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THE CHARM PARK、原点とこの先の未来が交差した10カ月ぶりの単独ライブ 多彩な編成で聴き手を癒した暖かな空間

リアルサウンド

20/12/23(水) 18:00

 THE CHARM PARKは音楽に何を託してきたのか、彼の表現の源泉を見るような時間だった。コロナ禍によって多くの活動が制限された中、実に10カ月ぶりのワンマンライブである。場所はBillboard Live YOKOHAMA。ここ数カ月積極的に配信ライブを行ってきたTHE CHARM PARKだが、やはりオーディエンスを前にして、仲間と共にステージの上で演奏するのは格別だろう。この場に集まった観客も、言葉は発さずともきっと彼の音楽に興奮していたと思う。開始時間が過ぎ会場に期待の色が満ちる中、ライブは彼の弾き語りで静かに幕を開けた。

 この「静けさ」こそ、今のTHE CHARM PARKの象徴するものだろう。1曲目は2月3日にリリースすることが発表された、新作『Bedroom Revelations』に収録される「until you fall asleep」。慈しむようにそっとつま弾かれるアコギに、彼の柔らかい歌声が乗っていく。続く「in heavenly peace」も新作に収録予定の楽曲で、演者は彼ひとり。打ち込みのシーケンスをバックに、しっとりとした歌を聴かせていた。彼のプライベートルームに招かれたような、心安らぐ時間が流れていく。

THE CHARM PARK

 夏頃に取材した際、「今はバックグラウンドミュージックに興味がある」と言っていたTHE CHARM PARK。「聴く人の意識を邪魔しないような音楽を作りたかった」とは、本人の弁である。そうしたBGMになる音楽をコンセプトに、アルバムを作る予定だったこと、その最初の一歩目が「ad meliora」だったことを語ってくれていた。つまり、本ライブの3曲目のまでが来年以降の彼のモードと言ってもいいだろう。

 BGMへの意識は、間違いなくコロナ禍の状況を踏まえて強くしていったはずだ。彼は暗い時代に対し、愛情で応えようとしているのだと思う。元々オーガニックな音質や、包み込むような暖かい声が魅力の音楽家だが、改めて彼の表現は生活に寄り添うものへと向かっているのだろう。この日最後のMCで、「今だけは幸せであって」と口にしていた。それこそが彼の音楽の本質である。THE CHARM PARKの音楽は暖かく、癒すように聴き手に流れていった。

THE CHARM PARK

 「ad meliora」からはバンドメンバーを招いてのステージである。登場したのは金藤稔人(Piano)、小川洋行(Ba)、神谷洵平(Dr)と、お馴染みの面々。これまで幾度となく演奏してきた4人が、久々に楽器を鳴らし合う喜びを、互いに噛みしめていたように思う。

 また、4曲目の「Open Hearts」以降のセットリストが、ほとんどインディーズ時代に発表した楽曲だったこともこの日の特徴だろう。誰もが自分自身を見つめる時間を持つことになった2020年、肩の力を抜いて、自身の原点に立ち返った歌を歌おうとしたのかもしれない。

 思い切りエレキギターを弾き倒す「Dear Sunshine」は、前半のハイライトである。いわばTHE CHARM PARKのギタリストとしての性を垣間見る瞬間で、ギター少年として育った彼にとって、きっとライブの中で最も気持ちの良い時間のひとつのはずだ。

 さて、ここからはサプライズと言ってもいいだろう。ライブの編成がこれまでにはなかった、新鮮な布陣へと変わっていく。まず、バイオリンを招き披露されたのが「ディスク」である。初期の作品の中ではとりわけ躍動感を持った楽曲であり、配信ライブではルーパーを足した弾き語りで演奏されていたが、やはり有観客ライブでこそ真価を発揮する1曲だ。バイオリンが入ったアレンジでは、一層ダイナミックな楽曲へと化けていた。続く「A LETTER」からは、チェロとビオラまで加わったスペシャル編成。ライブでストリングスを入れたのは初めてのはずだが、恐らくTHE CHARM PARKの頭の中では、ずっとこの音が鳴っていたのだろう。あるべきピースがハマったように、後半は一層豊かなアンサンブルへと変わっていく。

THE CHARM PARK

 「Ante Meridiem」は一際美しい1曲で、神谷洵平の繊細なタッチのドラムもうっとりするようなリズムを作っていた。そしてTHE CHARM PARKらしい演出が差し込まれたのが、「Don’t Stop」である。「皆さん心の中で思い切り叫んで」と言い、コールアンドレスポンスを促したのである。きっと、彼にとっては「声を出せるかどうか」はさして重要ではないのだろう。その日集まった人と、音楽を通して交歓する。そのほうがずっと大事なのだ。「本当に聴こえるよ!」と言った瞬間が、この日一番の笑顔だった。「こんな日々も振り返った時に笑えるように」、「前へ進んでいこう」という言葉には、ずっと迷いながらも音楽を作ってきた彼なりの、決意と覚悟が滲んでいたように思う。

 「Always」と「Lost」の2曲は、本ライブのクライマックスである。前者はピアノの旋律から、後者はストリングスの調べから始まる音楽で、それぞれイントロが楽曲のカラーを示している。素朴ながらも息を呑むような美しさを持った「Always」、そこで歌われる<今だけの時間を大切な時間を/思いっきり生きれるように>というメッセージは、一層強い意味を持っていたはずだ。一方「Lost」は7人編成が最も活きた楽曲で、この曲の持つ壮麗さは、彼のディスコグラフィの中でも随一だろう。もっと広い舞台で聴いてみたいと思わせるような、楽曲の持つ懐の深さに気づかされる。

THE CHARM PARK

 最後は1stミニアルバム『A LETTER』からとなる「Holding Hands」である。彼はかつて自らの作る音楽が、自分自身の道標になると語っていた。きっと灯台の明かりのような、不安な時にそっと足元を照らしてくれるような音楽なんだと思う。2021年がどんな年になるかは誰にもわからない。が、せめてこの音楽が鳴っている間だけは、と思う。THE CHARM PARKの原点と現在、そして少し先の未来が交差するような、そんなライブだった。

■黒田隆太朗
編集/ライター。1989年千葉県生まれ。MUSICA勤務を経てフリーランスに転身。
Twitter(@KURODARyutaro)

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