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林遣都一人芝居の新しさ、男女ともに好感『わたナギ』 2020年を振り返るドラマ座談会

リアルサウンド

20/12/27(日) 12:00

 新型コロナウイルスの感染拡大による撮影の中止、放送延期という未曾有の事態を乗り越えながら、各局、各配信サービスなどから多種多様なドラマが生まれた2020年。リアルサウンド映画部では、レギュラー執筆陣より、ライターの佐藤結衣氏、SYO氏、Nana Numoto氏を迎えて、そんな過酷な状況下の中、生み出されたドラマを振り返る座談会を開催。前編では、一時は撮影を中断しながらも、視聴者の元に作品が届けられた『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)、ソーシャルディスタンスドラマ『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)、『MIU404』(TBS系)に注目し、2020年の日本のドラマシーンについて語り合った。(編集部)

大事なテーマがたくさん詰まった『わたナギ』

ーー2020年に放送、配信されたドラマの中でみなさんの一押しはどの作品ですか?

Nana Numoto(以下、Numoto):『私の家政夫ナギサさん』(TBS系、以下『わたナギ』)がすごく印象に残っています。私は年代的にもメイちゃん(多部未華子)と同じだったので、共感できた部分が多かったですね。あと大森南朋さんが演じたナギサさんも、最初は驚きましたけど、とてもよかったです。予想外だったことがプラスに働いたというか、意外とキュンキュンするシーンもあって、楽しめました。

SYO:『わたナギ』は男性の僕から見ても、すごく好きですね。ドラマってわかりやすくするために対立構造を描きがちで、女性を主人公にすると、男性は悪役に追いやられることが多いのですが、『わたナギ』は目線がすごくフラットだったので、気持ちがよかったです。メイちゃん(多部未華子)とナギサさんのどちらに対しても共感できる作品でした。家事代行のCMが入るのも面白かったですね(笑)。

Numoto:頼もうかなって思いますよね(笑)。いくらだ!?って。

佐藤結衣(以下、佐藤):あの時期は“おじさんブーム“とも言われていましたよね。個人的には「おじさんだから」みたいなレッテルごと取り払っていこうという気概を『わたナギ』から感じていたので、“おじさんブーム”とくくられるとなんだか複雑な気持ちになっていました(笑)。いわゆる「イケメンとの恋」や「結婚して幸せになりました」みたいなラブストーリーだけではなく、家庭的な男性に心休まる女性という夫婦像があってもいいんじゃないかということを提案してくれた作品だと思いました。

Numoto:“おじさんブーム“は『半沢直樹』(TBS系)や『おじさんはカワイイものがお好き。』(読売テレビ・日本テレビ系)も人気があって、40代〜50代の俳優さんが活躍し、作品を牽引していましたよね。あとナギサさんが「お母さんになりたい」って言った時、泣けてきちゃうくらい心に響きました。“男の人がお母さんになりたいって思っちゃダメなんてことないんだよ”っていうメッセージが込められていて、描いていたものがすごく多かった気がします。メイちゃんのお仕事ドラマとしても、恋愛ドラマとしても、男女の役割について描いた部分においても、楽しめた人が多かったのではないでしょうか。家事の分担に関しても、夫婦で考えさせられた人は多いんじゃないかな。

佐藤:『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)も家事代行が出会いのきっかけになっている作品でしたけど、『逃げ恥』のときは男性が女性の家事代行を頼んでいたところに「贅沢だ」という声はあっても、世間体的にもあまり気にならなかっただろうと思います。でも『わたナギ』では男女が逆転しただけで、こんなに入り口の部分から騒がれちゃうんだとは思いました。最初はメイちゃんも「家政夫さんが来てるなんて言えない」って隠し通そうとドタバタしたシーンも、ドラマのアクセントにはなっていました。加えて、「仕事も家庭もしっかり」という、お母さんの呪いみたいなところも描かれていたのも、よかれと思ってしてきた言動が場合によっては毒親のようになる可能性にも気づかせてくれた部分がありました。

Numoto:毒親って表に出しにくい話題だったと思います。世間の目もまだ「親は尊敬するべき」みたいなところがあると思いますし。あとは男性の家政婦を女性が雇ったら、だらしなく見えてしまうんじゃないかっていうのを払拭したと思います。これらのテーマを、あの時間帯にテレビドラマでやったこと自体に意味があったと思います。

SYO:『わたナギ』は悪い人がいないドラマだと思っています。みんなが一生懸命やっていて、一瞬、悪い人に見えそうな人もいるけれど、ちゃんと過去が描かれるので納得できる。仕事でいっぱいいっぱいになって潰れてしまったナギサさんの部下のシーンも、シリアスな内容をちゃんと描いてくれるんだって思いました。

ーーメイを演じた多部未華子さんが魅力的でしたよね。

Numoto:多部ちゃんはとても一生懸命な等身大の20代後半の女性らしさがあって、すごく元気をもらえました。映画『夜のピクニック』とかで注目されて『デカワンコ』(日本テレビ系)でロリータの格好をしていた頃は、10年後にどんな芝居をするんだろうってまだ想像もついてなかったです。けど今は大人の女性として魅力的な役をたくさん演じていますよね。

SYO:多部さんは『ピース オブ ケイク』くらいから、「少女性」に依存しない役が増えてきましたよね。彼女の演技は、やっぱり共感性が高いですよね。一生懸命仕事を頑張っているってシーンが多かったし、後輩の面倒見がよくてすごくしっかりしているところもあって、多部さんが出ることで社会人としての言動がすごくしっくりくるというか。視聴者との距離感が適度に近い方だと思います。

Numoto:多部ちゃんが演じたメイちゃんは、あえてブランドものをたくさん身につけているんです。TASAKIのすごく高いパールのアクセサリーをしていたりとか、バッグもステラ マッカートニーでしたし。自分の力で稼いで、それを自分のために自由に使って、家のことも自分のお金で投資して家事代行を頼んでいて、「私は仕事を頑張るんだ」って自ら選択していることが、衣装からもわかりました。ごく普通のOLというよりは、キャリアにおいてかなり成功しているキャラクターだったようにも思います。それを上手く共感に落としこむことってすごく難しかったのではないかと思いますね。多部ちゃんだったからこそ、親しみやすさとか愛嬌とか、全部含めて成立したのかなって思います。多部ちゃんのナチュラルな魅力で、服やアクセサリーが可愛いことも話題になりましたよね。

佐藤:いわゆるこれまでのドラマではバリキャリ=強くて、完全無欠なイメージが多く描かれてきたように思いますが、多部さんの演じたメイはとてもナチュラルで、すごく今っぽいなと思いました。仕事では成果につながるであろう、ちょっぴり強引なところには、視聴者もナギサさんも「えー!?」と驚かされましたが、それでも愛らしさに繋がっていたのは、あの屈託のない笑顔と透明感があればこそではないかと。それに富田靖子さん演じる女性上司や眞栄田郷敦さん扮する新入社員とのフラットなやりとりもすごく魅力的で。仕事と女性の関係性は、ゆるキャリorバリキャリと白黒つけるだけじゃなくグラデーションがあるんだということを自然体で見せてくれたように思います。

ーーメイちゃんとナギサさんの結末については賛否両論の意見もあった気がします。

佐藤:年の差だったり、家事の分担だったりという点では、今の時代「ありあり!」と個人的には思いました。でも、家政夫だと思っていた男性が恋愛対象として見られるということに抵抗を感じる方がいるのは理解できるところではありました。それこそ、そういう視線がない「プロ」だと思って雇っていたはずなのに、となる方もいるかもしれないな、と。

Numoto:すごくわかります。最初ナギサさんは、それこそ「僕はプロだから」ってしきりに言っていて。下着も全然気にせず洗うし、そういう目で見ないよっていうスタンスをとっていたので、あの最後に引っかかる気持ちはわかります。

佐藤:現実的に、家政夫という職種がこれから広がっていくかもしれないことを考えると、そのあたりはまだまだ慎重さが必要なところかもしれませんね。でも、これはあくまでドラマなので「2人が幸せならいいじゃないか!」と思います(笑)。お似合いでしたしね。突拍子もない感じで走り回っちゃうメイちゃんに対して、ナギサさんがお母さんみたいになれるという感じが。最近のドラマでは、男女平等、パートナーは対等、夫だから妻だからってとらわれない、みたいな話が多かった中で、また新しい、“お母さんと娘”みたいなカップルもありかもって。それが大人数の人に受け入れられるかは別として、多様性ってそういうことかなって。いろいろな可能性をドラマで想像していくことが、現実の多様な考えを受け入れる土壌を作ると思うので、本人たちがいいならいいというのがベストなんじゃないかな。

Numoto:本当にそうですよね。結局、それがたまたまナギサさんが男性だったけれど、本当にお母さんみたいな年齢の女性でもいいわけだし。それこそ私たちが価値観を変えていかないといけない部分もあったと思いました。一方で、実際に年上の男性が年下の女性に対してアンフェアな態度で接している構図もないわけではないので、そこに対しての危機意識も忘れずに持っていたいなとは思いますね。

佐藤:それをドラマでポップに描いてくれたからこそ、逆にみんなで、「真剣に考えるとどう?」みたいな話ができるのかも。そこから、社会的な話もしやすい気がします。

『世界は3で出来ている』の1人芝居×3という新しさ

ーーSYOさんの今年よかったドラマはなんでした?

SYO:単発ドラマだと林遣都さんが一人三役を演じた『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)です。クオリティの高い役者を入れれば、一人でこれくらいのことができるんだなと驚かされました。コロナ禍で自分が懇意にしてたお店が潰れてしまうとか、リアルタイムな悲しみをちゃんと描いてくれたので、救われた人もすごく多かったんじゃないかなと思います。今年のこの状態でしか作れないドラマだったと思うし、とてもクオリティが高かった。

Numoto:林遣都さんはぐんぐん頭角を現してきた感じがありますよね。『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)でより人気が出て、『スカーレット』(NHK総合)に出演して、リモートドラマでも活躍して、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)も出演して、映画も決まっていて。役者として飛躍の年だったことに加えて、この時期にチャンスを掴んだことがすごいなって思いました。誰もが仕事が減っていた時期に、林遣都さんはすごく活躍の場を増やしましたよね。

佐藤:リモートドラマも含め、自粛中はいくつか実験的な作品がありましたよね。

SYO:『世界は3で出来ている』の物語自体は、「自粛が明けてから、ただ三つ子が出会った」それだけの話ですが、一人芝居×3という部分に新しさがある。何がすごいって、林遣都さんの見た目が変わらないのに3人が別人に見える。同じ空間にいて、同一人物なのにも関わらず、それを成立させてしまうところが凄かった。3人で声を合わせるシーンとか、どうやって撮影したんだろうと思いました。

Numoto:リモートだと『JOKE~2022パニック配信!』(NHK総合)が好きでした。美術の可愛さとか華やかさがありつつ、一人芝居も面白かった。リモートだと、SNSとかインターネットを絡ませざるを得なくなるじゃないですか。相手がいない状態で物語を進めるとなると、どうしてもガジェットありきになる。それもあって、私たちが普段使っているスマホやSNSが、さらに色こく反映されるきっかけになったのかなとは思いました。そこにすごい面白さを感じましたね。あるあるって思ったり、いいことばかりじゃなくて怖い部分もあると思ったり。それをリアルに感じた作品でした。

SYO:『JOKE~2022パニック配信!』は、ネットの悪意をすごく上手に描いていましたね。今年はいろんなSNS上の問題があったし、誹謗中傷もその一つだと思います。やっぱりコロナ以降からSNS上での悪意ってだいぶ増していると思っていて。SNSがみなさんのストレスの吐け口になってる中で、ドラマも変わってきてるなと思います。

ーー佐藤さんは何かリモートドラマご覧になりました?

佐藤:リモート中は完全にNetflix中毒になっていました。『梨泰院クラス』、『愛の不時着』、『人間レッスン』など、気分だけでも韓国に行きたいって思っていましたね。逆にいうと、一気観ができる時間が取れるので、没頭しやすい時期でした。あと、自粛期間中に連絡をとった人とは「何観てる?」なんて会話もしました。「見たらリモート飲みしようよ」って言い合ったり。

ーーそうですよね、リアルタイムで観て喋れる作品がないから、同じ作品を観て話したり。

佐藤:あとは自粛中に入った動画配信サービスで、過去に評判がよかった作品を観たりもしました。再放送している内容を観て、その人の過去の作品を観たいと掘り返してみたり。ドラマって時代をすぐ取り入れられる代わりに、すぐ捨てられる作品でもあるじゃないですか。観返すっていう、立ち止まるタイミングにもなったかなと思いました。『最高の離婚』(フジテレビ系)を観返した時は、離婚に対する価値観も、この数年でまた変わってきているなと改めて感じました。きっとこの先、2020年を経ていろいろな価値観がもっと休息に変化していく気がします。「テレビで今これ流すのはいかがなものか……」ってなってしまう名作が再放送されにくい時代にもなっていくと思うので。個々人がオススメし合って好きなタイミングで観返す習慣みたいなものは大切にしていきたいなと。

「エンタメ」の気概を見せられた『MIU404』『半沢直樹』

ーー佐藤さんの一押しの作品はなんでしょうか?

佐藤:私はいったん撮影が中断して再開した『MIU404』(TBS系)の奮闘が忘れられません。テレビであんなに派手なカーチェイスを久しぶりに見ましたし、こんな状況下だからこそ、「エンタメの力を見せてやんぞ」っていう気概を、スタッフからもキャストからも感じられる作品だったと思います。プロデューサーの新井順子さんにインタビューさせていただいたときに「お金のことはあとで考える! どうにかする」っておっしゃっていて。やっぱり『アンナチュラル』(TBS系)の成功があったから、ちょっと自由にできるのもあったんじゃないでしょうか。どうしても最近は、SNSの声が大きいのもあり、失敗できない空気があって。企画自体が似ていたり、一時期は医療ドラマばかりだったりとか、みんな同じようなことを一律やりがちでしたよね。そういう中で、「やったるわ」って勢いのある作品を見ると、嬉しくなる。演者さんも楽しそうでしたし、チャレンジしてずっこけても、新しい道を見つけたって思えばいいんじゃないって、逆にこの状況下だからこそのおおらかさも感じることができたと思います。あまりにも期待値が上がっている中でのスタートでしたが、そのプレッシャーを跳ね除けた作品だったと思いますね。

Numoto:勢いがありましたよね。完全にシークレットな状態からの菅田将暉の登場とかも大きく話題になりましたし。

佐藤:絶対にネタバレしないとか、超テレビっ子な人が作っているなって感じがしました。大物ゲストが出るって言えば絶対に視聴率は上がるのに、ネタバレしたら視聴者は冷めちゃうだろうって思いもあって。そういう破天荒なところがよかったです。エンタメってそういう人がいていいはずなのに、やっぱりコンプラの問題もあってなかなか難しい。枠組みの中でどれだけ暴れられるかみたいなところを見せてもらったと思います。『半沢直樹』も「間に合いませんでした!」って正直に出して、緊急特番をやったりとか、そういう作品に近いのかな。没個性が続く中で、「やりたいのはこれ!」って提示してくれる作品は気持ちがいい。作り手がこれやりたいって思いがあると、伝わるよなって思います。

SYO:『半沢直樹』は見逃し配信をしないっていう新しさもありましたね。絶対に生で見せるぞという気概。メインのターゲットが見逃し配信を利用する層じゃなかったこともあると思いますが、それを差し引いてもそれくらい視聴率に重きをおいた作品だったと思います。かなり勇気のある決断だったと思います。あと『MIU404』もちゃんとコロナを描いていましたね。その辺りも、途中から方向転換を図る作品もあったし、最初からコロナ禍でどう描くのかって作品もあったし。ドラマは取り入れるのが一番早かったですね。

Numoto:確かに途中で取り入れたパターンもありましたね。『恋する母たち』(TBS系)はまさに途中でコロナの時代(2020年)になりましたし。『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)は、最初からコロナを意識した設定で作られていました。

SYO:『共演NG』(テレビ東京系)でも取り入れられていて、「差し入れダメです」とか「差し入れマスクです」ってシーンもあって。そういう意味でも、ドラマって今を生きている人たちに届けることをすごく重視するんだなって思いました。

■リリース情報
『MIU404』
発売中

【Blu-ray】
価格:28,800円(税別)
仕様:2020年/日本/カラー/本編(尺未定)+特典映像/16:9 1080i High Definition/Vol.1~3:2層、Vol.4:1層/音声:リニアPCM2chステレオ/字幕:日本語(本編のみ)/全11話/4枚組(本編ディスク3枚+特典ディスク1枚)

【DVD】
価格:22,800円(税別)
仕様:2020年/日本/カラー/本編(尺未定)+特典映像/16:9LB/片面1層/音声:ドルビーデジタル2ch/字幕:日本語(本編のみ)/全11話/6枚組(本編ディスク5枚+特典ディスク1枚)
※仕様は変更となる場合あり。

<特典映像>
1Sインタビュー集、SPOT集ほか(予定)

<初回生産限定封入特典>
劇用車「まるごとメロンパン号」クラフト(PP素材)

<封入特典>
ブックレット(脚本家・野木亜紀子による各話ライナーノート“nogi note”を掲載)

出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、番家天嵩、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
主題歌:米津玄師「感電」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
音楽:得田真裕
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(c)TBSスパークル / TBS

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