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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

正統派名画座・神保町シアターだからできる 『ドラえもん映画祭2020』がすごいワケ

隔週連載

第29回

20/1/26(日)

古書街、神田神保町にある「神保町シアター」は小津安二郎監督、成瀬巳喜男監督作品を始め、正統派の名作を特集する名画座として知られている。2月1日から3月5日までの34日間は、「ドラえもん映画祭2020」と題して、ドラえもん映画の全過去作を一挙上映。2010年以前の公開作品は35ミリフィルムでの上映で、ドラえもんをスクリーンで楽しめる貴重な機会になる。

地下鉄「神保町駅」から徒歩約3分。三角形の銅板耐震壁を張り合わせた未来的なデザインの建物が目印。戦前の神田神保町は、映画館や寄席が多数存在していた。そこで、地元企業である小学館が「劇場建設を通じてかつての活気を呼び戻し、地元の人が集まる施設を」との思いを込め、2007年7月、オープン。ビルには99席(全席自由席)の映画館のほかに、2階には吉本興業運営の劇場「神保町花月」(126席)が入居している。

映画館としては独創的な外観

上映ラインナップはかつての銀座・並木座(98年閉館)を思わせる正統派の名画座というイメージだが、オープン当時はロードショー館だった。こけら落としは、小学館が製作に参加したアニメ『劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ』。その秋には『ALWAYS 続・三丁目の夕日』も上映している。「新作の合間に名作の特集を組んでいったところ、人気になり、2年目の2008年から名画座として運営するようになりました。旧作上映は町の方たちにも評判がよく、自然と方針が変わっていきました」。

地下にあるシアターは傾斜があり、見やすい。全99席

こう話してくれたのは、開館時アルバイトとして勤務し、現在、支配人を務める佐藤奈穂子さん。現在は4週を基本にした特集中心のプログラム編成で、多くのシニア層を集め、ここ数年の動員は好調だ。「最初の10年ぐらいは圧倒的に後期高齢者(75歳以上)の方が多かったですね。今は80〜90年代特集をやると、50〜60代の方が多いです。お客さんの年齢層を逆算して、プログラムを組んでいます。年を経るに従い、上映作品も年齢層もだいぶ変わったのではないでしょうか」。

佐藤奈穂子支配人

定番は成瀬、小津監督作品。この巨匠の作品は特集ではなくとも、俳優・女優特集をすれば、必ず何本かは入ってくる。両監督以外で最近のヒットは4回を数えた芦川いづみ特集だ。「なぜ入ったのかは正直、よくわかりません。太地喜和子さん、森光子さんといった名画座ではあまり特集を組まれたことがない女優さんを取り上げて、お客さんの反応を見たりもしています。神保町という土地柄、文芸作品も人気がありますね」と話す。

こうした名作特集の中にあっては異彩を放つ「ドラえもん映画祭」だが、出版元である小学館グループである名画座ならでは、の企画。2010年をスタートに、5年おきに開催し、今回で3回目。今年はドラえもん誕生50周年のメモリアルイヤーでもあり、長編39作のほか、短編14作も初めて特集する。「短編には(『クレヨンしんちゃん』や『河童のクゥと夏休み』の)原恵一監督作品もあります。2010年までの作品は全部フィルムで、スクリーンで上映できる貴重な機会となります。東宝さん映画ですが、TOHOシネマズではフィルム上映できないので」

普段、チケットは窓口での手売り販売だが、「ドラえもん映画祭」では、チケットぴあで前売券も販売する。「前回の動きを見ると、80年代後半から90年代の作品が人気ですね。第1回の時には地方からいらっしゃる方、泊まり込みもされる方がいて、始発電車に乗って来ても、観られないということもありました。客層は20〜30代が多いですが、普段、通ってくださる年配の方もいます。こんなに長く幅広い方に愛されているんだと実感しました。『ドラえもん』をきっかけに、神保町シアターを知ってくだされば、と思っています」と佐藤さん。

ロビーの壁を埋める過去の特集上映のチラシ。ビジュアルは秀逸なデザインばかり

「ドラえもん映画祭」は大成功間違いなしの特集だが、今後はどんな映画館を目指すのか。「どの名画座も同じ悩みを抱えていると思いますが、深刻なのは、フィルムの状態です。昨年末、『没後50年 成瀬巳喜男の世界』という特集を組んだのですが、2、3年前に上映できたフィルムが劣化していて、なんとか1週間しのいだという状態だったんです。だから、前回のような特集はもう組めないと思います。80年代の作品にも傷みがあって、年々かけられる作品は減っています。もちろん、作品の一部はDVDやブルーレイになっていますが、配給会社が貸してくれるのはフィルム。毎回、取り寄せて、状態をチェックし手間が結構かかります。また映写機をめぐる環境も厳しいです。製造が終わっていて、部品が買えない。フィルムが先か、映写機が先か。そんな中で、どうやって皆さんに良質な映画を届けていくかを考えていきたいです」。

フィルムの破損、修復は名画座だけではなく、映画界全体の課題だ。映画ファンの側も「いつでも観られる」ではなく、「これを逃したら最後」のつもりで名画座に足を運んだ方がいいだろう。

映画館データ

神保町シアター

住所:東京都千代田区神田神保町1-23
電話番号:03-5281-5132
公式サイト: 神保町シアター

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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