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君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙…崎山蒼志『並む踊り』優れた“個”が集まる場としての面白さ

リアルサウンド

19/10/30(水) 7:00

 崎山蒼志の2ndアルバム『並む踊り』が本日10月30日にリリースされた。崎山が単独名義で他者と共作するのは今回が初めてで、そのラインナップも近年注目されている“シンガーソングライター”の中から特に強力な面子を集めたものになっている。これからの音楽シーンを担う才能が一堂に会する場としても記念碑的な一枚になった本作に関連して、ここでは参加アーティスト各人の音楽性とその共通点について考えていきたい。

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 まず、本作のリーダーである崎山蒼志。昨年末に発表した1stアルバム『いつかみた国』は300曲を越える膨大なレパートリーから厳選された7曲からなる作品で、フォークロックにエモ~ポストロックや近年の多展開型J-POPを融合させたような作編曲、驚異的に味わい深い歌詞、唯一無二の演奏表現力など、若さに技術や音楽的豊かさが間に合わなければ生み出せない類の傑作となった。収録曲は打ち込み1曲を除き全て崎山単独のギター弾き語りだが、ハードコアパンク的な分厚い音色とテクニカルメタルばりの高速刻み、そしてヒップホップや各種ダンスミュージックにも通じる強靭なビート処理能力など、様々なジャンルをまたぐ要素が自然に統合されており、伝統的な“シンガーソングライター”のスタイルを引き継ぎつつ全く新しい演奏感覚を生み出している。そうした持ち味は幅広く分け隔てのない聴取姿勢(こちらのインタビュー:https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/soushi-sakiyamaに詳しい)を通し培われたもので、同時代の音楽に関してもBlack Midiやイヴ・トゥモアなど話題になったものを積極的に聴き貪欲に影響を取り込んでいる模様。『並む踊り』に参加する長谷川白紙との交流も長谷川の1st EP『草木萌動』(2018年12月18日発表)を崎山がTwitterで絶賛したのがきっかけで、本作における3者との共作は崎山のこうした音楽的発展傾向をよく示すものといえる。

 その共作第1弾である「潜水」(9月20日配信開始)でアレンジと演奏を担当している君島大空はまずサポートギタリストとして名を馳せたテクニカルなプレイヤーだが、今年の3月13日に発表されたデビューEP『午後の反射光』はそうした技術を一切ひけらかすことのない美しい歌もの作品となった。こちらのインタビュー(https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/soushi-sakiyama)で挙げられているジム・オルーク『The Visitor』やFennesz、My Bloody Valentineらの影響を独自の形に昇華したような一人多重録音は他では聴けない複雑な構造をなしており、崎山との「潜水」にもそれが最高の形で活かされている。君島の音楽でもう一つ興味深いのが独特の和声感覚で、先述のアーティストたちに加え、高校時代にひたすらコピーに励んだというテクニカルなメタル(自身のTwitterではDream Theater『Train of Though』やThe Faceless、Vildhjartaといった“プログレッシヴメタル”の名前を出している)の特殊で美しいコード遣いがさりげなく自然に取り込まれているように思われる。デビューEPのタイトルトラックにはCynic(プログレッシヴメタルを代表するバンドであり2006年の再結成後はインディーロックに急接近した)を連想させる部分があるし、崎山との「潜水」にもそうした感覚が落とし込まれているようにみえる。たおやかで中性的なコーラスも音響の一部としてうまく機能しており、崎山の表現力豊かなボーカルを絶妙に引き立てている。

 それと比べると、共作第2弾「むげん・」(10月4日配信開始)のトラックメイキングを担当した諭吉佳作/menは大きく異なる音楽性を持っている。Appleのシーケンスソフト・GarageBandで編曲を始め、今年の3月にMacBookを手に入れるまではほとんどの作業をiPhoneでこなしていたという諭吉の作品は、そうした遍歴から想像されるだろうシンプルなものとは一線を画する高度で奥深い構造を備えており、優れたボーカル表現とあわせすでに唯一無二の音楽性を確立している。諭吉佳作/menの初発表作「非常口」(2018年3月22日リリース)のイントロは8分音符カウントだと9+10+13=32=8×4拍で、捻ったアクセント付けをしつつ4拍子の枠内でストレートにノレるようになっているし、「純生活」(2018年8月17日リリース)では5+5+5+4拍のイントロで始まった後に5拍子や3拍子に滑らかに連結するなど、変則的な展開を違和感なくつなぎ快適に聴かせてしまう構成力が光っている。こうしたリズムアレンジだけでなくフレーズやコードの扱いも優れていて、テイラー・マクファーリンあたりに通じる響きなど、エモ~電子音楽~現代ジャズ的な和声感覚を自身の美意識に強引に引き付けて感覚的に再構築している印象がある。このような作編曲能力は崎山との「むげん・」でも十二分に活かされており、二人で出し合ったイメージを諭吉がGarageBandでまとめ上げたトラックに崎山がギターを重ねて作ったというアレンジ、両者がほぼ均等に歌いあうボーカルパートなど、楽曲の全編において両者の持ち味が素敵な配合をみせている。

 その諭吉佳作/menと比べると、共作第3弾「感丘」を担当する長谷川白紙は打ち込み+生歌というスタイルの面では似ているものの、作編曲の構造はかなり異なっている。月刊『ラティーナ』2019年2月号掲載のインタビューで「私の音楽にはジャズ、ブレイクコア、現代音楽などの色々な要素が混在していて、声がないと訳のわからない作品になる。自分の声が全編通して歌として存在することで、全体の接着剤として機能していると思うんです」「『它会消失』が転調の多い曲である一方、『キュー』はBフラットのルートからほとんど離れないシンプルな曲なので、調的な隔たりもあるんです。『妾薄命』のアウトロで、7回くらいBフラットの音を入れています。そうすることでやっと『キュー』の調環境に入ることができる」などと述べているように、長谷川の音楽では楽理的バックグラウンドに基づいた強固な論理性が感覚的な閃きと並び立っており、先立つ直感を強引かつ高精度に整理しつなぎとめているような諭吉の音楽とは行く先は似ていても理性の機能の仕方が異なる印象がある(諭吉がでんぱ組.incに提供した「形而上学的、魔法」は長谷川の楽曲に似ている部分が多いが、だからこそ両者の違いも際立っているようにみえる)。先掲インタビューで大きな影響源として挙げられているアントニオ・ロウレイロはそうした傾向をよく示すアーティストで、現代ジャズとブラジル音楽を接続するような和声感覚は「フュー・スタディP」「它会消失」など多くの曲に反映されているし、J-POPや歌謡曲の系譜からはある程度距離を置いているようなメロディセンスもこうしたところから来ているのではないかと考えられる。また、以上のような高度な作編曲能力に負けず劣らず素晴らしいのがボーカルで、独特のテンションの低さと牙の鋭さを両立する豊かな響きは先述のような複雑な和声感覚と根っこのところで繋がっている感じがある。パソコン音楽クラブの2ndアルバム『Night Flow』(2019年9月4日発表)の最後を飾る「hikari(feat. Hakushi Hasegawa)」ではその魅力が見事に活かされており、“表情筋が固い抒情”とでも言うべき深い情感はこの声でなければ表現できなかっただろうと思われる。

 崎山との共作曲「感丘」でも以上のような持ち味は十全に発揮されている。7連符メインの展開に複雑に切れ込むリズム構成と解決感の薄いコード進行は長谷川の既存曲に連なりつつさらに攻めているように感じるし、そうした音楽性や雰囲気は崎山のボーカルに非常によく合っている。調性感が薄いこともあって歌メロを覚えるのは容易でなかったと思われるが、崎山がライブで唱歌「朧月夜」のブラジル・ミナス音楽風カバーをしていることなどを考えれば両者の音楽的相性はもともとよく、全体的な完成度は文句なしに素晴らしい。崎山の朴訥とした落ち着きが長谷川のひりひりした沈静感と絶妙に融けあうこの感じ、個人的にはこれで一枚作ってほしいくらい好ましく思える。ぜひまた共演してほしいものである。

 以上の4名が音楽シーンで注目されている背景には年齢の若さ(2019年10月現在で崎山17歳、君島24歳、諭吉16歳、長谷川20歳)もある程度は関係しているだろうが、「若いから凄いのではない。凄い人物が、偶然若かっただけだ」というように、何よりもまず各人が唯一無二の音楽的実力を備えた一流のミュージシャンだからというのが大きい。一口に「シンガーソングライター」と言ってもやっていることは千差万別で、これは音楽性というよりも「ひとりでやっている」という“個”の在り方を示す言い回しとみなす方が適切だし、そうやって豊かなスタイルを雑に括ることが音楽シーンに面白さや広がりを与えている面もある。崎山蒼志の2ndアルバム『並む踊り』はそうした優れた“個”が集まり相互作用を引き起こす場としても実に興味深く、「潜水」に参加している石若駿(日本屈指の天才ドラマー/ソングライターであり自身のバンド活動やセッションワークを通し国内の重要シーンの多くに関与している)もあわせ、これからの音楽シーンを担う才能が一堂に会する場としても記念碑的な一枚になるだろう。それを読み解くにあたり本稿が何かの手がかりになれば幸いである。(s.h.i)

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