てくる。メインのお肉とお魚これですーってまるまるそのお肉とお魚がまず出てきて。これで、この味でこうして下さいとかって言えちゃうやつで。めちゃめちゃ楽しかったです。明希も一緒に行ったんですけど。

明希 美味しかったね!

マオ めちゃめちゃ感動でしたね。こんなお店があるんだって。俺もこういうとこに後輩連れて来たいなって思いました。やっぱ偉大な先輩はそういう引き出しもすごいなって。

——大人だから知っていることですね。Shinjiさんはいかがですか?

Shinj 僕は何年もYouTubeが好きで、すごい詳しいんですよ。最初の頃はチャンネル登録者が5万人だった人が、ずーっと僕が見てたら200万人になったりとか。なんかそういうのが嬉しいと思って。

——自分が見つけた感が。

Shinj そういうのあるじゃないですか。ずーっとその人のこと見てたんですけど。自分って好きな物が偏ってるんだなって思うのが、YouTube見ながら寝てたりすると、全部同じのばっかりループになってるんです。関連で出てくるやつが。朝起きたら魚ばっかりの映像が。魚とかラーメンとか……。

——魚の映像?

Shinj 釣りだったりとか、捌いているところだったりとか。なんかすごいですよね、最近本とか買わなくてもそういう実演みたいなので勉強できるので。すごい好きですね。

——朝まで、それが流れてるってなかなかシュールですが。

Shinj ずっと捌いている動画が流れながら寝てますよ。

——割と音がないと寝られない方なんでしたっけ。

Shinj そうですね、音があった方がいいですね。カーテン閉まってるとあんまり寝られなかったりとか。トイレもドアが開いてたほうが安心するんですよ。

——そこまで。じゃあ家では他に人がいなければトイレはドアを開けて?

Shinj 全然開けてますよ、そっちのほうが落ち着きます。

ゆうや 人がいても開いてる。いても開いてんだよこの人は!

——人に見られても気にならないんですかね(笑)

Shinj なんか不安なんですよね。小っちゃいところに閉じこもってるのが。

——じゃあ飛行機とかやばいんじゃですか?

Shinj もう、ダメですね。

ゆうや Shinjiの隣だと眩しくてしょうがない。窓閉めんなって言うんだもん。

Shinj でも窓閉めたいとか開けてたいは、人によって違うから、半分閉めたりします、眩しいだろうなと思いながら。

ゆうや 半分でも眩しくてしょうがない。

Shinj でも俺は一人だったら全開なんだけど。全開がいいです、本当は。

——(笑)ゆうやさんはどうですか?

ゆうや 僕、吉本以外何も思いつかない。あとは釣りの落とし込みかな。釣りの方法で落とし込み釣りっていうのがありまして。東京って海あるじゃないですか。ああいうところで市場に並ぶような魚が目の前で釣れると思わないじゃないですか、普通。それが釣れちゃうのが意外と落とし込みだったりして。そんなところにそんな魚いるの?っていうのがすごくエンタメ感あるよね、なんかびっくりするんですよ、まず目に見えていないものだから。そんなとこなんて小さい魚ぐらいしかいないでしょう?とか思いがちなところに潜んでるやつが割とちゃんとしていて。それがやっぱりエンタメかな。

都内なのにっていうところに俺はすごくエンタメを感じるんですよね。大自然のどこどこに行って、何かを釣るくらいなら普通の釣りかなとは思うんですけど、都内で高速道路が後ろに走ってるのが見えているところで、しかも橋下目の前のところで釣れるくらいの感じがやっぱり半端ないエンタメ感だなと。

——大物が釣れた時の喜びみたいな?

ゆうや 半端ないですね。トピックスですよ。簡単なんですよ、それがまた。アイテム少ないんで、落とし込みって。ポーンと落として来なかったら、またちょこちょこっと上げて、また落として。居ないところにはいないので。餌をずっとたらして、魚がやってくるのを待つ釣りじゃないんで。居るところに落としてやって、食わせるだけの釣りなんですよ。足使ってやる釣りなんですけどね。ツアーとかでも釣り道具を持って行って、本当にライトなので楽にやれるのに、釣れる魚はドデカいんで。エンタメ感半端ないかな。

あの子たちがついてきてくれるから、新しいことがやれる

——アルバムが出まして、ここからまたシドの新章がスタートということで。ここからのシドのビジョンをうかがいたいです。以前、ベストアルバムを出されたときのインタビューで、マオさんに「目標って何ですか?」とお聞きした時に「シドをやめないこと」だっておっしゃっていて。「やめるっていうことが、ずっとシドを追いかけてきてくれている人を否定することになるから」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。新章としての、これからのシドのビジョンはまた変わってきていると思います。

マオ やめないっていうのはもう普通になってきていますね。やっぱり特殊だと思うんですよ、シドって。ファンの方の持ってくれている比重が、よそと比べるわけじゃないですけどすごく重いというか。同じ気持ち、同じ想いを持って一緒に進んでっているような。まさにあの横浜アリーナの飛空艇のような。同じ想いを乗せて飛んでいるようなバンドだと思うので。

そんなバンドだからこそやらせてもらえることが、新しい挑戦だったりするのかなって。そんなファンの子たちすらもドッキリさせるような、いい意味での裏切りであったり、そこはやっぱり目指していきたいですね。せっかくこういう環境でやらせてもらっているので。

それって普通できないこと、実は難しいことだったりもすると思うんですよね。このタイミングで、こんな新しいことやってみようぜって、なかなか怖くてできなかったりすることも、シドだと「あの子たちがついてきてくれてるし」って思えるから、やれることもたくさんあるので、そこをやっていきたいです。

わかりやすく言うと、新しいことを、新しい扉をどんどん開きながら活動していきたいっていうのはありますね。

——ファンの人たちの熱量が他と違うっていうのは、ご本人たちも感じられているんですね!

マオ 比べたことはそんなにないんですけど、きっとそこに関しては勝負でもないけど、負けないのかなって。というのも、自分たちだけじゃなくてファンのみんなも思ってるっていうバンドっていうところでいうと、16年という時間を長いって捉えれば長いんですけど、俺は短いなって思っていて。16年でこんなものを作れたバンドってなかなかいないんじゃないかなと思って。それは大切にしながら頑張っていきたいですね。

——2003年からって考えると、時間的にはやっぱり長いなって思うんですけど、短く感じるんですね。

マオ そういう色濃いものを作る期間としてはすごく短い。短い時間でやれたのは、すごく幸せだなって思いますね。

明希 今マオくんが言った言葉が一番しっくりくるなって聞きながら思いました。音楽的には、だんだん年月を重ねていくと、「やっぱりこれが好き」ってなっていくと思うんですけど。そういう中に、もっともっと欲しいとか、もっともっといろんな音楽を知りたいとか、表現してみたいという欲求というのは尽きない4人だと思うので。自分の色がもっともっとこの先濃くなっていくと思うんですよ。その中でやっぱり、さっき言った変わらない部分と、変わっていく、進化していく部分がこのバンドにはたくさんあると思うから。そういうところをこれからも大事にして、この先もやっていけるだろうなという、ある種の確信はありますね。

Shinj 今16年やっていて、シドって徐々にグルーヴができてきてるというか。それは確実にあるんですけど、もっともっと何年もやったら、絶妙なグルーヴになっていく気がしていて。このアルバムも16年経った今じゃないとできないと思っていて。すごく尊敬するギターの人とか、めちゃくちゃ上手い人とかいるんだけど、僕はその人には追いつけないだろうし。ギターをめちゃくちゃ上手くなる、とかじゃなくて、シドじゃないとできないこととか、そういう個性をどんどん強くしていきたいですね。

——個性を強めていくというと?

Shinj この演奏を聴いただけでシドってわかるとか、新しいんだけどすごくシドを感じるとか。そういう”じゃないと駄目”っていう感じにしたいですね。演奏の面やライブでのパフォーマンスもそうですけど、他の人が演奏したらダメっていうものにしていきたいです。

ゆうや 僕も同じ気持ちです。ファンの方が俺らのことを信じてずっとついてきてくれてるっていうのがあるので、本当に心置きなくチャレンジできる、させてもらえているから、これからも攻めて行きたいなと思います。

——ありがとうございました!

■New Album『承認欲求』
2019.9.4 Release

【初回生産限定盤A(CD+DVD)】 KSCL-3180/1 ¥3,611+税
【初回生産限定盤B(CD+写真集)】 KSCL-3182/3 ¥3,611+税
【通常盤(CD)】 KSCL-3184 ¥2,870+税

<収録曲>
01. 承認欲求
02. Blood Vessel(アプリゲーム「イケメンヴァンパイア」第2章主題歌)
03. 手
04. デアイ=キセキ
05. see through
06. ポジティブの魔法
07. 淡い足跡
08. Trick
09. 涙雨
10. 君色の朝

■SID TOUR 2019 -承認欲求-
2019年9月13日(金) 千葉 / 松戸・森のホール21 〜ID-S限定LIVE〜
2019年9月14日(土) 千葉 / 松戸・森のホール21
2019年9月23日(月・祝) 群馬 / ベイシア文化ホール(群馬県民会館)
2019年9月25日(水) 神奈川 / カルッツかわさき
2019年10月5日(土) 宮城 / 東京エレクトロンホール宮城
2019年10月12日(土) 埼玉 / 大宮ソニックシティ
2019年10月14日(月・祝) 岡山 / 岡山市民会館
2019年10月19日(土) 大阪 / 大阪国際会議場 メインホール
2019年10月20日(日) 大阪 / 大阪国際会議場 メインホール
2019年10月22日(火・休) 福岡 / 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2019年11月2日(土) 愛知 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2019年11月3日(日・祝) 愛知 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2019年11月5日(火) 東京 / 中野サンプラザホール
2019年11月6日(水) 東京 / 中野サンプラザホール
2019年11月9日(土) 新潟 / 新潟テルサ
2019年11月13日(水) 北海道 / カナモトホール(札幌市民ホール)
2019年11月21日(木) 東京 / 東京国際フォーラム ホールA

撮影/木村直軌、取材・文/藤坂美樹、ヘアメイク/坂野井秀明(Alpha Knot)・大平修子、スタイリング/奥村渉

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