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『岸辺露伴は動かない』が止まらない! 「くしゃがら」で高橋一生と森山未來が完璧な“ジョジョ化”

リアルサウンド

20/12/30(水) 12:30

 岸辺露伴は止まらない。そう書き始めたくなるほどに、12月28日の放送からネットが『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の話題で持ちきりだ。

 というのも、第1話「富豪村」のオンエアを受け、Twitterは絶賛の嵐になっている。その中でも特に目の肥えたジョジョファンが、製作陣の恐ろしいまでの原作リスペクトに気づき始めたのだ。それが第1話冒頭で、露伴(高橋一生)が自宅に侵入してきた泥棒にヘブンズ・ドアーを使い、本にして記憶を読んでいる中に「トニオ」「間田」の文字が記載されていたからだ。

 トニオ・トラサルディー、間田敏和は、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に登場するキャラクターたちで、漫画『岸辺露伴は動かない』のエピソードにもそれぞれ姿を見せる。今回の実写化では登場はしないが、物語の外ではちゃんと彼らが生きている、ここは杜王町であることを証明して見せていることになるのだ。

 そんな製作陣の好奇心によって、第2話「くしゃがら」は絶対的な信頼の上で、それでも何かやってくれるんじゃあないのかという期待値も高くあったのは事実だ。「くしゃがら」は、短編小説集『岸辺露伴は叫ばない』に収録された、北國ばらっどの作品を基にしており、唯一の小説からの実写化となる。さらに言えば、「富豪村」はOVAでアニメ化がされていたが、「くしゃがら」は全く映像化されていない、言わば誰も“観た”ことのない作品。これは結果論になるが、故に遊べる振り幅も大きかったように思える。

 第2話の醍醐味は、露伴と、同じ“集明社”で連載を抱える漫画家・志士十五(森山未來)、2人の丁丁発止のやり取りだろう。まるで会話になっていない、十五の独り言に始まり、やがて編集者に渡された「禁止用語リスト」から「くしゃがら」の単語を見つけ物語がスタートしていく。演じる高橋一生と森山未來は、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』以来、16年ぶりの共演。そうは思わせない、息ピッタリの会話劇にただただ圧倒される。原作にもある「かなりビビったよ。チビりそうだ、最高」(露伴)、「よし、ボツだな。わかりやすくって助かる」(十五)と、露伴は笑わず、十五が笑うという場面の再現には、思わずクスリとさせられた。

 驚くのは、怪演と言うべき森山未來の演技力の高さだ。過去に荒木飛呂彦の短編漫画『死刑執行中脱獄進行中』を原作にした舞台で主演を務めたこともある森山は、俳優としてだけではなくダンサーとしても名高い。十五は、人の好奇心を刺激し病原菌や寄生虫のように繁殖していく、くしゃがらに取り憑かれることになるが、そのフラフラとしたチンピラのような変貌ぶりは、類稀なる身体性から表現されていると言ってもいい(偶然フレームインしてきた蝶々を追いかけるアドリブも見事)。

 くしゃがらに取り憑かれて1カ月の十五と対峙する露伴。彼らしくない「気にしない」という選択を露伴は勧めるが、そこから十五は逆上し、あるセリフを口にする。「無理に決まってんだろ。このビチグソ野郎がァーッ!」。

 これは原作では「XXXX野郎がァーッ!」と伏字になっている部分。原作で十五のセリフの中に出てくる「ホーム・アローン」や「ミッシェル・ガン・エレファント」といった固有名詞、モザイクで隠していた禁止用語リストの中の「感電死」や「高圧線」「地震」「津波」といった言葉をひたすら配慮していたのにも関わらず、なぜここで「ビチグソ野郎」(これも第3部に出てくる名ゼリフ)を開くのか。しかも、NHK。それこそ“禁止用語”なのではないのか。といろいろな考えが脳裏をよぎるが、これも製作陣のジョジョ愛という結論に至る(ちなみに、脚本の小林靖子へのインタビューによれば「差別用語じゃないから」とのこと)。

 そして、「ビチグソ野郎」の後にやってくるのが、露伴の“ジョジョ立ち”だ。「親切で言ってるんだぜ。関わる必要もない、お前ごときにだ。このッ……岸辺露伴がッ!」。そう言って露伴は顔半分を覆うように右手をくの字に曲げる。これは原作でも扉絵として描かれ、等身大フィギュアとしても製作された有名なポーズ。漫画のストーリー上には出てこないジョジョ立ちであり、誰も“観た”ことがないからこそ、小説では咄嗟にこの仕草をしていたのかもしれない、というチョイスも絶妙だ。そして、何よりもギャグになっていない、自然な流れのジョジョ立ちに感動すら覚える。それは当然「おれたちにできない事を平然とやってのける」高橋の演技力あってのものである。

 ラストの「おことわり 視聴者の皆様の安全のため、番組内で使用した『くしゃがら』は、実際の単語とは違うものを使っております NHK」という注意書きも、原作のオチを小説版からテレビ版に置き換えたパロディの一つ。ホラー、サスペンスのラストとしても完璧であり、「好奇心は猫を殺す」になぞらえた原作にも忠実だ。

 ほかにも、冒頭で先述したレベルの目線で細かく観ていくと、序盤に露伴が読んでいる新聞の中に「吉良吉影」「派遣ハベスト」といった記載があったり、第1話に続き声優の櫻井孝宏(アニメシリーズの露伴役)がラジオの声で登場していたりと、ジョジョファンの熱狂は続いている。ついに最終夜、30日は第3話「D.N.A」。第1話から縦軸として描かれてきた平井太郎(中村倫也)がフィーチャーされる回であり、最も原作からオリジナル要素が足された物語と聞く。第1話、第2話に続き、驚くような演出を入れてくるのは「コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実」。今夜は「くしゃがら」ピザを食べて、22時のオンエアを待とうじゃあないか。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
『岸辺露伴は動かない』
NHK総合、NHK BS4Kにて、12月28日(月)、29日(火)、30日(水)22:00~22:49放送 (3夜連続)
出演:高橋一生、飯豊まりえ
第1話ゲスト:柴崎楓雅
第2話ゲスト:森山未來
第3話ゲスト:瀧内公美、中村倫也
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
小説:北國ばらっど『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』所収「くしゃがら」
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
演出:渡辺一貴
撮影:山本周平
照明:鳥内宏二
録音:高木創
美術:磯貝さやか
編集:鈴木翔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
制作統括:鈴木貴靖、土橋圭介、平賀大介
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
(c)NHK・PICS

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