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遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

アートのプラットフォームへと進化する「ArtSticker」

月2回連載

第39回

20/4/24(金)

遠山 いま、世の中が新型コロナウィルスで大変なことになっていますね。

鈴木 美術館や博物館、ギャラリー、映画館、図書館など、多くの文化施設も休館を余儀なくされています。そのせいで展覧会も中止になり、結局一度も開幕することなく、幻となってしまった展覧会もすでに出ています。

遠山 美術を楽しみたい人、作品を見てほしい人、双方が危機的状況にあり、アートを簡単に楽しめなくなってしまっていますよね。美術館やギャラリーがSNSなどオンラインで作品を紹介したり、展覧会ツアーや美術館内ツアーをしたり、アーティストが独自に自分の作品をSNS上で発表したりという動きも出ていますが。

鈴木 そんな中で、遠山さんもアートプラットフォーム「ArtSticker」でいろんな企画を打ち出していらっしゃいますよね。例えば卒業制作を卒展や展示イベントなどでお披露目できなかった美大生のために、「#ArtStickerで卒制展」っていう特設ページを開設したり。そして今回も自宅でアートを楽しむ企画を開催されています。

遠山 はい、写真家が自室で撮影した作品を特別公開する、公募形式の『STAY HOME展〜写真家が自室で見ているものたち〜』(以下、『STAY HOME展』)というのを、ArtStickerで開催しています。これは写真家のハービー山口さんからお声がけがあって立ち上げた企画。いまのこの状況を憂いてるだけじゃなくて、家にいてもできることってあるよね? 家にいてもアートを楽しむことができるよね? じゃあ我々に何ができる? っていうことを、今回は写真家自身がそれを示そうとハービー山口さんが言ってくれ、我々も共感して実現したオンライン写真展です。

鈴木 でもそれって前々から企画していたイベントじゃないですよね? もちろんこの状況になってから動き始めた。

遠山 3、4日で準備して、すぐに始動させました。

鈴木 しかも公募形式ですよね。

遠山 そうなんです。詳細はThe Chain Museumのページを見ていただきたいんですが、現在全129作品35組(4月19日時点)が登録され、作品が見られるようになっています。ただ、過去に受賞歴や個展歴がある写真家の方のみ応募可能で、すべて審査制になっています。やっぱり質の高いものを皆さんに見てもらいたいので……。

鈴木 リアルな場で我々も作品を見たいし、アーティストも作品を見てほしい。でもそれができないから、こういった発表の場が与えられるってすごくいいことですよね。個人のSNSだけでは見てもらえる人も限られたりするし。ArtStickerで企画としてやるのは、アーティストにとっても、ArtStickerにとってもWin-Winな気がするな。しかも鑑賞する側の我々も世界的に有名な写真家の作品を見ることができて、いいと思ったら金額を指定して、アーティストを支援することもできる。

遠山 しかも好きなアーティストさんがいたら、アプリ上でそのアーティストに直接感想を伝えられて、もしかしたら返事が届くかもしれない。それって普通に美術館やギャラリーへ行ったからってできることじゃないですよね。

鈴木 そう、アプリ上とはいえ、すごく作家や作品との関係性が近いですよね。でも今回こんな状況になって、アーティストとギャラリーの関係性とか、どこにいても仕事ができるとか、いろんなつながりについて考えさせられるようになりました。

遠山 確かに。例えばギャラリーとアーティストの関係性について言ったら、もうアーティストはギャラリー頼みの一択じゃなくなってきたし、ギャラリーもアーティストを囲い込んで売買するということも難しくなってきているんですよね。そういった中で、アーティストもギャラリーも変わっていかなければいけない時期に来ているし、頭を柔らかくしていかなくちゃいけなくなってきているわけです。いままでの関係性では乗り越えることができないぐらいの状況になってきました。

これまで海外のアートフェアに出すっていうのが、ギャラリーの役割の一つにありました。でも日本から持っていけるギャラリーもアーティストも限られてしまう上に、日本国内では知られずに終わってしまうことが多い。

鈴木 確かに今回のアート・バーゼル香港も、お金を払ってウェブで入場という形を取りましたが、通常よりも多くの来場者があり、売り上げも上がったんですよね。アートフェア自体のあり方も今後どんどん変わってくると思います。

これからの「ArtSticker」

鈴木 オンライン展覧会を開催中のArtStickerですが、それ以外の登録作品もかなり増えてきましたよね。これからまた新しいシステムや動きなんかもあるんですか?

遠山 実はこれから作品の売買を開始するんです。

鈴木 最初からアーティストを直接、そして気軽に120円からサポートできるアプリでしたが、とうとう実際に売買できるようになるんですね。確かに新型コロナのせいで、ギャラリーは休廊になるし、アートフェアも中止や延期といった状況。ものすごい大打撃ですよね。

遠山 そう、アーティストだけじゃなくてギャラリーにも深刻な影響が出ています。だからこの危機的状況をどう打破したらいいのか、と考えて、ArtStickerでも売買ができるようになりました。アートは唯一性を持つもの。その方が買う楽しみがあると思いませんか。その楽しみをもっと簡単に皆さんに体験してもらえたら、と思うんです。

遠山 それにセカンダリー(編集註:一度売買された作品を、改めて市場やオークションで売り出すこと)もやっていきたいな、と思っています。

鈴木 それはArtSticker内で、ですか?

遠山 そうです。自分の持ってる作品を売ることもできるようになったらなって思ってます。もっと作品を簡単にというと言葉が悪いかもしれないけど、売買できるようにしたいんです。いま自分が持ってるものをほかの人に売って、自分はまた新しいのを買う。家具のように入れ替えできたらいいなって。

鈴木 もしくはシェアっていうのもいいですよね。例えばAnycaっていう個人間で車をシェアするカーシェアサービスがありますが、今日はポルシェ、明日は4WD、子どもを大勢乗せるなら明日はサファリパークで使われてたライオンの形をしたバスとか、選ぶ楽しみがあったり、一度は手元に置いてみたい、一緒に生活してみたい。それはアートにおいても言えるかもしれない。

遠山 そう、それも面白いなって思ってるんです。選ぶ楽しみって無限にあると思うんですよ。一つの作品を自分で死ぬまで持ち続けるという形もあれば、売買していろんな人の手元に行くというのもあるし、みんなで買ってシェアするとか。あとは、ArtStickerに音声ガイドの機能も持たせたいなって思っていてずっと動いていたんですが、もう夏前には実装できそうなんです。特に芸術祭やアートフェアなんかは音声ガイドないじゃないですか。

鈴木 基本的に音声ガイドというのは、大きな特別展などで作られるものですよね。著名人や芸能人、声優さんなんかがそのガイドを務めることが多い。遠山さんはどんな形の音声ガイドを考えているんですか?

遠山 現状のものとは違う、とてもシンプルな機能を持たせた音声ガイドを作りたいって思ってます。例えばいま考えているものは、学芸員さんなどが書いた、すでにある作品解説のテキストを自動音声が読み上げてくれるもの。すでにシステムは国内で確立されていて、かなり流暢に読み上げてくれるんです。人の声を選べたり、読み上げるスピードも変更できたり、聞く人が聞きやすいように調整できる。

鈴木 確かにカーナビとかもそういった機能がついてますよね、運転手の好みに合わせた音声。

遠山 そう、そういう感じです。そして我々はあんまり華美な音声ガイドにもしたくなくて、従来のものよりはクールにしたい。基本盛らない。

鈴木 ただ、どうしてもスマホを持っていない人問題が出てきますよね。そういった方には、また別の方法を考えなければいけません。例えば去年、国立新美術館で開催された『カルティエ、時の結晶』の音声ガイドは全員にスマホを貸し出しました。

遠山 あの時も展示作品と画面を照らし合わせて解説を聞きながら、文字が一緒に読めましたよね? あのテキストは芳雄さんが書かれたんですよね。

鈴木 そうです。僕もテキストを書いて、それが手元のスマホでも見られるし、耳で聞くこともできる。それにだいたい自分がどこにいるかわかって、解説作品を自動で提示してくれる。いずれはスマホを貸し出さなくても、自分のスマホで音声ガイドが簡単に聴けるようになると思います。しかも著作権とかをきちんと取れば、家に帰ってからでも見たり聞いたりできるようになるかもしれない。そういうメリットがある音声ガイドも今後どんどん出てくると思いますね。

遠山 そろそろいろんな部分で過渡期が来てると思うんです。もちろん持っていない人のことも考えなければいけませんが、行けなかった人も楽しめる、行った人も楽しめる、そういったコンテンツも必要だと思うんです。

鈴木 そうですよね。美術鑑賞っていうのは、帰りの電車の中とか、熱い気持ちのうちに見直したいとか、もしかしたら予習したいっていう人もいるかもしれない。作品を実見することで気づくこともいっぱいあるけど、例えば見る前に、前に見た作品をもう一度見て予習しておきたいな、とか、先に知っておきたいっていう人は多いと思う。溜めの時間と反芻の時間。これってとても重要なことだと思います。それがスマホで簡単にできるようになるといいですよね。

遠山 そうなんですよ。時間軸があるというだけで、いろんな知識が溜まっていくわけです。それにアートフェアとか行くと、作品が膨大にあるわけじゃないですか。正直一つ一つ詳細は覚えていられません。写真は撮るけど、アーティスト名や作品名、ギャラリー名がわからなくなって、結局気になってるのに買えなかったり、知ることができなかったりする。

鈴木 そういう時に遠山さんが考えているような音声ガイド、テキストガイド機能があれば、作品をどんどん溜めていって、じっくりと帰り道や家に帰ってから作品を見直すことができますよね。

遠山 それにすでにチケット事業にも参入しているんですが、それをもっと拡充していきたいですね。例えば芸術祭とかっていまだに紙チケットですよね。でもそれがスマホ上で行えるとなると、ものすごく楽になってくると思うんです。行く場所それぞれにQRコードがあって、それを読み込むことで入場が確認できる。

鈴木 LINE PayとかPayPayみたいな感じですね。これも紙じゃないとダメな方がまだいると思いますが、それはそれで用意すれば問題ないでしょうし。それに先ほど遠山さんがいってるように、過渡期にあるんだと思います。でもこういったチケッティングもアプリ上で行えるとなると、ArtStickerは作品を支援してスティッカーを送ることで、アートコレクターのようにコレクションを増やして、自分だけのアーカイブを作ることができるアプリだけれども、それが芸術祭なんかと連動して、音声ガイドやチケット機能なんかの意味を持ち始めるとなると、それがスタンプラリーのようになって、自分がどこに行ったのか、何を見たのか、情報が溜まっていって、自分だけの記録になる。なんか御朱印帳みたいでもある。それに自分の地図を作ってるみたい。

遠山 そう! ArtStickerが一人ひとりの御朱印帳みたいになればいいなって思ってるんです。そうすることで、鑑賞者とアーティスト、作品、場所の関係性も溜まっていって、地図が埋まっていって、大きな記録になっていくと思います。我々はやるならば、いまある世界のインターネット版っていうことではなくて、やっぱり新しい技術やそういうものを使うからこそ可能な次の世界、みたいなことにトライしたいわけです。これからも新しいことをどんどんやっていって、もっとアートが身近になればいいと思いますね。まだまだこれからもいろんなことを考えていますので、この対談でも紹介していければと思います。


構成・文:糸瀬ふみ


プロフィール

遠山正道 

1962年東京都生まれ。株式会社スマイルズ代表取締役社長。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」などを展開。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


鈴木芳雄 

編集者/美術ジャーナリスト。雑誌ブルータス元・副編集長。明治学院大学非常勤講師。愛知県立芸術大学非常勤講師。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。『ブルータス』『婦人画報』ほかの雑誌やいくつかのウェブマガジンに寄稿。

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