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16歳TikToker・ひかりんちょが「全世代の人に知られる人になりたい」と言うのでオッサンが著書を読んでみた

リアルサウンド

19/11/25(月) 8:00

 ひかりんちょはTikTokやインスタ、YouTubeなどで活動し、 「超十代」応援大使や「シンデレラフェス」「TGC teen 2019 Sumeer」に参加、「ダイハツ工業」の宣伝プロデュースを担うなど、多方面で活躍する、2003年生まれの16歳、高校1年生であり、本書『ありのままの私を受け入れずに批判する奴には、心の中で中指立てればいい』はその初めての著書になる。

“うちは全世代の人に知られる人になりたい。”(P186)

“いろんな世代に知られる存在になるまで、ずっとこのまま突き進み続けたい”(187)

とのことなので、彼女より2まわり世代が上のライターが読みどころを紹介してみよう。

ひかりんちょとは?

 ブラジル人の父と日本人の母を持ち、シングルマザー家庭に育ち、小3でパーマをかけ、小5で動画投稿を開始、小6でメイクを始め、中1でバズって「有名になりたい!」と思う一方、目立ったことから学校で悪口を言われるようになり、恋愛でのゴタゴタも重なって不登校になる。

 ひかりんちょの母親は自分が中卒で苦労したために学校に行くことを願っていたが、SNSがしんどい学校生活からの逃げ場でもあったひかりんちょとは考えが合わず、対立もあったものの、中3からプロとして活動しはじめると「十代の身近な存在になりたいからJKになる!」と決意して高校を受験。現在は高校生として学校、仕事、家庭生活をいずれも充実させている。

 YouTubeやTikTok上では自分の意見をガンガン言う感じではなく「人気のネタをやってみた」というものが多いが、生配信では率直に主張し、ディスに対しては反論しまくってるし、Twitterでも時々バトっている。

どんな本なのか?

 この本から何が得られるか? 

 ひとつは、ネットゴシップ的な受容ができる。

 この本ではひかりんちょの恋愛についての考えがつづられているのがウォッチャー的には読みどころのひとつになる。

“恋って何なのかなんて、何回何年考えてもわからない。親友の特別版? 「頼りたい」の男バージョン? いや、別に性別は関係ないかぁ。いちばん大事なのは、まず人間としてその人の事を好きかどうかだもんね。”(P91)

“束縛されたり浮気されたりする恋愛してたときは、当たり前に病んでた。何で病むかっていうと、依存してるからなんだよ。”(P123)

 よく知らない人も、YouTubeに転がっている動画をいくつか観たあとでは、こうした発言に「そうか、そうか……」と頷くはずだ。

 もうひとつはこの世代の価値観、生き方を知ることができる。

“ネットはコミュ障でも現実よりは影響ないし、文章だと恥ずかしいって思わず言える事もあるし、SNSはうちの居場所だ!”(P163)

とひかりんちょは言う。

 よく言われることだが、ネットが一般化する前の90年代までであれば学校に居場所がなければ外に出る、街に出るしかなかったのでヤンキー文化や援助交際が流行った。

 でも今はSNSに出る。しかしそれはそれでしんどいこともある。

“「いじる」って、おもしろくないからそろそろやめよ”

“いじめがダメってわかんねーの? 猿のほうがかしこい。”(P72)

“何かを発信する前に、受け取る相手の事をもう一回考えてみよ? うちもみんなも、知らない間にだれかを傷つけている”(P172)

と言うが、こういう発言、あるいはこの本の戦闘的なタイトルは、よく知らない人間やちょっと見知った相手から辛辣な言葉、罵詈雑言をSNS経由で日常的に直接投げつけられている(彼女自身がそういうことを言わないわけではないが)からこそ出てくる発言だろう。

 奔放なキャラクターだと思われていたK-POPアイドルであるf(x)のソルリが実はネット上に書き込まれる罵詈雑言に深く傷つき、自殺に至ったことは記憶に新しいが、顔出しでSNSで有名になると、今の時代、普通のメンタルではやっていられない。

 特に主張が強いほど、自由さをアピールするほど、好きに生きて何が悪いの? と示すほど、叩かれてしまう。

 そして折れずに戦う姿勢を見せると、弱い部分を見せにくくなっていく(そういう意味で、ひかりんちょが昔よりも最近の方がやさぐれ感が若干強くなっているように見えるのが心配ではある)。

 SNSは逃げ場であり、自分を表現して有名になれる場であると同時に、傷つけられる場でもある、だからこそ「私は私」と言ってノイズを遮断し、攻撃を拒絶する姿勢を見せなければならないという難しさの中を生きていることが、本書の端々から伝わってくる。

「校則は守る」

 そんな本書だが、オッサン的に気になったところがある。

 「周りに流されて人生決めるな」「私は好きな服を着る好きな事をする」が基本的なメッセージである本書だが、ひかりんちょ本人も母親も「校則を守る」ことを重視している。

 これは非常に今っぽい感覚だ。

 近年では昭和の時代よりもずっと厳しくなっている「ブラック校則」が問題視され、ドラマのネタになるほどだ。

 にもかかわらず、他人に迎合せずに生きることを称揚しているひかりんちょのような存在でさえ「校則は守るべき。その範囲でおしゃれすればいい」と考えている。

 これはオッサン世代には理解しがたいものがある。

 校則なんて法律ですらないし、不条理なら変えるか、変えられなくても別に守らなくてもいい、というのがかつてであれば当たり前の感覚だったと思う。

 もちろん、なんでもかんでも逸脱している人間では視聴者に引かれてしまって人気は出ないし、逆になんでもかんでも従順なだけでも魅力を感じてもらえない。

 だから、どこが周囲の人間と同じ感覚で、どこが違うかが重要になるわけだが、このひかりんちょ親子の感覚は、その今日的な線引きを示している。

 今年出た本では、kemioの『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)と並んで、当事者が書いた若者本としては必読のものだろう。

 SNS社会でどう生きぬくのかなどに関しては共振するところもありつつ、kemioは95年生まれ、ひかりんちょは2003年生まれだから、年齢による感覚の違いもある。

 あわせて読みたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

■書籍情報
『ありのままの私を受け入れずに批判する奴には、心の中で中指立てればいい』
ひかりんちょ 著
価格:1,320円(税込)
出版社:KADOKAWA

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