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エンタメ通が伝授!第41回ぴあフィルムフェスティバル特集

吉田伊知郎ー凄すぎる人たち〈カッコいい女編〉

全6回

第2回

19/8/20(火)

PFFディレクターの荒木啓子氏

連載第2回目は、既存の概念を覆す、思わず「凄い!」という言葉が出てきてしまう映画を集めた招待作品部門の「凄すぎる人たち〈カッコいい女編〉」。今回は、毎年 PFFに足繁く通う映画ライター吉田伊知郎さんがPFFディレクターの荒木啓子氏を直撃! どこがどう凄いのか? その真意に迫ります。

「自分で範囲を決めず何でも観て欲しい!」
映画祭は突発的な映画との出会いの場

── こうした特集が決定するまでには、どれくらいの時間がかかるのですか。

荒木 どういうプログラムにするかは常に考えていますが、今回は発表の直前までかかりスタッフを困らせました。もちろん長く構想しじっくり準備するときもあります。PFFは、「PFFアワードの応募者」を念頭に、いつも招待作品を決定しているので、その年、その年、の応募作で開けてくるプログラムの引き出しを変えてる感じです。

── 「凄すぎる人たち」という拡大解釈ができる特集だと、普通なら同時上映されにくい作品も並べることが出来ますね。今回のプログラムなら『東京裁判』と『変態村』とか。

荒木 はい。この特集だと何でも入れられワクワクします。あ、タイトルに問題があるだけで、『変態村』は真面目な作品ですから(笑)。

── 目当ての作品以外との突発的な出会いを誘発させたいという思いが?

荒木 映画って何でも観てほしいんですよ。自分で観る範囲を決めている人たちは、とってももったいないことをしているなと思っているので、何でも観てもらうためにはどうすればいいかは常に考えています。それで今回、七転八倒して、「凄すぎる人たち」にしたんです。

── 「女編」「男編」と区分けすることが逆行的に思いましたが、「カッコいい男」や「諦めない女」ではないところに、あえて今このタイトルを付けているのだなと思いました。

荒木 既存の概念を崩すというのは映画祭の使命のひとつですね。確かに男とか女とか使うことが古いんですけどね。だからカタログではそれは使わないようにしようとか考えているのですが、意図として汲んでもらえたなら良かったです。

映画の中の言葉がとにかく素晴らしい
『おみおくり 〜Sending Off〜』

ホスピスケアに取り組む女性医師チームの情熱を描く『おみおくり〜Sending 0ff〜』
(c)Ian Thomas Ash

── まず「カッコいい女編」から、『おみおくり 〜Sending Off〜』について。

荒木 これはプレミア上映になります。医師と看護師さん、在宅ケアをされる方、葬儀屋さんがチームを組んで、どうすれば本人も家族も満足して死んでいけるか、自宅で死にたいという人の希望を叶えるためのホスピスケアを描いたドキュメンタリーです。

── 監督のイアン・トーマス・アッシュはどんな人ですか。

荒木 ちょっと不思議な存在の方で、ドキュメンタリーの映画監督というよりは、出会った人の人生の記録を使命のように続けている感じにみえます。お父様が聖職者なので、そういうバックグランドも関係するかもしれないですね。心動かされたことに必ず向き合う、という方ですね。

── この作品のどこに惹かれたんですか。

荒木 人間は絶対に死ぬので、どうやって終わるかは永遠のテーマだと思いますが、とにかく映画の中の言葉が素晴らしいんですよ。先生にしろ、亡くなっていく方にしろ、ちゃんと考えて言葉にしているんです。考えて言葉をつかって自分の人生を語るっていうことが、どんなに素晴らしいことかっていうことを忘れてたなと反省し上映を決めました。

アラブ諸国では何が起こっているのか?
その伝え方が素晴らしい!『昔々ベイルートで』

レバノンを代表する女性作家・ジョスリーン・サアブによるフィクション『昔々ベイルートで』 
(c)Nessim Ricardou-Saab.

── 2本目は『昔々ベイルートで』。

荒木 監督のジョスリーン・サアブさんが今年亡くなったこともあって、追悼という意味でも考えていたんですけれども、この作品は彼女にとって念願の作品だったのではないかと。2人の女の子がベイルートの街を歩き回って内戦で破壊される前の夢のように美しかった頃の記憶をたどるんです。これはベイルートにシネマテークが出来た記念映画で、収蔵されたベイルートが舞台のヨーロッパ映画を旅していくっていう発想がすごいと思って。世界中で何が起きているのかを伝えるのは映画祭の義務でもあると思っていますが、アラブ諸国の人たちの悔しさみたいなものは、いろんな方法で伝えなくちゃいけないと思うんですけど、この作品の伝え方は素晴らしいと思いました。

── 個人的には足立正生監督と若松孝二監督が、ベイルートで重信房子らと共にアラブゲリラを記録した『赤軍-P.F.L.P 世界戦争宣言』の視点でしか知らない部分が多いので、この作品はたいへん楽しみです。

荒木 そういえばサアブさんはこの後、日本に深く興味を持ち始めて、中でも若松孝二という人の存在がすごく面白かったみたいで、若松さんの映画を撮ろうとしていたんですよ。先日、アテネ・フランセで四方田犬彦さんがお話されていたのですが、若松さんをアニメーションにして動かしながら、重信房子の娘の重信メイさんを語り手にする構想があったみたいです。それは観たかったですよね。

マフィアを命懸けで撮り続ける女性写真家が凄い!
『シューティング・マフィア』

報道写真家のレティツィア・バッタリアを描いた『シューティング・マフィア』 
(c) Shobha Courtesy of Lunar Pictures.

── 3本目の『シューティング・マフィア』は、シチリアのマフィア抗争で殺された人々を撮り続けた報道写真家のレティツィア・バッタリアを描いたドキュメンタリーです。

荒木 これはベルリン映画祭で観たんですが、レティシアが来たんですよ。もう80歳ぐらいになっているはずですが、いやいや、とにかく、劇中の彼女も、彼女の写真も、現実の彼女も、すごい。

── 『ゴッドファーザー』の世界そのままですか?

荒木 ところが、マフィアが権力をふるってやっていたことなんて『ゴッドファーザー』とは全然違うんです。監督のキム・ロンジノットも、マフィアといえばゴッドファーザーという自分の刷り込みを知ったと言ってました。マフィアに殺された市長の話とか、当時のニュース映像がどんどん挟まれるんですが、今は昔のフッテージもデジタルレストアされて今撮ったかのような美しい映像になっているので、過去をリアルに感じることが出来るんです。

── 映像修復によって鮮明になるといえば、今回上映される『東京裁判』4Kデジタル・リマスター版もそうですね。

荒木 昔のフッテージを使って映画を作るには、かつては映像を使用するだけでも大変だったんですが、今はそうしたデジタルレストアされた映像を借りやすい状況になったことで、映画作りも変わってきたと思います。

── 『おみおくり』も『シューティング・マフィア』も形は違えども死に向き合った作品ですね。

荒木 〈人間とは何か〉というのが映画祭の通底したテーマですが、『シューティング・マフィア』のドンの最期を見ていると、何かに魅入られてしまうと人間が人間でなくなっちゃうっていう衝撃がありました。この作品はそこが面白いし、とにかくこのレティシア・バッタリア婆さんがすごいです(笑)。

── それでは次回は、「諦めない男編」についてうかがいたいと思います。

招待作品部門

凄すぎる人たち〈カッコいい女編〉

上映スケジュール
9/7(土)14:30~ 『おみおくり〜Sending 0ff〜』
9/14(土)12:00~/9/18(水)14:00~ 『昔々ベイルートで』
9/15(日)11:00~ /9/18(水)16:30~『シューティング・マフィア』

『ライオンは今夜死ぬ』(c)2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

追悼・吉武美和子プロデューサー
~フランスと日本を繋ぎ続けた人~

「第41回ぴあフィルムフェスティバル」では、今年6月14日に急逝したパリ在住のプロデューサー吉武美和子さんを改めて紹介するプログラムを実施します。各回吉武さんとゆかりのあるゲストをお招きして、映画製作秘話などを語って頂きます。
https://pff.jp/41st/lineup/yoshitake-michiko.html

上映スケジュール
9/8(日)13:30~ 『TOKYO!』ゲスト:堀越謙三プロデューサー
9/14(土)17:00~ 『ダゲレオタイプの女』ゲスト:黒沢清監督
9/15(日)17:30~ 『ライオンは今夜死ぬ』ゲスト:諏訪敦彦監督

詳細はチケットぴあをチェック!

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