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尾上菊五郎「とにかく“仕事”が多くて気が抜けない役」 五月大歌舞伎で演じる早野勘平を語る

ぴあ

21/4/21(水) 7:00

尾上菊五郎

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見ごたえある演目と人気の俳優たちが顔をそろえる五月大歌舞伎。先月にひきつづき三部制で上演される。その第二部は、歌舞伎の演目の中でも傑作中の傑作『仮名手本忠臣蔵』から、清元の舞踊「道行旅路の花聟」、そして六段目「与市兵衛内 勘平腹切の場」だ。

『忠臣蔵』の登場人物の中でも、まさに“忠臣”になるために最も苦しみ、劇的な最期を遂げる主人公が、この六段目の早野勘平。五代目尾上菊五郎が組み立てて六代目尾上菊五郎が洗い上げた江戸の音羽屋の勘平を、当代の尾上菊五郎が勤める。初役から約50年、15度目という菊五郎だが、この役を「難役中の難役」と語る。

「まず拵えの段階から大変です。こんなに塗るのかと思うほど、勘平の場合お白粉をたくさん塗らなきゃいけない。切腹しますから腹にも塗るし腕にも塗るし、脚の付け根まで塗ります。芝居が始まってからは舞台で着替えるところがありますし、鬘も三段階変わりますしね。切腹の後は『色にふけったばっかり』の台詞で、血糊の着いた手を頬になすりつけますでしょう。これが浅葱の衣裳に着いてしまうとなかなか落ちないので気を付けなくてはいけないんです。初めて勤めた頃は衣裳を2~3枚用意してもらっていましたよ」と身振り手振りを交えて語る。また勘平といえば、煙管や財布、手拭いなど扱う小道具も多い。

『仮名手本忠臣蔵 六段目』早野勘平演じる尾上菊五郎(平成25年11月歌舞伎座) (c)松竹

「どの台詞のときに煙草盆をどこに置いて、煙管をどこにポンと落として、と細かく決まっています。手拭いも懐に入れてしまうと、後でおかやが縞の財布と間違えて取り出してしまうので気を付けなくてはなりません。とにかく“仕事”が多くて気が抜けない。これらをやりながら、勘平という役を勤めなくちゃいけない。そこが難しいところです」。

浪々の身とはなったが、主である塩冶判官の敵・高師邸への討入の一味に加わりたい一心の勘平。前段の五段目では、暗闇の山崎街道で誤って撃った浪人者から財布を奪う。その金五十両を同志の千崎弥五郎に渡し、これで討入に加われると、意気揚々と帰宅するところからこの六段目は始まる。だがその心情は刻々と変化していく。

「もしかしたら自分が金を奪った相手は舅の与市兵衛だったのか? という犯罪者の気持ちへと追い込まれていきます。おかやがお前が殺したと責め続けるので、これ以上騒ぎ立てるなら(おかやを)殺してしまおうかと、それくらいの気持ちですね。舅を死なせた申し訳なさよりも、何とかして討入に加わりたいという侍としての気持ちの方が重い」。

そして勘平は切腹するが、舅殺しの疑いも晴れ、死ぬ間際に討入の連判状に血判を押すことを許される。

「最後まで、おかるにはこのことを言わないでくれ、言うと世の中にこの企てが知られてしまうと頼んで死んでいく。そこが勘平が『忠臣蔵』の忠臣たるところだと思います」。

決して発散できない大変な役、だが若い頃ずっと憧れていた役だったとも。

「やはりやりがいがありますので、お軽を勤めていた頃から勘平のしぐさをずっと見ていました」と懐かしそうに語る。教わったのは二代目尾上松緑から。

尾上菊五郎

「松緑のおじからは、与市兵衛の遺骸が運び込まれてからはずっと下を向いていろと言われましたが、私はどうにもそれができなくて。おかやや猟師仲間の台詞を聞いていくうちに、ああやっぱり自分が殺ったのかとなっていく、そういう芝居がしたい。勘平が茣蓙(ござ)を巻くくだり、あれも初めの頃はなぜここでそんなことをするのだろうと。でも、とんでもねえことをしてしまったと肚から思えると、手が自然に動いて茣蓙を巻けるんです。まあいずれにしても、五代目菊五郎という人は本当に物を片付けるのが好きなんでしょうかね(笑)」。

切腹にも口伝があるという。

「“懐にいがぐりを入れているようなつもりで”声を張らずにと。切腹の痛みは栗のいがぐり程度では済まないと思いますが(笑)。また(『義経千本桜』の)いがみの権太は切腹の時に足の親指を動かして辛さを表わしますが、勘平は侍なので指は動かしちゃいけないとかね。昔の人の口伝とは面白いものですし、いろいろ残っています。でもそれだけでは足りない。やはり自分で考え、自分の肉体に合わせた工夫が要るんです」との言葉に菊五郎の矜持が凝縮されていた。

歌舞伎座『五月大歌舞伎』チラシ

コロナ禍で稽古もままならない困難な日々が続く。だが若い芽も育ちつつある。

「孫の(寺嶋)眞秀が『土蜘』で太刀持ちを、『鏡獅子』では(尾上)丑之助が(坂東)楽善さんのお孫さんの亀三郎君と胡蝶を勤めます。子供の頃に楽善さんと胡蝶を勤めたことを思い出しますね。大変な時代ですが力を合わせてこの興行を成功させたいと思います」と結んだ。

取材・文:五十川晶子

歌舞伎座『五月大歌舞伎』
2021年5月3日(月・祝)~2021年5月28日(金)
会場:東京・歌舞伎座

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