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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが後世に与えた影響 3部作3週連続放送を機に考える

リアルサウンド

20/6/12(金) 8:00

 1980年代を代表する、アメリカ娯楽映画の本命中の本命として、最も広く愛されていると言っても過言ではないのが、タイムトラベルを題材に、当時最先端の特殊効果と、ポップなテイストによって大勢の観客を惹きつけた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズである。公開から35年ほどのうちに、日本でもTVで何度も放送され親しまれている作品だ。

参考:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』全3作&『レディ・プレイヤー1』、『金ロー』で放送へ

 今年5月には、『アナと雪の女王』のオラフの声を演じた俳優ジョシュ・ギャッドの呼びかけによって、YouTube番組にて当時の製作陣やキャストが集まり、当時の思い出や裏話、主題歌「パワー・オブ・ラブ」の合唱などが披露され、話題を呼んだ。

 この度、『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)において多くのリクエスト数を獲得したことから、6月12日(金)より3部作が3週連続で放送されることになった。このことからも、本シリーズが日本でも長きにわたって愛されている事実が分かる。ここでは、そんな『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ3部作の価値について、タイムトラベルものの面白さを凝縮した作品の魅力や、本シリーズが後世に与えた影響を交えつつ考えていきたい。

 タイムマシンの概念を最初に広く知らしめたのは、サイエンスフィクションの父と呼ばれるH・G・ウェルズの初期作品『タイム・マシン』(1895年)といわれる。その後、ロバート・A・ハインラインやアイザック・アシモフ、フィリップ・K・ディックなど、多くのSF作家の作品のなかで、時間を飛び越えるタイムトラベルの概念は頻繁に題材となっている。もちろん、『タイム・マシン』を含めて、それら小説は度々映画の原作ともなった。リチャード・マシスン原作の『ある日どこかで』(1980年)は、なかでも文学的で心を打つ、ロマンティックな名作である。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』第1作撮影時には、まだ若手監督だったロバート・ゼメキスは、その後のキャリアからも分かる通り、ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグ、後の世代のピーター・ジャクソンやギレルモ・デル・トロ監督などに連なっていくような、ヴィジョンを生み出すクリエイティブな才能を持っている。その才能が、SF好きのボブ・ゲイルとの共同脚本によって、この『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、誰の目にも明らかなほど遺憾なく発揮されたといえよう。

 いまもなお先進的なデザインだと感じられる、イタリア人デザインのアメリカ車、通称“デロリアン”をベースに、原子炉を搭載しプルトニウムを燃料にしてら時間の流れの中を疾走していく、画期的なタイムマシンのヴィジュアルのカッコよさ。そしてマイケル・J・フォックス演じる、小柄な青年マーティ・マクフライと、クリストファー・ロイド演じる、“ドク”と呼ばれるマッドな科学者など、印象的なキャラクターがストーリーにぴったりとはまり、本作は多くの観客を惹きつける作品となった。

 プルトニウムが原因で過激派に追われたマーティは、誤って1955年の世界へと逃げ込み、燃料不足で現代に戻れなくなってしまう。絶望的な状況のなか、過去のドクに会うことでなんとか“未来に戻る”希望を見つけ出したマーティは、自分と同じ年代の両親や、不良のビフらと出会うことで、望まない方向に過去を改変し始めてしまう。若い頃の両親が結婚しなければ、マーティが生まれることもなくなる。劇中では、マーティの体が消えかかることで、“存在の危機”を示しているが、この問題を乗り越えるため、未来からやってきたことを隠しつつ右往左往し事態の収拾をはかる、“SF的ではない”マーティの奮闘ぶりに、多くの観客が共感をおぼえることになった。

 第1作は、評論家というよりも、とくに観客から絶大な評価を受け、当初は計画していなかった2作目が撮られることになる。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』では、マーティーの息子が絶望的な状況を引き起こしてしまうという情報を基に、今回は30年後の未来にタイムトラベルしたマーティの冒険が描かれることになる。

 救おうとした未来で新たなトラブルを引き起こしてしまったマーティは、その失敗を取り戻すために、またしても1955年へと戻ることに。面白いのは、「第1作のストーリーの裏では、じつはこんなことが行われていた」という、新たなストーリーがここで上書きされている点である。しかも、それが脚本上破綻のないように上手く描かれる。このようなタイムトラベルによる過去の複数の書き換えという、一種のミステリー仕立ての設定は、後に日本のゲーム、アニメ作品『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』などでも使われることになる。

 そして第3作では、なんと舞台が西部開拓時代へ。あまりにも過去に飛ばされてしまい戻れなくなったドクを救出するため、マーティは、荒くれ者たちが闊歩する町で、新たな冒険を繰り広げる。

 完結編となるこの作品でも、第2作にチラリと出てきた、ある西部劇作品の伏線を重要な場面で回収するなど、タイムトラベルものならではといえる緻密かつマニアックな技巧が施されている。このような、熱心なファンがより楽しめるネタ、いわゆる“イースターエッグ”が散りばめられたのも、本作がメジャー作品ながら、同時にカルト的人気をも獲得し、広い層に愛されるようになった理由である。それはビデオが普及し始め、作品を何度も繰り返し視聴するようになった時代とも連動。本シリーズは新しい映画の楽しみ方を確立した、時代を代表するシリーズになったといえるのだ。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のシリーズはここまでとなったが、現在、新たに続編が公開される予定の、キアヌ・リーブス主演作『ビルとテッドの大冒険』(1989年)シリーズもまた、本シリーズのヒットを受けて製作され、同じくカルト的人気を得て愛されることになった作品だ。こちらはよりコメディー色が強く、おバカ高校生二人組が公衆電話ボックス型のタイムマシンで、歴史の授業の発表を乗り切るためだけにタイムトラベルして、本物の偉人に会うという荒唐無稽な物語だ。

 なんといっても、頭がからっぽなキアヌの演技が見どころで、とくに2作目の『ビルとテッドの地獄旅行』(1991年)は評価が高い。このシリーズはアニメ化もされ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』同様、80年代以降のギーク(サブカルチャーのオタク)たちにとって重要な作品となった。それは、ギーク文化を礼讃した映画『レディ・プレイヤー1』(2018年)のイースターエッグとして登場することからも分かる。

 その後、娯楽映画においてタイムトラベルの要素は数多く出現することになったが、多くの観客が、わりとすんなりと、ややこしい時間移動というSF設定を理解できるようになったのには、間違いなく『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の功績がある。この大ヒット作品の基礎があってこそ、それを応用した、より複雑な設定の映画やドラマが成立するのである。

 その代表例が、現在人気を集めているSFアニメシリーズ『リック・アンド・モーティ』だ。これは、破滅的な科学者の老人リックと、その発明が引き起こす宇宙の危機に翻弄される孫モーティを主人公に、毎回かなり複雑なSF設定が登場する作品。このリックとモーティとは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクとマーティのパロディである。そう、今日において『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、もはや誰もが観ているべき基礎教養でもあるのだ。

 最後に、タイムマシン映画で、いま最も観てもらいたいNetflix配給の『シー・ユー・イエスタデイ』(2019年)を紹介したい。アフリカ系のキャストで占められたアメリカ映画で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への多大なリスペクトを感じる要素がいくつも散りばめられるとともに、往年のファンへのサプライズも用意されている、嬉しい作品だ。

 物語は、科学に強い天才少女が、あるトラブルに遭った人物の命を救うためにタイムトラベルをするというもの。主人公は何度もタイムトラベルを繰り返し、試行錯誤し、走り続けることになる。この展開は、いつまでも解決を見ないアフリカ系アメリカ人への差別や暴行事件が絶えないアメリカ社会の象徴となっている。しかし、諦めず現状を変えようとする主人公の必死な姿に、胸が熱くなってくる傑作である。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に影響されたタイムマシン映画は、このように重要な問題を映し出す進化も見せている。(小野寺系)

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