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『まだ結婚できない男』三角関係に終止符が 阿部寛が示した人生100年時代の多様な生き方

リアルサウンド

19/12/11(水) 6:00

 13年前に人気を博したドラマ『結婚できない男』の続編『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)。前作から月日は流れ、時代は令和を迎えたが主人公の“結婚できない男”桑野信介(阿部寛)は現在53歳、相変わらず独身を貫いている。

参考:『まだ結婚できない男』前作とは異なるヒロイン像 桑野と向き合う吉田羊は、女性の強い味方?

 第10話「幸せになりたくて悪いか!!」では、人生100年時代におけるパートナーシップの在り方について最終回らしく示唆されていた。桑野(阿部寛)が家の設計を担当している木村(伊藤正之)と、離婚しようと思っている妻が、建築差し止めの訴訟を起こす。しかも妻の弁護人はまどか(吉田羊)で、夫側の証人として出廷することになった桑野は、法廷でまどかと対峙することになる。

 有希江(稲森いずみ)や早紀(深川麻衣)が見守る中、開かれた裁判では一同が心配した通り、桑野とまどかの論争がヒートアップ。桑野の設計図について「男性の一人暮らしにしては寝室のスペースが広すぎる」などの指摘を入れるまどか。対して桑野は「人は必ず誰かと暮らしたいはずだという固定概念が、女と一緒に住むのではないかという邪推を生んだ」と反撃する。そしてすかさずまどかが「誰かと暮らしたい、一人が寂しいという感情は人として自然な感情でしょう」と重ねる。

 また桑野が旦那の趣味である鉄道の模型を室内で走らせることができるような設計にしたという点に関しても、旦那に鉄道の趣味があったことを妻は知らなかったとまどかが疑問を口にする。

 桑野は妻に気を遣って旦那は自分の趣味について言えなかったのだと代弁。そこでまどかが思わず「旦那さんは模型の趣味を我慢して寂しかったでしょう。でも奥さんはもっと寂しかったんです。一人でも寂しいのに二人でいても寂しいなんてそんな……」と言葉を詰まらせる。さらに「お互いがほんの少しでも心を開いてお互いの立場に立てば……」と感極まる。「裁判に私情を持ち込んでいる」とする桑野に、裁判官からも証人からの異議申し立ては出来ないと半ば呆れ気味にその場を制され、なだめられる始末。

 その様子を見ていた有希江は、今まで微かに抱いていた疑惑が確信に変わる。まどかに「桑野さんとあんなにちゃんと喧嘩できるのはあなたしかいない。喧嘩するってことはちゃんと向き合ってるってことだから」と伝え、三角関係から自ら抜ける。

 また桑野とまどかの衝突を目の当たりにして心を動かされたのは有希江だけではなかった。木村とその妻も裁判をやめ、離婚も考え直すことにしたと言う。二人の喧嘩を見て、自分たちは互いに言いたいことをぶつけ合っていなかったと気づいたようだ。

 さらにこの夫婦の離婚を考え直させた要因として、桑野が書き換えた設計図の効力によるところも大きい。元々シングルライフを思いっきり満喫できるようにというコンセプトで作っていた家だったが、二人で語り合えるようなリビングルームを設け、「それぞれが一人の世界を確保しつつ、お互いの存在をいつも忘れず感じられるような設計」、「二人がやり直す気になっても良いような家に変えてみた」と言う。

 そもそも桑野が図面を書き換えようと思ったきっかけはまどかの法廷での発言にあり、そんな動機をくれたまどかから木村夫婦に新たな図面案を見せて欲しいと想いを託す。新しい設計図を見た木村夫婦は「互いにやり直したい気持ちがあるものの言い出せなかった。そんな二人でも図面を見た瞬間、この家に住めば向き合い直せるとはっきりと思った」そうだ。

 終盤、長野で暮らす母親の体調が芳しくなく、地元に帰って弁護士事務所を継ごうかと迷うまどかが「こんな時誰かが“帰るな”って言ってくれたら良いのに、そんな感じです」と言う、あの表情はリアリティが満載でお見事だった。東京で一人奮闘する女性が、ほんの一瞬だけ見せた弱さ、誰かに甘えたり丸投げにしたり出来ない、受けて不在の手放し切れないやるせなさがそこにはあった。それに呼応する桑野の絶妙な間合い。「大人同士」ゆえの距離の縮まらなさや、物分かりの良さや慎重さゆえの遅々として状況が進展せぬ様子、空気感がそのまま画面越しに伝わってきた。

 最後の見せ場、桑野がまどかに長野に帰らないで欲しいと伝えるシーンはあの桑野としては上出来だったのではないだろうか。彼らしく時事問題を絡めたり、苦労対効果や効率性を重視した賢明な判断として「東京在留」を勧めるというスタンスに終始し論破するのかと思いきや、最終的には「そういう訳で長野に帰るのはやめた方がいいってことです。あなたがいなくなるとつまんないし、寂しくなります」ときちんと自身の感情を素直に伝えられていた。

 人生100年時代、結婚や夫婦の在り方などの固定概念に縛られるのは真っ平御免だとしながら、その結婚や夫婦関係を敬遠することもまたある面ステレオタイプに捕らわれてしまっていると言える。これからの時代、今回の桑野の設計図のようにそれぞれの夫婦、ケースごとにいくらでもその在り方を再設計しデザインしていけば良いのだと大切なことを不器用な大人たちが身を以て教えてくれた気がする。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。

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