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上田麗奈『Empathy』、早見沙織『シスターシティーズ』……クリエイターとのコラボで増す歌声の魅力

リアルサウンド

20/4/1(水) 6:00

 3月18日にリリースされた上田麗奈のアルバム『Empathy』には、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)やORESAMAと言ったシティポップ系アーティストが参加して話題を集めた。また、25日にリリースされた早見沙織のミニアルバム『シスターシティーズ』には、ジャズアーティストのKenichiro Nishiharaや堀込泰行などが参加。クリエイターとのコラボによって、どちらも歌声の魅力が何倍にも増し、アーティストとしてさらなる進化を遂げている。

(関連:早見沙織が語る、自作曲10曲のアルバム制作で見えた“歌い手・作り手としての現在地”

■ウィスパー調の歌声が渋谷系由来の楽曲とマッチ

 アニメ『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネ、『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』のグレイ、『ダーウィンズゲーム』の狩野朱歌など、どこか闇を抱えたヒロインを演じることが多く、キャラクターの魂が宿った鬼気迫る芝居に定評がある上田麗奈。2016年のアーティストデビュー作となったミニアルバム『RefRain』は、彼女の胸の奥に広がる内省的な世界が表現されていたが、最新作である『Empathy』では、その『RefRain』から一歩外の世界に踏み出す勇気を持った作品になったという印象だ。それを引き出しているのが、シティポップ調の楽曲だ。

 ORESAMAが作詞作曲を担当した「あまい夢」は、グルーヴ感のある軽快なリズムを中心に、シンセやギターカッティングがアクセントになった極上のポップナンバー。上田の歌声は、優しくふんわりとした雰囲気で、楽曲に独特の浮遊感をプラスしている。ポイントで聴かせている囁くような歌い回しや、包み込むようなコーラスは、眼福ならぬ耳福といったところ。ORESAMAのコンポーザーの小島英也は90年代の渋谷系からの影響を公言しており、当時の渋谷系ではウィスパーボイスのカヒミ・カリィを筆頭に声を張らないボーカルがメインストリームだったことからも、空気成分を多く含んだ上田の歌声は、ORESAMAの持つ渋谷系由来のポップセンスと好相性だったと言える。

 意中の人を遠くから見つめて甘い夢を見ている気持ちを歌った歌詞からは、どこか自分に自信が持てず積極的になれない主人公像が想像され、人見知りの上田らしい世界観だと言えるだろう。一聴すると春らしいウキウキとした恋の歌だが、どことなく寂しさをも感じさせるのは、彼女自身のキャラクターによるものなのかもしれない。

 『Empathy』には他に、本人が作詞を手がけ、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)が作曲した、ホーンとシンセのサウンドのなかで演じるように歌う「アイオライト」。シンガーソングライターのChimaが作詞作曲を手がけ、アコギやオルガンの音色が心地良い「きみどり」、感謝の気持ちを込めて本人が作詞した明るく広がりのある「Campanula」など収録。全曲参加クリエイターとディスカッションが重ねられ、タイトル通り“共感”により生まれたアルバムだ。

■高いポテンシャルとクリエイターのセンスによる相乗効果

 優しい雰囲気のなかに、一本筋の通った熱いものを感じさせる存在感のある声質で、『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶ、『Fate/Grand Order』の牛若丸や『魔法科高校の劣等生』の司波深雪などの役で知られる早見沙織。アーティストとしては、2015年にシングル「やさしい希望」でデビュー。多くの楽曲で自ら作詞作曲を務めているが、2018年のシングル「新しい朝」では、竹内まりやを作詞作曲に迎えたことでも話題を集めた。最新作『シスターシティーズ』では自身が全曲の作詞を担当し、作編曲にはジャズアーティストのKenichiro Nishihara、NARASAKI、堀込泰行、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)などが参加。ボサノバ調で80年代ニューミュージックの雰囲気を持つ「遊泳」や、クラップとコーラスでゴスペルやソウルミュージックを感じさせる「PLACE」などを収録。ドラマのワンシーンを切り取ったような歌詞が楽曲とも相まって、都会的でアーティスティックな世界観を感じさせてくれる作品になった。

 なかでもKenichiro Nishiharaが手がけた「yoso」は、ウッドベースがブルーノートスケールを奏でるイントロで始まる、アシッドジャズの流れを汲んだ都会的なサウンドが心地良い。低音が続くメロディは声優の楽曲には珍しく、ここまで低音がきれいに出せる早見は希有な存在だと言える。そんな低音から高音に飛ぶ歌声は実に滑らかで、裏のリズムを感じさせるボーカルは、聴いていると自然に身体が揺れてしまうほどだ。曲の終盤にはトランペットのソロが鳴り響き、それに寄り添うようにして聴かせるスウィンギンなフェイクも、実にソウルフルで聴き応えがある。

 この「yoso」を手がけたKenichiro Nishiharaは、アルバム『Elastic Afterwords』がiTunesジャズチャートにてアルバム部門とソング部門で1位を獲得した経験を持つ。早見も学生時代に母親からの影響で3年ほどジャズボーカルのレッスンに通っていた経験があり、ジャズテイストの楽曲を好む。1stアルバム『Live Love Laugh』にも、ムーディーなジャズナンバー「ESCORT」が収録されていた。「yoso」は、そんな2人の出会いが必然だったと思わせるほどのクオリティの高さだ。

 また同曲のMV監督を、ファッションブランドのWEB CMなども手がける映像クリエイターの中山佳香が担当し、エキゾチックな街を女性が舞い踊る映像が、楽曲とマッチしたファッショナブルな映像に仕上がった。早見が元から持ち合わせているポテンシャルが、クリエイターのセンスと見事な相乗効果を生み出した1曲だと言えるだろう。

 女性声優アーティスト×クリエイターと言えば、坂本真綾の昨年のアルバム『今日だけの音楽』に、伊澤一葉、大沢伸一、ゲスの極み乙女の川谷絵音などが参加。花澤香菜のアルバム『ココベース』に岡村靖幸、フジファブリックの山内聡一郎、ザ・クロマニヨンズの真島昌利などが参加していたことも記憶に新しい。どちらも言わずもがなの声優界のトップランナーで、その次代を担うと期待されているのが早見や上田だ。声優として多くのアニメファンを魅了している彼女たちの声と表現力には、クリエイターの創作意欲を刺激する魅力があるのだ。(榑林史章)

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