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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

9月7日(土)から開幕した第41回PFF 

エンタメ通が伝授!第41回ぴあフィルムフェスティバル特集

吉田伊知郎ーPFF初日レポート

全6回

第6回

19/9/12(木)

連載第6回は、連載第2回と3回目にも登場していただいた映画ライターの吉田伊知郎さん。毎年、PFFに足繁く通う吉田さんなりの今年の映画祭初日について振り返って頂きます。ちなみに、映画祭自体は21日(土)までですが、アワード作品は15日(日)までの上映となります。

第41回PFF初日鑑賞日記

9月7日、9時半起床。本日よりPFFが開催されるので、初回の11時までに会場の国立映画アーカイブに入らねばならないが、家を出るのにもたつき、京橋駅に到着したのが11時。駅から会場まで1分、上映前にはPFFディレクターの荒木啓子さんの挨拶があるのが恒例なので、上映開始には間に合うはずという目論見どおり、会場の国立映画アーカイブ2階の長瀬記念ホールOZU(フィルムセンター大ホールからの改称には未だなじめない)に入ると壇上に荒木さんの姿が。席について間もなく暗転してAプログラム1本目の『くじらの湯』(キヤマミズキ監督)が始まる。

『くじらの湯』(キヤマミズキ監督)

7分の短編アニメーションだが、幼女が母親に連れられて行った銭湯という異世界を、圧倒的なビジュアルと音響で見せる。幼女が見た湯の中に広がる夢とも現実ともつかない世界と巨大な女体は、幼児の頃の歪んだ空間認識や、虚実混在した世界認識が具現化されたかのようで見入ってしまう。

上映後に登壇した監督が自身の出自を語り、こうした母親像をなぜ描くことが出来たのか一端が明かされたが、異文化を知って理解を深めることの豊かさがこうした作品を生み出したわけか。水の描写の素晴らしさは『マインド・ゲーム』(2004)を想起させると思ったが、現在、湯浅政明監督のもとで修行中と知って納得。

続けてAプログラム2本目『アボカドの固さ』(城真也監督)。クソみたいな性格の主人公が彼女との復縁を信じて猪突猛進していく。なんともウザい奴で愛嬌すら感じないが、改心して心を入れ替えるような偽善さが皆無なのが良い。自暴自棄で苛立ち、鬱屈する姿に惹かれる。

『アボカドの固さ』(城真也監督)

上映後、会場を出ると今年の最終審査員である白石和彌監督に会う。「PFFに応募したことが?」と尋ねると無いと言う。熊切和嘉監督と同じ1974年生まれ、同じ北海道育ち、映像系の学校を出て映画界に入るという似た経歴を持つが、熊切監督が卒業制作の『鬼畜大宴会』(1997)でPFF準グランプリを受賞し、PFFスカラシップで商業映画デビューを飾るという華々しい道を歩む一方で、白石監督は若松孝二監督に師事して助監督を長きにわたって務めてきた。やがて監督として開花し、今では日本で最も多忙な監督となったのは承知の通り。よく審査する時間があるものだと思ったが、師の若松監督がPFFとは縁深い関係だったことも引き受けた理由だと言う。そういえば若松監督は2004年の最終審査員だったし、その後もPFFでは特集上映が組まれたこともあるだけに、その恩義を弟子が果たそうということか。

午後からは、特集上映の「凄すぎる人たち」から『おみおくり〜Sending 0ff〜』(イアン・トーマス・アッシュ監督)。在宅終末医療をテーマにしたドキュメンタリーだが、監督が回すカメラがごく自然に各家庭に入っていることに驚く。外診に当たる今田かおる医師への家族の信頼が大きいのも理由だろうが、イアン監督は踏み込むところと踏み込んではいけないところへの線引きが明瞭なのが信頼を得たのではないか。斎場で骨を拾うところを映したりするが露悪的にはならない。被写体が生き別れの息子と30年ぶりに再会するくだりでは、カメラを回すことを抑制する。日本でもこの手のドキュメンタリーはあるが、押し付けがましかったり、カメラの前で被写体が困難にぶつかっていても知らんぷりしている。イアン監督は納棺に男手が足りないからと請われると、カメラを床に置いて手を貸す。映像としては不味くなってしまうが、カメラの前に出てきて監督の後ろ姿が映るのが実に良い。上映後にはイアン監督と今田医師、生き別れの息子も登壇したりと、監督の人柄をうかがわせるトークとなる。

続いてBプログラムを観る。1本目は『温泉旅行記(霧島・黒川・嬉野)』(佐藤奏太監督)。つげ義春の旅行エッセイを読んでいるかのような古風な味わいの映像新婚旅行記。淡々とした監督のモノローグも含めて味わい深く、妻との密接な関係性によって醸成される空間に魅了される。

『温泉旅行記(霧島・黒川・嬉野)』(佐藤奏太監督)

Bプログラム2本目の『スーパーミキンコリニスタ』(草場尚也監督)は、『アボカドの固さ』と同じく、クソみたいな性格の主人公が出色。反省も後悔もせずに、我が道を行くヒロインのワガママぶりと狡猾さは痛快そのもの。『ちびまる子ちゃん』で言うところのみぎわさんみたいなキャラクターである。

『スーパーミキンコリニスタ』(草場尚也監督)

上映後の質疑応答が終わって会場を出たのは8時45分。早く終われば新宿武蔵野館で『火口のふたり』上映後の荒井晴彦監督と『映画秘宝』岩田編集長のトークを聞くつもりだったが間に合わず。BURAで打ち上げ中だというので白石監督と向かう。新宿へ移動の車中、今日のPFFの話になり、『くじらの湯』の音響がすごかったという話から、近年の自主映画の音の質の高さや、『温泉旅行記』と『スーパーミキンコリニスタ』を同一に扱って審査しなければならない難しさを白石監督は語っていたが、いずれの作品も楽しんだとのことで、この後の上映作も含めてどの作品を推すのか審査結果が楽しみだ。

映画祭2日目に参加して…

映画祭2日目「日本のゴダール? 伝説の8ミリ作家、中山太郎傑作選」で上映された『旅役者』

新作だけではなく、映画の果てしない広がりを体感させたのが「日本のゴダール? 伝説の8ミリ作家、中山太郎傑作選」。1950〜60年代にかけて個人映画を製作してきたアマチュア作家を福岡市総合図書館が発見したもので、女性のモノローグによって意識の内面を饒舌に語り続ける『秋晴れの日に』(1955)、カンヌ国際小型映画祭グランプリ受賞作のパペットアニメ『仔熊物語』(1958)、移動劇団の女性座長に密着したドキュメンタリー『旅役者』(1958)、同時代の実験映像などの影響も感じさせる最後の自主制作となった『白い道』(1967)が上映されたが、どんどん映画を自分の手中に収めていくかのように巧みさに磨きがかかりつつ、興味の赴くままにジャンルを自由に横断していくのが4本観ただけでも感じられ、現存する作品をもっと観たくなった。

アマチュア的な自由さとハンドメイドな魅力(熊の人形は中山監督の妻のお手製)にあふれた最初の2本と対照的に、『旅役者』は当時のNHKのドキュメンタリー番組『日本の素顔』などと比較しても遜色ないどころか完成度は上回るほど。高級な趣味だった個人映画(中山監督の本業は内科医である)は、大学映研や大林宣彦、高林陽一、足立正生らが登場した60年代半ばに大きな発展を見せるが、中山監督も刺激を受けていたようで、『白い道』にはその影響を濃厚に感じさせる。しかし、20代の若い監督たちが台頭する中で、50代に差し掛かっていた中山監督が限界を悟ったであろうことも同時にうかがわせ、この作品の後は大学の医学部や教育委員会から委託された記録映画製作へと向かって行くことを予感させるところがある。  

実際、PFFにしても応募者の年齢は圧倒的に若い。しかし、応募資格に年齢、性別、国籍の縛りはない。大林宣彦や足立正生が80代になっても旺盛な創作意欲が衰えることなく、今や個人映画を作っていた時代にある意味で回帰した作風になっていることを思えば、この後の中山太郎を観たかったという思いにも駆られる。この特集上映は、PFF以前の個人映画作家を検証するという意味でも貴重な試みだったように思う。

コンペティション部門:PFFアワード2019

https://pff.jp/41st/award/conpetition.html

9月20日(金)にグランプリ含む各賞発表!
見逃がした作品は配信で!

グランプリなどの各賞は9月20日(金)の表彰式にて発表!さらに21日(土)には、受賞作品を上映します。

また、「PFFアワード2019」に関しては今年も映画祭初日から映画配給会社ギャガが運営する「青山シアター」にて同時配信! 10月22日(火・祝)まで全国どこでも何度でもご覧頂けます。

「青山シアター」についてはこちらをチェック!

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