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『ONE PIECE』アラバスタ編はなぜ人気なのか? 痛快な”ジャイアントキリング”の魅力を考察

リアルサウンド

20/12/29(火) 8:00

 1997年『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始した、海洋冒険ファンタジー作品『ONE PIECE』(集英社)。『ONE PIECE』は2020年12月現在までに97巻を刊行し、少年心をくすぐる物語で読者を魅了してきた。そんな『ONE PIECE』のストーリーで、特にファンに愛されているエピソードがある。

 そのエピソードとは、まだ結成してまもない麦わらの一味が、国の命運を賭け、王下七武海・クロコダイル率いるバロックワークスと死闘をくり広げるアラバスタ編である。なぜアラバスタ編はファンの間で語り継がれる名エピソードになりえたのだろうか。本稿ではその理由を検証してみたい。

 アラバスタ編は主人公・モンキー・D・ルフィ率いる“麦わらの一味”が、「偉大なる航路(グランドライン)」に突入する場面から始まる。麦わらの一味は最初に訪れた島「ウィスキーピーク」にて、ある少女と出会うが、その少女がネフェルタリ・ビビであった。ビビは当時、秘密犯罪会社「バロックワークス」のエージェントとして活動していたが、実はアラバスタの次期王女であり、アラバスタの乗っ取りを目論むバロックワークスの潜入調査を行っていたのだ。

 しかし、クロコダイルの身辺を嗅ぎ回る不審な行動がきっかけで、正体がバレてしまい、組織から狙われる身に。そしてビビは麦わらの一味にアラバスタまで連れて行って欲しいと懇願する。

 バロックワークスのトップに君臨するのは、王下七武海の1人サー・クロコダイルである。海賊ならば知らない者はいないほどの強者で、これまでルフィが相手にしてきた敵とは文字通り“格が違う”相手。ビビと行動を共にすることは、クロコダイルをも敵にすることを意味するが、ルフィはビビの頼みを快諾する。こうして一味はビビとアラバスタまでの航路を共にすることになった。

 巨人が決闘を続ける太古の島「リトルガーデン」、かつての医療大国でありチョッパーの生まれ故郷「ドラム王国」2つの島を経て、一味はアラバスタに上陸。

 時を同じくしてアラバスタでは、度重なる国王の横暴な政治に耐えきれなくなった国民が、国を守るために武器を取ることを決意し、今にも王国軍と反乱軍の内紛が勃発しようとしていた。

 しかしこの騒動の裏には大きなカラクリがあった。反乱軍がこれまで見ていた横暴な王の姿は、クロコダイルの部下であり、マネマネの実の能力者・ボン・クレーが演じた虚像だったのである。クロコダイルの狙いは、意図的に内紛を起こし国を弱体化させることにあった。何も知らない反乱軍と国王軍は、互いに国を想い武器を取る。

 唯一すべてを知るビビと麦わらの一味は、アラバスタを救うため孤軍奮闘。反乱軍に真実を伝えようとするビビだが、無情にも内紛は始まってしまう。そしてバロックワークスと戦闘を繰り広げる麦わらの一味の面々。バロックワークスの幹部は、過去の敵とは比べ物にならないほどの強者揃いであった。

 一味でNo.2の実力者であるゾロは、”殺し屋”ダズ・ボーネスと激しい戦闘を繰り広げるが、自身を「全身刃物」に変えることができるスパスパの実の能力により傷一つ付けられず生死の境をさまよう。

 ルフィに至っては、クロコダイルというロギア系能力者との初の本格戦闘に苦戦を強いられ、圧倒的な実力差のもと2度も敗北を喫することとなった。

 アラバスタ編以前、連載当初の『ONE PIECE』には、無名海賊が強敵を打ち負かす、爽快感とカッコよさがあった。絶対に勝てないと周りに止められるルフィらが、とんでもない強さを発揮するあの痛快な姿を鮮明に思い出せる人も多いだろう。

 アラバスタ編は国家乗っ取りを企む王下七武海・サー・クロコダイルに麦わら海賊団が立ち向かう構成である。最弱と呼ばれるイーストブルーで結成された少数海賊団が、クロコダイル率いる大組織に肉薄していく姿。アラバスタ編以前から読んでいた読者からすれば、興奮しないわけがない。

 バロックワークスとの戦いにおいて、ルフィたち麦わらの一味は、それぞれがが己の限界を超えて死闘を繰り広げる。一味でも頼りないキャラだったウソップは、チョッパーと共闘しMr.4とミス・メリークリスマスのコンビを撃破。ダズ・ボーネスに歯が立たなかったゾロは、鉄を斬る力を会得し見事ダズ・ボーネスを討ち取った。さらにルフィは自身の血で、砂になるクロコダイルを固めて攻撃するという、めちゃくちゃな方法でクロコダイルに勝利。

 こうしてわずか6人という少数海賊団がバロックワークスという一大組織を壊滅させ一つの大国を救ってみせた。このルフィたち麦わらの一味が成し遂げた、作中最大とも言える“ジャイアントキリング”が、アラバスタ編最大の魅力なのだ。 

 またアラバスタ編人気の理由には、ビビの存在も大きい。ビビは麦わらの一味といくつかの航海を共にしており、チョッパーが仲間になった「ドラム王国」にも上陸している。ビビは冬島にて多くの見せ場を作っているが、ナミが体調を崩したときは、自身の目的よりナミの体調を優先し、ルフィが間違いを起こせば人の上に立つものとしての心構えを説いてみせた。

 それまでは自分勝手でわがままなお嬢様というイメージだったビビは、冬島にて、その真っ直ぐで思いやりのある性格を読者に知らしめた。つまり作者である尾田栄一郎はビビの実直な人間性と活躍を丁寧に描くことで、読者がビビを応援したくなるドライブ感の演出に成功したとも言える。

 麦わらの一味が強敵と戦う姿に感動した読者も多いだろうが、麦わらの一味はもちろん読者がビビを仲間と認めていなければ、命を賭けてアラバスタを救おうとするルフィたちの姿に共感できず、ストーリーにのめり込めなかったかもしれない。

 アラバスタ編の最大の魅力は、ジャイアントキリングにあることは前述した通りだが、ビビというキャラクターの存在が極めて重要だったと言えるだろう。

 ビビが麦わらの一味の仲間になるのではと期待した読者も多かったかもしれないが、一国の王女として国に留まることを決意したビビには引き際の美学を感じる。別れを告げるビビに仲間の印を掲げる麦わらの一味という構図は、感動的なシーンが多い『ONE PIECE』でも屈指の名シーンだ。

 無名海賊団が強敵を打ち負かすジャイアントキリングの爽快さ、麦わらの一味がビビと紡いだ絆の物語、その二つが読者である我々がアラバスタ編に強い魅力を感じる理由なのだろう。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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