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ザ・ウィークエンド、ジェネイ・アイコ……部屋でじっくりと向き合いながら聴きたいR&B作品をピックアップ

リアルサウンド

20/4/19(日) 10:00

 部屋でじっくりと聴く音楽として“R&Bがピッタリ”だということを、Instagramでのチャレンジ企画やプロデューサー同士のオンラインバトルを例に挙げて先日お伝えしたが(「#Challenge」企画、プロデューサー同士のオンラインバトル……自宅でも楽しめるUSのR&Bムーブメント)、今回紹介するのは、まさにそんな時間に真正面から向き合って効能を感じたい作品たち。

(関連:「#Challenge」企画、プロデューサー同士のオンラインバトル……自宅でも楽しめるUSのR&Bムーブメント

 The Weekndが全身全霊をかけて奮闘する己との葛藤劇に身を投じるも良し、静かな空間でジェネイ・アイコとともにセルフラブを見出すも良し、普段はすれ違いの生活が多い身近な人への愛をジョン・レジェンドとドゥルー・ヒルに手助けしてもらうのも、もちろん良しだ。そこにはきっと、おだやかではない世相だからこそ響くメッセージがたくさん詰まっているはず。毎度繰り返すようだが、R&Bは幻想的なようでとても実用的な、生活と隣り合わせの音楽なのだ。

■映画さながらのサスペンス・ラブストーリーに引き込まれる超大作!
The Weeknd『After Hours』

 赤いジャケットを羽織り、顔面に血痕……不気味に笑う狂気の男がラスベガスで過ごした一夜の悪夢。The Weekndの新作アルバム『After Hours』は、そんなコピーが似合うドラマチックなビジュアルも相まって話題沸騰中。全米アルバムチャートでは3週目の首位をキープし、欧州をはじめとした7カ国でもトップを飾る快挙ぶりだ。(4月18日現在)

 第1弾先行シングルとして発表された「Heartless」で描かれたのは、スターダム生活の中で名声と誘惑に溺れ、大切な女性と自分の心を失ってしまう主人公。この曲がThe Weekndことエイベル・テスファイ自身と、つかず離れずの彼女ベラ・ハディットの関係を示唆しているのは明らかだが、アルバムでは揺れ動く男の心情がさらに壮大に展開されていく。極めてパーソナルな内容なのに、キャラクターめいた主人公を介することでフィクションとノンフィクションの間を行き来し、気がつけば自分も映画さながらのサスペンスラブストーリーの中へどっぷりと入ってしまう。聴く側を巻き込んでいくのは、そういう仕組みかもしれない。ショートムービー仕立てのMV群にインスパイアを与えたのは、ジャック・ニコルソンが主演を務めた犯罪映画の金字塔『Chinatown』 (鼻につけられた絆創膏)や、サイコスリラー『Jacob’s Ladder』(地下鉄の描写)など。もちろん、マーティン・スコセッシが監督した1985年の同名作『After Hours』も、この奇妙な夜の演出に一役買っているようだ。

 と、ついビジュアルの面ばかりに気が向いてしまうが、それらを際立たせているのは主役の音楽あってこそ。サウンド面でのポイントはやはり、a-ha「Take On Me」を換骨奪胎した「Blinding Lights」に代表される、80年代のシンセポップ/ニューウェイヴの影響だろう。最新シングル「In Your Eyes」で特徴的なサックスソロも当初は存在していなかったそうだが、Roxy Musicやダリル・ホールとジョン・オーツによるHall&Oatesなど、その黄金期を彩ったアーティストたちをお手本にして完成までたどり着いたという。それでも単なるレトロ感覚に終始しないのが“ザ・ウィークエンドサウンド”の真骨頂で、ドラムンベース調のトラックにマックス・マーティン(近年ではアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトらを手がけている超売れっ子ソングライター。全米チャート1位獲得曲数は歴代3位)らしいポップなメロディが絡む「Hardest To Love」など、新旧のミクスチャー感覚はデビュー時から変わらず抜群。またR&B好きには、表題曲にマリオ・ワイナンズの名前がクレジットされているのも予想外で嬉しいトピックだ。

 アルバムタイトルの主な由来を“すべての曲が、長い1日をくぐり抜けた後の感情や想いで書かれたものだから。夜中の3時~5時くらいのね”と語るThe Weeknd(参照:VARIETY)。愛と誘惑を巡って、血が出なくなるまで(=「Until I Bleed Out」)あらゆるエモーションを駆け巡った主人公が「もうこれ以上(過去の生活は)必要ないんだ…」と自分に繰り返しながら物語はエンディングへ。悪夢をくぐり抜けた先に何が見えるかは、僕ら次第ということか。世界と自分のカルマをリンクさせたりしながら、何度も噛み締めたい大作の誕生だ。

■癒しと女性の強さが同居したメディテーションソウル
Jhene Aiko『Chilombo』

 アフリカの言葉で「野生の獣」を意味するジェネイ・アイコのミドルネームをタイトルに冠した3rdアルバム。「Chilombo」の名を家系に取り入れたアイコの父親、ドクター・チルことカラモ・チロンボとも本作で3度目の共演を果たし、録音は曽祖母が住んでいたハワイで全編録音、と彼女のルーツと向き合った環境で作り上げられた作品だ。Fワード満載に怒りの銃口を向ける「Triggered (freestyle)」、実生活ではヨリを戻したビッグ・ショーンと緊迫のかけ合いを見せる「None of Your Concern」、不健康な関係を終わらせて本来の自信を取り戻すH.E.R.とのデュエット「B.S.」など、序盤はヒリヒリした内容の楽曲が並ぶが、その先の目線はいたって前向き。「本当の人生みたいな浮き沈みの流れがたくさんある」と本人が語るように、アルバムは進むにつれ風通しがよくなり、彼女の持ち味でもある癒しの世界へ誘われていく。

 中盤の肝ともいえるトリッピーな「Tryna Smoke feat.MicahFoneCheck)」から、時間の尊さを訴える内容でナズを迎えた楽曲「10k Hours」までの一連の流れも実に美しく(ナズのバースも最高!)、「作品を出すごとに自分らしくなっていく」という彼女の自信あふれる歌声は、聴く側の背中を後押ししてくれる力強さも兼ね備えている。

 前回のキュレーション記事でも取り上げた通り、(参考:ジェネイ・アイコ、チャーリー・ウィルソン、K・ミシェル……愛に溢れたR&Bの話題作をピックアップ)昨年は瞑想用の楽曲も録音していた彼女だが、本作でも全曲にシンギングボウル(チベット仏教が発祥の楽器。ヒーリングやセラピーにも用いられる)の音を採用。それぞれの楽曲で呼応するチャクラの場所をまとめた図が、彼女のInstagramにも投稿されている。嫌なニュースばかりに囲まれ耳を塞ぎたくなる今、アイコのメディテーションソウルはきっとあなたの心の平穏を保ってくれるはずだ。

■誰もが反応するあの大ネタを使った大胆な意欲作!
John Legend「Actions」

 「Love Me Now」などのヒットを生んだ『Darkness and Light』から早4年。クリスマスアルバム(傑作!)を挟みつつも最近は単発のシングルが目立ったジョン・レジェンドが、いよいよ本格的にニューアルバムへ向けて始動し発表したのが『Actions』。

 1月頭に発表され、デヴィッド・ゲッタのリミックスでも話題になっているハートウォーミングなバラード「Conversations In The Dark」に続く最新シングル曲「Actions」は、イントロのド頭からドクター・ドレー「The Next Episode」のサンプリングでお馴染みのデヴィッド・マッカラム「The Edge」(というよりはドレーのビートそのもの)が使用され、のっけから驚きと期待をあおる大胆な一曲。プロデュースを担当したオーク・フェデラーは、アリシア・キーズとマクスウェルの名曲「Fire We Make」やケラーニのデビュー作を手がけた、2010年代の代表格プロデューサーチーム、ポップ&オークとしても名高い腕利きだ。

 近年は幅広い曲調でポップフィールドにも受け入れられたり、スケールの大きい作風のイメージも強いジョンだが、デビュー当時を思い出させるスリリングなヒップホップソウルに胸を踊らせる人も多いだろう(個人的な好みも断然こっち)。“行動はラブソングよりも雄弁”というリリックの先に見えるのはもちろん、奥方の女優クリッシー・テイゲンで、レディ・ガガのキュレーションの元に開催されたチャリティー・コンサート『One World : Together At Home』内でも、その仲睦まじい家庭の姿は見受けられた。

 また、人気オーディション番組『The Voice』で審査員兼コーチとして新しい才能を育て、今夏に自身の全米ツアーも敢行する予定のジョン。彼の愛はより優しく大きくなっていくばかりだ。

■紆余曲折を経て再出発! これぞ男性R&Bボーカルグループのお手本
Dru Hill『What You Need』

 シスコ、ノキオ、ウッディ、ジャズの4人で構成されたバルチモア出身の4人組Dru Hill。1996年のデビューシングル「Tell Me」のヒットをきっかけに激動の男性R&Bボーカルグループ時代を生き抜いた彼らは、シスコがソロ活動で大躍進した2000年初頭以降、メンバーを変動しつつも地道に活動を継続していた。2018年には、彼らと同じく90年代末にティンバランドのプロデュースの元、故アリーヤらと並んでフューチャリスティックR&Bの先駆けになったグループ、Playa(うちメンバーのスタティック・メジャーは、2008年に全米首位を獲得したリル・ウェインの「Lollipop」にフィーチャーされるも同年に逝去している)と合体する形で大変革が行われ、5人体制に。

 こうして生まれた新Dru Hillは、今年に入ってTV Oneの人気ドキュメンタリーシリーズ『Unsung』で特集が組まれ再出発。順風満帆かと思いきや、番組放送直後にオリジナルメンバーのノキオを含む2人が脱退を表明。いきなり3人組になったうえに、結果的にはシスコとPlayaがくっついただけ、という何ともややこしい展開に。しかし騒動を度外視すれば90’sR&B好き垂涎モノの役者が揃っているわけで、最新シングルの「What You Need」は、男性R&Bボーカルグループかくあるべき!  と拳をあげたくなるような、素晴らしい出来栄えになっている(録音時のメンバーはまだ5人)。

 セクシャルな意味合いも強かったデビュー曲の「Tell Me」と共通するワードを使いつつも、“願望よりも今必要なことが知りたいんだ”と、より大人な関係の言い回しになっているのもニクい仕上がりだ。曲中の「Quality over quantity」(量より質)という言葉も妙に響いてしまうが、形は変われど名前を残すことにも意味があるはず。今後のグループの動向に要注目だ。(Yacheemi)

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