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「いとみち」津軽弁に字幕検討?メイドの衣装秘話も、横浜聡子が武蔵美で特別授業

ナタリー

「デジタルドラマII補講 演出講義 ーその人間の中と外ー 横浜聡子監督の『いとみち』について」の様子。左から岡太地、藪野麻矢、横浜聡子。

「いとみち」で監督を務めた横浜聡子が、6月7日に東京・武蔵野美術大学の特別授業に登壇。同作で衣装スタイリストを務めた藪野麻矢、映像学科非常勤講師で映画監督の岡太地とトークを行った。

越谷オサムの同名小説をもとにした本作は、津軽三味線が得意な青森・弘前市の高校生・相馬いとを主人公とする青春音楽ドラマ。いとが津軽メイド珈琲店でアルバイトを始めたことをきっかけに成長していくさまが描かれる。「名前」の駒井蓮がいとを演じた。

「ジャーマン+雨」「真夜中からとびうつれ」、ドラマ「ひとりキャンプで食って寝る」に続いて、「いとみち」で4度目のタッグを組んだ横浜と藪野。「デジタルドラマII補講 演出講義 ーその人間の中と外ー 横浜聡子監督の『いとみち』について」と題した授業では、衣装制作を中心にキャラクターの内面やそれをビジュアライズする方法論、演技演出の秘密など映画作りにまつわるクリエイティビティを語った。

横浜が故郷の青森で映画を撮るのは「ちえみちゃんとこっくんぱっちょ」「ウルトラミラクルラブストーリー」「りんごのうかの少女」に続く4回目。まず原作の印象を「かつての自分のことのようにいとの人生を読むことができて、シンパシーを感じた」と説明しつつ、「映画に必要な物語の起点としての怒りや欲望があまり見えない主人公。映像化するに当たって、彼女はどういう欲望を持った人間なのかを考えました」と脚本作業を振り返る。津軽弁にコンプレックスを抱えている人物像について「怒りを感じても、その感情をぶつける手段がない。2時間の長編作品で、内気で不器用な女の子を魅力的に見せ続けるのは本当に難しかった」と苦労を明かす。

岡は津軽弁を聞き取るのが難しいシーンが多々あることを指摘しつつ「前のめりに鑑賞すると、100%ではないが感情が伝わってくる。その気持ちを拾えた瞬間に快感や喜びがある。そのうち、いとのそばにいる感覚で映画を観る体験になっていく」と本作の魅力を説明。方言も多く非常に訛りが強いため、横浜曰く実際に「字幕を付けるか付けないか」の議論もあったそう。最終的に字幕なしにした理由について、横浜は「字幕を付けると意味は正しく伝わる。でも意味の壁と言いますか、そこでお客さんの思考が止まってしまう。字幕を付けずに津軽弁を聞いてもらうことで、お客さんに自由になってほしかった。でも、わからないことがストレスになる場合もある。その兼ね合いに悩みました」と話した。

授業では津軽メイド珈琲店で働くいとたちの制服に関する創作秘話も。映画では原作イラストの制服とは色もデザインも大きく異なる衣装が用意された。横浜は「原作は黒のロングスカートでクラシカルな英国メイドの服装。映画では何かもうひと工夫、映像で見せたときの吸引力が欲しくて」と回想。さらに「メイドカフェのお客さんは男性が多い。対お客さんの仕事で相手を喜ばせるのは当然のことなんですが、女性の私がそのような職場をどのように描くべきなのか悩みました」と振り返り、制服については「性別の特徴に偏って女性らしさを売りにしたような衣装にはしたくないけど、かわいらしさも欲しい」と藪野に伝えたという。

横浜と実際にいくつかのメイドカフェを巡り、制服を見学した藪野。「津軽メイド珈琲店の美術に大きなりんごの木を構想されていて、お店の中で歩くメイドさんがりんごの木の葉っぱみたいに見えたらいいなと思ったんです」と言うように、肩のギザギザはりんごの葉、膨らみはつぼみをイメージして青味のあるグリーンの衣装を制作した藪野を、横浜は「こんなメイド服はない。藪野さんは独創的でかわいい服を発案できる。全幅の信頼を置いてます」と称賛した。

第16回大阪アジアン映画祭でグランプリと観客賞を受賞した「いとみち」は6月18日より青森で先行上映。6月25日に全国公開される。

(c)2021『いとみち』製作委員会

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