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『逃げ恥』はなぜ共感を得やすいのか? 特徴的な“カット割り”と“モノローグ”の効果

リアルサウンド

16/11/8(火) 6:00

 若手の脚本家・演出家として活躍する登米裕一が、気になる俳優やドラマ・映画について日常的な視点から考察する連載企画。第13回は、大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』について。(編集部)

 ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が、2016年のドラマ最高満足度(テレビウォッチャー調査)を更新しました。(参考:新垣結衣主演「逃げるは恥だが役に立つ」が今年のドラマ最高満足度更新!https://tv-watcher.jp/news_article/576)『逃げ恥』から目が離せない理由、応援したくなる理由はいくつかあると思いますが、今回は“カット割り”と“モノローグ”から、考察してみたいと思います。

 今回のドラマでは、星野源さん演じる津崎平匡は何度か緊張の面持ちで新垣結衣さん演じる森山みくりと対峙します。あるいは平匡は会社の同僚とも対峙するのですが、その際に何度かカットが割られています。みくりと平匡の2人が映るカットから、平匡の表情のアップのカットになったかと思えば、光の射す演出のカットが入る事もあります。ドラマでは一瞬のシーンですが、撮影現場ではこの間、中断と再開を繰り返して何度も同じシーンを撮り直しています。

 星野さんがすごいのは、どのカットにおいても同じ体で撮影に臨んでいるように見受けられるところです。たった一度の撮影にピークを持っていき、いい芝居をする役者さんはもちろんいます。でも、淡々と同じ芝居を維持することーー時間を空けたカットでも上半身の硬さ、呼吸の乱れ、顔の強張りなど、同じものを用意することは、地味に見えて難しい。そして、星野さんはその難しいことがきちんと出来ているので、カットを切り貼りしても自然に見えます。意識して見ないと、本来は繋がっていないことを忘れてしまうほどです。『逃げ恥』が感情移入しやすいのは、星野さんの芝居における確かな技術があってこそだといえるでしょう。

 また、『逃げ恥』は“モノローグ”にも特徴があります。通常、ドラマのシナリオにはト書きで“N”と表現されるナレーションと、“M”と表現されるモノローグがあります。Nは状態、Mは登場人物の心情を語るものです。モノローグが一切ない恋愛ドラマももちろんあります。あるいはヒロインのみがモノローグを担当し、主人公の男性は何を考えているのか分からないパターンも、割と多いのかもしれません。

 『逃げ恥』の場合は、みくりも平匡もともに、モノローグで心情を語ります。案外、この形式はドラマにおいて少ないんですね。ふたりともモノローグで、自分の不甲斐なさややるせなさを語っていて、だからこそ応援したくなるのですが、単純にモノローグを増やせば人を惹きつける良いドラマになるかというと、そうではありません。むしろ、「モノローグで語ってしまうのは簡単だけれど、見ている人が表現(エンターテイメント)を感じづらいので、モノローグを多用するのは危険である」と、私は教えられました。たしかに、主人公が立っているところに「私は寂しい」とモノローグを入れれば、寂しいシーンとして、「私はすっきりしていた」と入れれば晴れやかなシーンとして成立してしまいます。モノローグは、使い方によっては役者の表現をつまらないものにしかねないのです。

 その点、『逃げ恥』のモノローグは工夫があって面白いです。みくりは妄想癖を持っていますが、その斬新な妄想シーンの中でモノローグが語られることがあります。色々なコンテンツに対するパロディが展開されることもあり、それ自体が面白いのですが、その中でのみくりのモノローグは、単に心情を説明するだけではなく、新垣結衣さんならではの表現(エンターテイメント)に昇華されているのです。

 モノローグという手法を、積極的に表現として活用したところもまた、ふたりに親しみを抱かせる一要因になっているのは間違いないでしょう。本当に巧みな構成のドラマだと思います。

■登米裕一
脚本家・演出家。映画『くちびるに歌を』CX『おわらないものがたり』NHK『謎解きLIVEシリーズ』などの脚本を担当。大学時代に旗揚げをした劇団『キリンバズウカ』の主宰も務める。個性豊かな登場人物たちによる軽快な会話の応酬を持ち味としており、若手作家の躍進著しい演劇界の中でも、大きな注目を集める。また演技指導家としても評価を得ており、現在多くのワークショップ依頼を受けている。

■番組情報
『逃げるは恥だが役に立つ』
毎週火曜日よる10時〜
製作著作:TBS
原作:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社“Kiss”にて連載中)
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:那須田淳、峠田浩、宮﨑真佐子
演出:金子文紀、土井裕泰、石井康晴
(c)TBS

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