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舞台で鍛えられてきた気鋭の若手が朝ドラに大抜擢 東野絢香が『おちょやん』で示すポテンシャル

リアルサウンド

20/12/23(水) 8:00

 朝ドラ『おちょやん』(NHK総合)に出演中の東野絢香。おそらくほとんどの方が、今作で彼女の存在を知ったのではないかと思う。出演作がまだ少ないことから、“芸達者な新人”と捉えられているかもしれないが、舞台で鍛えられてきた気鋭の若手俳優である。

 “気鋭”とはいえ、東野が連続ドラマにメインキャストの一人として出演するのはこれが初。本作における彼女の役どころを考えてみると、これは“大抜擢”といえるものだろう。東野が演じる役どころを再確認しておきたい。彼女が演じる岡田みつえは、ヒロイン・竹井千代(杉咲花)の奉公先である芝居茶屋「岡安」の“お嬢さん”。女将であるシズ(篠原涼子)と主人の宗助(名倉潤)の一人娘であり、なかなかの甘えっ子である。「ほげたが達者(……大阪弁で口答えがうまいこと)」といわれる千代に負けじと、みつえも勝気なお嬢さんであり、張り合うこともしばしば。千代と同い年でありながら、あくまでも主人サイドと奉公人という関係を崩そうとはしない。単身、這い上がってきたヒロインとは対照的な立ち位置にある存在であり、現時点における千代の“ライバルポジション”ともいえるのではないだろうか。

 そんな大抜擢をされた東野だが、彼女と同世代でありながら経験豊富な杉咲花や、両親役の篠原涼子に名倉潤、みつえの祖母である岡田ハナを演じるベテランの宮田圭子らに対しても、まったく引けを取っていないように思える。みつえというキャラクターの奔放な性質は、的確にドラマ展開を盛り上げつつも、決して本筋の邪魔をしない。こういったキャラクターは、ともすると視聴者にとって“ノイズ”になりかねないが、そうなっていないのがじつはすごいところ。千代と張り合う際や、ちょっとワガママな自己主張、好意を寄せている天海一平(成田凌)へのあからさま態度など、“出すところは出す”、そして“引くところは引く”ーー東野のこの演技バランスが絶妙なのだ。

 東野のいわゆる“勘の良さ”がこれを実現させているフシもあるのかもしれないが、筆者としては、やはりこれまでに彼女が培ってきたものがここに反映されているはずだと考えている。その場に応じた的確な発声や美しい滑舌というのは、“勘”や“センス”だけでどうにかなるものではないはず。東野は優れた演出家のもと、良質な演劇作品の舞台に立ってきた。昨年に上演された、前川知大率いるイキウメの大作『獣の柱』と、山田佳奈率いる□字ックによる『掬う』しか、残念ながら筆者は観られていない。しかしこの二作だけでも十分に、東野絢香という才能を堪能することができたと思う。

 いずれの作品でも東野が演じたのは、どこか浮世離れした、掴みどころのない少女の役(『獣の柱』では二役を演じ、そのうちの一つが“新人類”という役であった)。高身長である彼女は舞台上でも映え、長い手足はちょっとした動作においても目を引いた。演じる役柄が特徴的だったというのもあるが、演者本人の資質と役の特性が有機的にはたらくと、それはやはり大きな強みになる。そんな“ハマり役”を演じる東野という俳優の存在が、強烈に印象に残っていたのだ。

 しかしだ、『おちょやん』で演じているのは、平凡といえば平凡なキャラクター。『獣の柱』の新人類や、『掬う』で演じた謎めいた女子高生役とはまったく違う。そしてそんなみつえというキャラクターを、東野はあっさりと演じている。個性を前面に押し出すようなタイプの俳優だと思っていただけに、これは意外。舞台上に立つ彼女から受けた衝撃は大きかったが、テレビ越しにも衝撃を与えられることとなったのだ。東野の『おちょやん』出演は、筆者にとって大きな驚きとともに、嬉しくもある。劇場へ行かなければ会えない存在だと思っていたからだ。映像作品での活躍も増えることと思うが、舞台上の東野絢香も多くの方に知ってもらいたい。ちなみに『獣の柱』の本編映像は、イキウメの公式サイトで現在公開中である。

イキウメ「獣の柱」(2019年)

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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