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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

「極音」の聖地立川・シネマシティ—『マッドマックス』『ガルパン』で夏音祭

隔週連載

第42回

20/8/2(日)

東京・立川の独立系シネコン「シネマシティ」が「シネマシティ夏音祭2020」と題して、同館での大ヒット作を3本上映している。『ボヘミアン・ラプソディ』(7月30日まで)に続き、7月31日からは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、8月14日からは人気アニメ『ガールズ&パンツァー 劇場版』を、同館きっての音響を誇る「a studio」で上映。迫力のサブウーファーで心も体も震える“極音”体感ができる。

シネマシティは94年にオープンした、東京のシネコンでは先駆け的存在。JR立川駅から徒歩5分、多摩モノレール立川北駅から徒歩3分の「シネマ・ワン」は6スクリーン、JR立川駅から徒歩6分、多摩モノレール立川北駅から徒歩2分の「シネマ・ツー」(2004年)は5スクリーン。開館当初からジョージ・ルーカスが提唱した音響システム「THX」を日本で2番目に導入し、各スクリーンは「studio」と呼称するなど音響にこだわり続けてきた。

最大の売り物のa studio(座席384)はスロープ状に椅子が配列され、背もたれには柔らかなライトが灯る教会のような雰囲気。左右が湾曲した特殊なスクリーン、その左右にはコンサート用のPAスピーカー、スクリーン下には高機能サブウーファー「Meyer Sound 1100-LFC」が鎮座する。通常の映画館では前面スピーカーはスクリーン裏に設置されることが多く、こうしてむき出しで配置されるのは異例だ。これは、より直接的に音を届けるためだ。

a studio(座席384)
サブウーファー、Meyer Sound 1100-LFC

今や、全国の映画館が「爆音上映」といった音響を売り物にした興行を行っている。シネマシティでは、マイケル・ジャクソンのライブを収めた『THIS IS IT』(09年)ではライブハウスのような音響を売りにして大ヒット。高機能サブウーファーをレンタルで導入したハリウッド版『GODZILLA』(14年)では初めて「極上爆音上映」と銘打ち、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では、重低音が出力できるサブウーファーを購入し、12週のロングランヒット。サブウーファーの購入費もあっという間に回収しまった。さらに『ガールズ&パンツァー 劇場版』では音響監督の岩浪美和氏が音響調整したことが評判になり、聖地化。全国からもファンを集め、約1年のロングランとなった。

その仕掛け人は企画室室長の遠山武志さん。法政大学時代からアルバイトで入社し、20年以上、独自のイベント上映、編成し、情報を発信し、個人でウェブにも寄稿している。「コンセプトはレコーディングスタジオを再現しようというものでした。しかし、音響は一般の人にはほとんど興味のないことで、オープン当初はほとんど話題になりませんでした。自分がマイケル・ジャクソンのファンであったこともあって、『THIS IS IT』の時に、この映画館の設計に携わったサウンド・スペース・コンポーザーの井出祐昭さんに調整していただいたのが極音の原点でした」と振り返る。

映画の音響には制作側と劇場側で決めた基準があり、同じ設定で上映すれば正しいことになるが、実際にはかなりバラツキがあるという。シネマシティでは映画それぞれの個性を生かし、最適な音に音響専門家に調整してもらっている。いわゆる「極音」「極爆」といった呼称はドルビーアトモスなど音響システムの規格ではなく、「映画ファンに最高の音響クオリティーで届けたい」というシネマシティの“心意気”だ。

極音は、輪郭のはっきりした、キレが良く、速度の速い低音が特徴。アクションシーンでは重低音が響き、音波で椅子がズシンと揺れる。しかも、単に音量が大きいだけではなく、細かい音もクリアに拾い、映画の世界観にひたることができる。特にアニメと音楽映画は人気が高く、全国1位の動員も記録することも少なくない。

こんな極音シネコンの雄もコロナ禍では多大なダメージを受けた。「休館は2カ月以上でした。6月は前年同月比2割。7〜9月でお客さんを取り戻したいと思っていましたが、まだまだお客さんは戻ってきていないですね。極爆上映するアニメ『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』(8月15日公開)には期待しています。夏音祭でかける『マッド・マックス』と『ガルパン』はシネマシティの代表作のようなもので、この2本を観れば、うちの映画館がどんなものか、理解していただけると思います」(遠山さん)。

チケット発券機もソーシャル・ディスタンスに配慮

もう一つの人気の秘密は、全国随一の登録者を誇る「シネマシティズン」という会員制度だ。6カ月600円、年会費1000円を支払えば、誰でも平日1000円、土日祝1300円で観ることができる(特別興行除く)。通常50円のWeb予約の手数料も無料となり、チケットレスで入場可能。2019年4月からの料金改定では、夫婦50割を廃止し、シニア割引を60歳以上から70歳以上に引き上げる一方、24歳以下と60歳以上の有料会員は6カ月間100円に引き下げ。次世代映画ファン育成にも力を入れている。

昨年6月の「kino cinéma 立川高島屋S.C.館」(3スクリーン)に続き、今年9月には「TOHOシネマズ立川」(9スクリーン)がオープン予定。立川は一気に映画館の激戦区となる。「シネマシティの強みは、旧作であっても、音響など新たな価値を加えられることだと思っています。だから、旧作であっても、公開遅れとなる新作でも、通常料金としています。その料金に見合うものを提供しているという自負があるからです。例えば、ジブリリバイバル上映では、他劇場は一般1300円にしていますが、シネマシティでは一般1800円です。ただし学生割引もあれば、シネマシティズン会員なら会員価格でご鑑賞いただくことができます。個人的には、24歳以下の会員料金引き下げは念願でした。学生の頃、食費を削りながら、映画代を捻出していたので。若い人にどんどん足を運んで欲しい」と遠山さん。コロナ禍で配信サービスが活況を見せる中、シネマシティは映画館ならではの極上体験で勝負する。

映画館データ

立川シネマシティ

シネマ・ワン

住所:東京都立川市曙町2ー8ー5

シネマ・ツー

住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
電話:050-5541-8600

公式サイト:立川シネマシティ

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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