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立川直樹のエンタテインメント探偵

ステイホームの合間に出かけて観た極上のあれこれ。デイヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』、『篠田桃紅展 』、合田ノブヨ「花ぬすびと」展…。

毎月連載

第70回

デイヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』(C)2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

5月5日、ゴールデンウイークが終わろうとする夜、テレビのニュース番組をザッピングしながら書いている。

コロナ禍が収まる気配は全くなく緊急事態宣言は街の風景を一変させ、エンタテインメントの世界も影響というか大打撃を受けている。京都の美術館「えき」KYOTOで4月3日に幕が開き、きょうまで続くはずだった展覧会『BOWIE×KYOTO×SUKITA』鋤田正義写真展」も毎日400人を越すお客さんが来てくれていて、ゴールデンウイークの動員にも美術館は大きな期待をかけていたのに4月24日で中止に追いこまれてしまった。見に行くつもりだった久石譲と新日本フィルによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」2年ぶりの公演も稲垣吾郎主演の『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』も「昔の花の盛りの舞台を観た筆者も、もはや老境を迎えた名優たちにはいかがかと危惧しつつ出かけたのだが、案に相違して、衰えぬ二人の美貌と芸の深まりに驚愕した次第である」(東京新聞4月16日付“大波小波”)をはじめ最大級の賛辞の言葉を寄せられていた歌舞伎座「四月大歌舞伎」第三部『桜姫東文章』や美術館巡りのスケジュールも一切白紙になってしまったので、ステイホームの時間は否応なしに増え、“日記録”を読み返してみても、試写室や美術館、ギャラリーにはかろうじて行けているもののフラリとライヴなどを見に行ける状況ではない。『ノマドランド』が作品賞、監督賞(クロエ・ジャオ)・主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)の三冠に輝き、マイノリティの躍進が目立った第93回アカデミー賞も1年間以上映画館が閉まっているのですっかりお金がなくなってしまったというハリウッドに対して今や世界最大の映画会社になったと言われるNetflixの隆盛もコロナ禍と大きく関係している。

それなので今回は一区切りしたい気分もあるので、日記録から見たもの聴いたもので、“よかったもの”だけ拾い出してみることにする。

まずは少し前の3月23日になるが渋谷 シネクイントで行われたプレミア試写会で観たデイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが最高のパフォーマンスを繰り広げる伝説のブロードウェイ・ショーを鬼才スパイク・リーが完全映画化した『アメリカン・ユートピア』(5月28日公開)が必見、極上のライヴ映画。シネクイントのすぐそばに3月17日にオープンしたディスクユニオン初のロック大型専門店「ROCK in TOKYO」でも最高にワクワクする気分を味わい、ドン・ヘンリーの2015年のアルバム『カス・カウンティ』などを購入したが、本郷で約90年続いた古書店「大学堂書店」が4月いっぱいで閉店(4月27日に出かけてみた)するなど、いい店やいい場所が減っていく中で絶対応援したい店だと思う。

昼の展覧会、テレビでみた三島由紀夫など…深夜に聴くザ・バンド、ジョン・レノン…時空を超える旅がますますエスカレートしていく。

『篠田桃紅展 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち』チラシ

展覧会ものでは4月14日に横浜そごう美術館で見た『篠田桃紅展 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち』が展示が少し平板だったとはいえ、十分に見る価値があったもの。恵比寿のLIBRAIRIE 6でその週末の17日に見た押し花とコラージュで新境地を開拓した感のある合田ノブヨ「花ぬすびと」展が小ぶりだが素晴らしい内容。WOWOWでアカデミー賞の生中継を見てから、松竹試写室での『シンプルな情熱』(7月2日公開予定)の試写の後に見た銀座駅と東銀座駅を結ぶ地下通路で開かれているウィリアム・クラインの写真展『GINZA1961 街が主役の写真展』(6月13日まで)も値打ちがあった。

合田ノブヨ「花ぬすびと」展から

あとは、『没後50年 今夜はトコトン三島由紀夫』(4月4日)、NHKスペシャル『緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス』(4月7日)、BS-3の『これがラスベガスだ 華麗なるショーのすべて』(4月8日)と『世界サブカルチャー史・欲望の系譜~アメリカ幻想の70's』(4月24日)がテレビの収穫。深夜に偶然当たった『イージー・ライダー』の全く古臭くならない凄さにも唸らされたが、ザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』や50周年記念盤が出たジョン・レノンの『ジョンの魂』、レイ・チャールズの『1952~59』やチャールズ・ミンガスの1959年のキャンディド・セッションあたりに不変の素晴らしさを感じているということは、時空を超える旅がますますエスカレートしていく予兆だろうか…。4月28日の深夜に観た韓国映画界の鬼才キム・ギヨン監督の1960年作品『下女』も映画本来の“力”と“表現”にあふれた秀作だった。

データ

『時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA 鋤田正義写真展』
会期:2021年4月3日~5月5日 ※緊急事態宣言を受け、4月24日に閉幕
会場:美術館「えき」KYOTO

ドン・ヘンリー『カス・カウンティ』
発売日:2015年10月02日
価格:2,860円(税込)
ユニバーサル ミュージック
詳細はこちら

『アメリカン・ユートピア』(2020/アメリカ)
公開:2021年5月28日
配給:パルコ
監督:スパイク・リー
出演:デイヴィッド・バーン

『篠田桃紅展 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち』
会期:2021年4月3日~5月9日
会場:そごう美術館

合田ノブヨ「花ぬすびと」展
会期:2021年4月3日~25日
会場:Galerie LIBRAIRIE6/シス書店

『シンプルな情熱』(2020/フランス・ベルギー)
公開:2021年7月2日予定
配給:セテラ・インターナショナル
監督:ダニエル・アービッド
出演:レティシア・ドッシュ/セルゲイ・ポルーニン

ウィリアム・クライン写真展『GINZA1961 街が主役の写真展』
会期:2021年4月1日~6月13日
銀座地下歩道(銀座駅・東銀座駅間地下通路)

『没後50年 今夜はトコトン三島由紀夫』
放送日:2021年4月4日
NHK BSプレミアム(再放送)

NHKスペシャル『緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス』
放送日:2021年4月7日
NHK総合(再放送)

『これがラスベガスだ 華麗なるショーのすべて』(2006年作品)
放送日:2021年4月8日
NHK BSプレミアム(再放送)

『世界サブカルチャー史 欲望の系譜~「アメリカ 幻想の70s」』
放送日:2021年4月24日
NHK BSプレミアム

『下女』(1960/韓国)
監督:キム・ギヨン
出演:キム・ジンギュ/チュ・ジョンニョ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。

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