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和田彩花の「アートに夢中!」

大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演

毎月連載

第29回

現在、東京都江戸東京博物館で開催中の『大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演』(2020年1月19日まで)。2014年に全国3会場で約38万人を集め、一大浮世絵ブームを作り出した『大浮世絵展』に続く第二弾の今回は、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳という大人気絵師5人に注目。しかも、歌麿の美人画、写楽の役者絵、北斎・広重の風景画、国芳の勇壮な武者絵と機知に富んだ戯画、と5人の絵師の得意ジャンルに絞り、「誰もが知っており、そして誰もが見たい」浮世絵展となっている。2014年の展覧会も見ていた和田さん。さて今回の展覧会ではどんな浮世絵に惹かれたのだろうか。

浮世絵が好きになったきっかけが
2014年の『大浮世絵展』

私が真剣に浮世絵と向き合ったのは、2014年に東京都江戸東京博物館で開催された『大浮世絵展』でした。この時は、浮世絵に関する本を作っていく中でいろいろと教えてもらいながら展覧会を見て、浮世絵について一気に知っていったという感じです。自分からすごく興味を持って、というわけでは実はなかったんです。でも、浮世絵を好きになる入口になった展覧会でもありました。

今回はその第二弾ということで楽しみにしていたのですが、展示されている作家も、展示されている作品もどれもメジャーで知っているものばかり。それが最高に充実している部分だし、最高に楽しめた部分でした。それに各絵師たちの違いもとてもわかりやすいですし、しかも絵師たちの一番得意で、一番有名な作品がこれでもかと並ぶ会場はとても贅沢な空間になっています。

そんな中で私が今回気になったのが、いわゆる展覧会の目玉となるようなメジャーな作品ではなく、北斎や広重が描いた花鳥画でした。

北斎の花鳥画の美しさと面白さ

葛飾北斎《菊に虻》
大判錦絵、天保(1830〜44)初期
ミネアポリス美術館蔵 Photo:Minneapolis Institute of Art
展示は12月15日(日)まで

まずは北斎の《菊に虻》という作品。単純にきれいだなあって思いました。実は私、浮世絵で「きれい!」って思うことがこれまで意外となかったんです(笑)。だから、花鳥画というテーマの作品に魅力を感じたのかもしれません。

この作品の面白いところは、北斎の観察眼。でも、とても細かいところまで観察しているとわかるのに、実際はその特質を見出して、それを描いているような気がするんです。目の前にある花そのものを描いているわけではないというか。でもちょっと図鑑的なところもあると思いました。それは、菊の表と裏を描いているということ。

一つの絵の中で、菊のいろいろな側面を描き出し、見ている側にただきれいな菊の正面の姿だけを見せるだけじゃないのが、北斎的なユーモアがあると思って、面白く感じました。

ただ、図鑑的かなとは思うのですが、どうしても現実的ではないんですよね。表と裏を見せる不自然な構図や、どこにどうやって咲いているのか、茎から下はどうなっているのかとか。とてもデザイン化された画面構成だと思います。

でもこういう面白さは、北斎ならではかな、と思います。執念とも言えるような、ものすごく集中して対象物を見ている北斎の姿が目に浮かびます。でもそれを構築し直して、画面の中に落とし込む。

でも、真っ逆さまに落ちていくような、動きのあまり見えない虻と菊、本来はその後ろには空があったり、家があったりすると思うんですが、いっさい景色が描かれていません。それも面白いなって思いました。

実は逆さま?
広重のおかしな小鳥

歌川広重《椿に小鳥》
大短冊判錦絵、天保3〜6年(1832〜35)
ミネアポリス美術館 Photo:Minneapolis Institute of Art
展示は12月15日(日)まで

そしてもう1点、広重の《椿に小鳥》という作品も面白かったですね。初め見た時、一筆箋みたいだなと思いました(笑)。北斎とはまた違った、とても独特な構図とバランスです。

椿の花はまったく輪郭線がなく、ぼんやりしていて、葉っぱの方がしっかりしています。でもこの構図も、全体的にとても不自然で違和感を感じてしまいます。鳥も、椿の枝振りも、蕾の位置も角度も……。そう思いながらずっと見ていると、天地が逆!? とも思えてきてました。

実は私、昔、文鳥を飼っていたことがあるんです。迷い文鳥が祖父の肩に乗って帰ってきて、そのまま我が家で飼うことになったんです(笑)。その文鳥も、こんな不自然な格好を一瞬ですが、していたんですよね。首の角度とか。思い出します。ただ、こんなふうに逆さまの鳥の姿を描き出すのは、広重って素直じゃないなあって思いました(笑)。作品の天地を逆にしても、あまり不自然じゃないんですよね。そういったところも面白いところです。

展示を通して、北斎も広重も、ただお花や鳥、虫たちの綺麗なところを描き出したいと思ってはいないのかな、と感じました。どちらもものすごく丹念に対象を見ているけれども、ただそれをそのまま美しく描き出すわけではない。例えば西洋では、自然な見え方を求め、写実的に描くことが求められる時期が長く続きました。作家も写実的に描くことをしてきました。それとはある意味真逆の世界です(笑)。いったい日本人はどういった目や発想で、浮世絵に描かれる世界を作り上げていったのでしょうか。それがまた浮世絵の面白さだと思いました。

マネの絵の中に
歌川国芳!?

歌川国芳《龍宮玉取姫之図》
大判錦絵3枚続、嘉永6年(1853)
展示は12月17日(火)〜1月19日(日)

実は今回出品される作品の中に、マネの《休息(ベルト・モリゾの肖像)》(ロードアイランドデザイン学校美術館蔵)という作品の中に描きこまれた浮世絵作品があるんです。

《休息(ベルト・モリゾの肖像)》は、白いドレスを着た女性、ベルト・モリゾが、少し気怠げに、足を前に投げ出してソファに座っている姿が描かれています。そしてその女性の頭上に、粗い筆致で《龍宮玉取姫之図》が描かれているのです。

一見どの絵かなんてわからないくらい、正確には描かれていないのですが、一番左の女性の姿だけ、それなりにはっきりと描かれています。

このベルト・モリゾという女性は、ブルジョア階級の家庭に生まれた印象派の画家。そしてマネの絵のモデルであり、マネの弟の妻でもありました。19世紀のフランスにおいて、女性の画家というのはとても珍しかったんです。

当時の女性は、正規の美術教育を受ける機会がじゅうぶんに与えられていなかっただけでなく、女性とはこうあるべきと求められることも多く、また、30歳になっても結婚していなかったモリゾは、それについても周りからいろいろと言われていました。女性はこうあるべき、と型がある上に、男社会だった当時の画壇の中でモリゾは戦っていたわけです。

そういった女性らしさを求められた時代、この《休息(ベルト・モリゾの肖像)》という作品は、足を投げ出した気怠げな姿が女性としてあまりよくないと、モリゾの母親がマネに、これがモリゾであるということは言わないで欲しいと頼んだというほど。

でもずっと私はこの作品になぜ国芳の浮世絵が描きこまれていたのか、不思議でした。
後期からの展示になるのでまだ実物は見れていないのですが、《龍宮玉取姫之図》がどういったお話かを知ると、なんとなくモリゾの上に描かれたのがわかるような気がしました。

《龍宮玉取姫之図》で左端に描かれているのは、讃岐志度浦の海女。藤原鎌足へ唐の皇帝の后となった娘から送られた面向不背の“玉”が、海で竜神に奪われてしまいます。鎌足は諦めきれず、海女に玉を取り返すように頼みます。そして海女は海に潜って龍宮から玉を取り返すものの、龍宮の眷属に追われ、自らの乳房の下を切って玉を隠し、鎌足に玉を届けた、というお話です。左の女性以外はすべて竜神や龍宮の眷属という構図。女性に味方はいません。

それを知った途端、この海女とモリゾが重なったんです。女性が自分の信念を持って、一人で戦うということ。

マネがこのお話をきちんと知って、理解していたかはわかりません。でもこの襲われ、一人戦い、大事なものを守る女性の姿が、モリゾに重なったのは間違いないと思います。

私はいままで、描かれていることは知っていたものの、きちんと調べてこなかったんですが、今回新たに気づくことができ、大きな発見を得ることができました!

ほかにもある浮世絵の楽しみ方

私が浮世絵を生で見る醍醐味と思っているのは、絵の中の凹凸です。浮世絵って、ただ平坦で、フラットだと皆さんは思っているかもしれません。でも実際のところは、もちろんすべての作品ではありませんが、絵の表面が加工されて、着物の柄なんかが凹凸になっているんです。

そういう生でじっくりと見なければわからないような、とても繊細で細かな技術というものにいつも驚かされます。そしてそこがまた浮世絵の、そして日本人の美意識の高さなのではないかな、とも思っているんです。

そういったことって、やっぱり会場に足を運ばないとわからないと思います。今回出品されている作品は素晴らしい保存状態のものばかり。色もとても鮮やかです。

皆さんよく見てるから知ってる、という作品ばかりかもしれませんが、ぜひ会場で実物と対面してほしいですね。実物を見るからこそわかること、発見できることがまだまだ浮世絵にはあると思います。

しかも今回は5人の絵師を見比べることもできる贅沢な内容。お気に入りの絵師を見つけに行くのもいいかもしれませんね。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

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