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遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

『OKETA COLLECTION:A NEW DECADE』を桶田ご夫妻と見る

月2回連載

第45回

20/8/5(水)

左から遠山正道、桶田俊二さん、桶田聖子さん、鈴木芳雄 Photo by Yoshiya Taguchi

鈴木 今回は、8月10日(月)までスパイラルガーデン(東京・青山)で開催中の『OKETA COLLECTION: A NEW DECADE』を、桶田俊二さん・聖子さん(以下:俊二、聖子)ご夫婦をゲストに迎え、展覧会はもちろん、コレクションのお話などをうかがっていきたいと思います。

鈴木 まず簡単にご夫妻のことをご紹介すると、お二人は長年ファッションビジネスに携わってこられ、もともとは骨董の収集からスタートされ、現在は世界中の現代アートをコレクションされています。ではまずはコレクションを始めたきっかけなどをうかがっていきたいと思いますが、遠山さんとはある意味コレクター仲間というか、いろんなところでご一緒になることが多いんですよね?

遠山 そうですね、私はこれまでいろんなアートフェアや展覧会でご夫妻とご一緒してきました。でもいつもどんな基準で作品を選んでいるのかな、と思っていて。まずはコレクションのきっかけを教えてください。

俊二 コンテンポラリー・アートを集め始めてから10年が経つんですが、草間彌生さんがそのきっかけです。2009年に草間さんを追いかけたドキュメンタリー映画『≒(ニアイコール)草間彌生 わたし大好き』(2008年)のDVDを見る機会があったんです。そのときに草間さんがとてつもないエネルギーで絵を描いているのを見て、ものすごく感動しました。それで草間さんの作品を生で見てみたい、できれば買ってみたいって思ったのがスタートですね。ただ、すぐにでも買いたかったんですが、ギャラリーに行ってもすぐに作品があるわけじゃない。なので、しばらく待ってから購入することができました。

遠山 まず買ったのは、カボチャの作品ですか?

俊二 最初に買ったのは「インフィニティ・ネット(無限の網)」シリーズですね、その次がカボチャでした。この二つのシリーズを交互に買っていく形で、草間さんのコレクションが増えていきました。

遠山 10年前、すでに草間さんの評価は世界的に高かったですよね。

鈴木 そうですね、草間さんは1957年に渡米、翌年ニューヨークに行って、73年に日本へ帰国。帰国後ももちろん活躍されていたんですが、1993年にヴェネツィア・ビエンナーレに日本館の代表作家として参加し、そこで一躍世界的大スターに。その後の活躍は皆さんもご存知の通りだと思います。例えば2012年にはルイ・ヴィトンとの共同コレクションを発表したことは記憶に新しいですよね。

遠山 そのドキュメンタリーで草間さんの姿を見て作品に興味を持たれたっていうのが面白いですね。

Photo by Yoshiya Taguchi

聖子 コレクションをし始めて少し経った頃、『NHK BSプレミアム 世界が私を待っている 前衛芸術家草間彌生の疾走』(2011年)をテレビで見たんですけど、ちょうどこのときのドキュメンタリーは、世界四カ国、国立王妃ソフィア芸術センター(スペイン・マドリッド)、ポンピドゥー・センター(フランス・パリ)、テート・モダン(イギリス・ロンドン)、ホイットニー美術館(アメリカ・ニューヨーク)での個展に向けて、一生懸命に作品制作をされていた姿を追ったものでした。

鈴木 ものすごく精力的に制作されている姿に魅せられたわけですね。僕はその展示、マドリッドとロンドンで見ましたよ。

遠山 それでコレクションは草間さんから始まり、どんどん拡充されていった。

俊二 しばらくの間は草間さん集中でコレクションしていきました。新しい作品はもちろん、昔の作品がほしいと思ったんですが、どうしても昔の作品、特に1950年代の作品から1990年代までの作品はそう簡単に手に入らないので、国内外のオークションで購入しました。そうして色々な代表的なピースを揃えたら、そこから少しずつ目がほかの方にも向いて、村上隆さんや奈良美智さんの作品をコレクションするようになりました。まずは国内のギャラリーで買い始めたという感じです。

遠山 そこから今度は海外のアーティストのコレクションも始まっていったと。

とにかく大きい

264.8cm四方の巨大な作品、オスカー・ムリーリョ 《VS2 (24,700ft) night into day》(2015-2016年)の前で。『OKETA COLLECTION: A NEW DECADE』展示風景 会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
Photo by Yoshiya Taguchi

遠山 昨年も同じくスパイラルガーデンで『OKETA COLLECTION: LOVE@FIRST SIGHT』を開催されましたが、コレクションの印象としてはとにかく作品がでかい!(笑)さすがコレクターだなって。なかなか買いたくても、2m近くの作品を買うのって普通の人は厳しいじゃないですか。ギャラリストも大きい作品は売りづらいと言ってるぐらいですし。そんな中で桶田さんがお持ちの作品は大きいものが多い。

俊二 置き場所も大変ですけれどね(笑)。

遠山 はじめから大きい作品を購入してたんですか? それに10年前はまだ皆さんにお見せするっていうのは想定してなかったと思いますが、ご自宅に飾っていたりしたんですか?

俊二 はじめから大きい作品を買っていました。自宅にも飾ったことはあるんですが、そんなに大きな作品は入らないです。ただ、購入するときにあまりあとのことを考えていなかったんですね。それに大きい作品により強く惹かれたということもあります(笑)。

遠山 まさに現代アートですね(笑)。

俊二 思わず買ってしまったものが多いですね(笑)。でも、買っても、特に大きな作品は倉庫で保管するしかないので、一度倉庫に入れてしまうと、そう簡単には自分でも見られないんです。ギャラリーから納品されるときはしっかり梱包もされているから、自分で梱包を開けてというのもなかなか大変で。だからこうやって展覧会をやることで、じっくりと作品を見ることができるんです(笑)。

鈴木 基本的にはギャラリーとかに預けたりせずに、ご自身の倉庫で保管されているんですか?

俊二 すべて自分の倉庫で保管しています。

鈴木 こうやって展覧会で見られるのも楽しいですが、見せる収蔵庫みたいなのもいいですよね。そうするとご自身もすぐに見ることができますし。

遠山 それいいですね。

作品はどうやって選ぶ?

遠山 まず初めは名の知られた作家さんから買っていらしたということですが、現在は国や有名無名も年齢問わずに買っていらっしゃるイメージがあります。

俊二 そうですね、もちろん名前や作品を知っていて買う作家もいますが、どんな作家か知らずに、一目惚れや作品のインパクトに惹かれて買うことも多いです。ギャラリーに見に行くときも、あまり下調べはしません。

聖子 作品自体がよいなとか、素敵だなっていう気持ちで選ぶ感じですね。

遠山 でもご夫妻一緒に決められるっていうのはすごくいいですよね。

聖子 それは本当に一番いいと思います。

遠山 よくあるケースですが、奥さんに相談せずにこっそり買うとか(笑)。

聖子 大きいのを買っちゃうから、黙っていてもバレちゃいます(笑)。

鈴木 なかなか隠せない大きさですよね(笑)。骨董をまずコレクションし始めたということですが、そのときからお二人で相談しながら買われたんですか?

俊二 そうです。20年前くらいから骨董を集め始めたんですが、やっぱり二人で見て、二人がいいっていう作品を買ってきましたね。

鈴木 それってとても素晴らしいことですよね。

村上隆 《Mr. DOB Comes to Play His Flute》 2013年 キャンバスにアクリル、アルミフレームにマウント 100×100 cm ©2013 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin

遠山 先ほども言いましたが、今回も有名無名問わずにいろんな作家さんの作品が展示されています。

鈴木 会場には、特に有名どころとしてはコレクションのきっかけとなった草間彌生さんをはじめ、村上隆さん、奈良美智さん、名和晃平さん、ロッカクアヤコさん、五木田智央さん、ゲルハルト・リヒター、シュテファン・バルケンホールといった作品が並びます。そのほか若手でいま人気のあるストリートアートの世界から独学で世界的に有名になった松山智一さんや、スペインの画家ハビア・カジェハのほかに、1980年代生まれの作家の作品も多いですよね。

奈良美智 《Collage of Previously Unreleased Drawing II》(2013年)の前で。『OKETA COLLECTION: A NEW DECADE』展示風景 会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)

俊二 そうですね。やはり国内外の若くて勢いのある作家は、重要だと思っています。おっしゃるように今回は1980年代生まれの作家の作品も多く展示されていますが、そのほとんどが2019年に購入したものです。でも正直、若手の作家は名前やどこの国の人か、というのがなかなか出てこない。もちろん草間さんや村上さん、奈良さんなどは当然わかりますが(笑)。

聖子 作品のことは頭に入っていても、名前とか経歴とかはなかなか覚えられないんですよね(笑)。

俊二 ほとんどいい加減なアートコレクター(笑)。

遠山 じゃあ本当におっしゃるように、ピンッときたら買うってことですよね。フィーリングだ。でもそういうのって大事ですよね。もともとファッション業界でビジネスをされてきたから、トレンドを読むのがお上手だと思うんですよね。

鈴木 王道はもちろん、それ以外に面白いものを見つける嗅覚が鋭い。

松山智一 《Sing It Again Sweet Sunshine》 2019年 キャンバスにアクリル、ミクストメディア 254×1
94cm

遠山 本当にそうですよね。でもOKETA COLLECTIONはまだまだたくさんの作品が所蔵されていますよね。

鈴木 昨年のラインナップを考えても、OKETA COLLECTIONは本当に幅広い作品をお持ちだな、と思わされましたね。例えば昨年は、草間さんや村上さんはもちろんのこと、2018年にルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターに指名されたヴァージル・アブローや、KAWS、MADSAKI、Mr.、空山基さんといったそうそうたる作家の作品が並んでいました。

遠山 しかも今日、俊二さんラフな格好かな、と思ったら、ヴァージル・アブローのハイエンドのストリートブランド「オフホワイト」の洋服と靴でいらっしゃって。これもさすがだなって思いました(笑)。

鈴木 確かに(笑)。それにしても、10年でこれだけのクオリティの作品が集まるんだって驚いています。アート作品って、皆さんお金があれば買えるって思っていらっしゃるかもしれませんが、実はそうじゃない。お金はもちろん必要ですが、時間も必要なんです。いい作品が出てくるのを待つ。お金はともかく時間は平等ですね。そして、やっぱりご縁があるかどうかが重要。お二人は直感をお持ちだし、感覚が磨かれてますよね。タイミングを読む力もおありになる。だからこそ、素直に作品が集まってくるんじゃないかなと思います。しかも作家の代表作と言われるような作品を持っていらっしゃる。ギャラリーも誰に重要な作品を売るかっていうのは、当然ある程度考えていたりするわけで。そういうのが桶田さんのところに集まるっていうことからも目が離せないです。

遠山 本当にその通りですよね。特に五木田さんの作品は前回も今回も重要作品。

五木田智央 《Come Play with Me》 2018年 キャンバスにアクリルガッシュ 259×194 cm

鈴木 そうですね、特に今回出品されている《Come Play with Me》は、2018年に東京オペラシティ アートギャラリーで開催された五木田さんの個展『五木田智央 PEEKABOO』のために描き下ろされた作品で、同展のメインヴィジュアルにもなった作品。

遠山 ちなみに五木田さんと出会ったのはいつ頃なんですか?

俊二 2014年にDIC川村記念美術館で開催された個展『五木田智央 THE GREAT CIRCUS』のときです。いいな、ほしいなって思って。

鈴木 その目利きがすごいですよね。やっぱりいろんな展覧会やギャラリーを見ていらっしゃるから、出会えるっていうのもあるんでしょうね。

遠山 それにやっぱりきちんとギャラリストや作家の方々とも密にお付き合いされているから、いい出会いが生まれるんでしょうね。そういう語り合うっていうお付き合いも楽しいところだと私も思います。

聖子 そういうお付き合いは大事だし、楽しいところだと私も思います。お話したりお食事したりすることができるのが、現代美術の作家さんたちですものね。

鈴木 作家さんからの言葉を直に聞くことができるのが、現代美術の面白さの一つでもありますよね。

名和晃平 《PixCell-Deer#48》(2017年)を見る4人。奥には左からオスカー・ムリーリョ《VS2 (24,700ft) night into day》(2015-2016年)、ヴィルヘルム・サスナル《Untitled》、サーニャ・カンタロフスキー《Good Host II》といった作家の作品が並ぶ。『OKETA COLLECTION: A NEW DECADE』展示風景 会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)

鈴木 そして今回のメインというか、やはり一際目立つのが名和晃平さんの《PixCell-Deer#48》。名和さんといえばやっぱりこの「PixCell=Pixel(画素)+Cell(細胞・器)」のシリーズが有名ですが、これもかなり大きな作品ですよね。

俊二 今回、会場の一番奥に展示したのですが、ものすごい存在感です(笑)。

コレクターの力

鈴木 あと僕はいつもコレクターの力ってすごくいろんなところに影響を及ぼすと思っているんです。歴史的に見てもそうじゃないですか。単に作家が作ってギャラリストがっていうだけじゃなくて、どのコレクターがどんな作品をどういう形でみんなに紹介するかっていうことが、特に現代美術の活動にすごく大事。だからコレクターの存在感も近年すごく高まってますよね。特に若手作家は誰に買ってもらうかでその後が変わってきたりもするし。

俊二 まだまだ知られていない作家はたくさんいるので、新しい出会いも探していきたいなと思っています。

遠山 じゃあぜひ美大とかの卒業制作展に行くことをオススメします。気に入ったら、海外の有名アートフェアと同じように買ったり交渉したりできて、買うことができますから。

俊二 いままでまったく行ったことがなかったので、面白そうですね。

遠山 OKETA COLLECTIONに入った、草間さんや村上さんと並んだってなると、それだけで無名の作家は自分を知ってもらう機会にもなると思います。前回と今回で約20点ずつの作品が展示されましたが、まだまだその全貌は実は桶田さんも我々も計り知れない(笑)。

鈴木 いったいこのほかに何をコレクションしているのか、ものすごく見たいし知りたいですよね。草間さんの1950年代頭の作品もお持ちということだし、ほかの作家の重要作品たくさんお持ちだろうから、これからもどんどん見せていただきたいです。しかもこの展覧会は無料で見ることができますからね。ありえない(笑)。

遠山 普通にお金を取って見るレベルですよ(笑)。ちなみに要予約で、チケットはArtStickerで予約することができますので、詳細はhttps://artsticker.app/share/events/detail/179をご覧ください。

俊二 私たちも自分たちが持っている作品を普段は目にすることができないから、こうやって展示することによってちょっとずつ自分たちのコレクションを再発見するっていうのもあるんですが(笑)、でもやっぱりお客さんに見ていただくのが一番だと思っているんです。見ていただき、アートは楽しいという思いを共有したいなって。

鈴木 でもこれからも次々とコレクションが増えていくでしょうから、どんどん展覧会やっていかないとですね。

俊二 機会があったら、いろんなところでいろんな作品を見せたいなって思っています。

遠山 でもまずはコレクションの全貌の一端ではありますが、最先端の現代アートを見ることができる今回の展覧会にぜひ足をお運びください!

構成・文:糸瀬ふみ


プロフィール

遠山正道 

1962年東京都生まれ。株式会社スマイルズ代表取締役社長。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」などを展開。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


鈴木芳雄 

編集者/美術ジャーナリスト。雑誌ブルータス元・副編集長。明治学院大学非常勤講師。愛知県立芸術大学非常勤講師。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。『ブルータス』『婦人画報』ほかの雑誌やいくつかのウェブマガジンに寄稿。

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