Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

樋口尚文 銀幕の個性派たち

志賀勝、悪相俳優に墓はない(後篇)

毎月連載

第49回

20/5/14(木)

画像は遺作となった『よしもと新喜劇映画 商店街戦争~SUCHICO~』 写真提供:ウォークオン

1960年に志賀勝が東映太秦に入って、1975年の「ピラニア軍団」で注目されるまでの期間は、日本映画が地滑り的な興行の不振に見まわれた時期で、志賀が入社した頃までは人気レジャー産業の花形だった映画会社は、わずか十余年のうちに会社の土台さえ揺らいで、大映のようにまさかの倒産となる会社さえ出て来た。だが、そんななかで気を吐いていたのが、ロマンポルノ路線に転換した日活と、従来の任侠路線から実録やくざ路線に舵をきった東映だった。

60年代までは任侠路線の高倉健や鶴田浩二のような二枚目スタアがヒーローとなって作品を牽引してきたが、実録やくざ映画にあっては主人公のまわりにわんさと個性的な脇役がたむろする群像劇的なシチュエーションが多くなった。これはずっと脇役、端役としてせっせと撮影所に奉公してきた無名俳優たちにとって千載一遇のチャンスであった。興行が不振を極め、お客もかつてのお定まりのスタア映画に飽きてしまったという映画会社の逆境が、彼ら個性派に活躍の場を与えたのだ。

とりわけ悪相凶相で鳴らす志賀勝は、「ピラニア軍団」以前から『仁義なき戦い』『仁義なき戦い 広島死闘篇』『仁義なき戦い 頂上作戦』や『山口組外伝 九州進攻作戦』などで目立っていた。60年代の志賀は、映画ではあの傑作『沓掛時次郎 遊侠一匹』から『博奕打ち』シリーズ、『極道』シリーズなど、そしてテレビ映画では『素浪人 花山大吉』『水戸黄門』『大岡越前』など、さまざまな作品に顔を出してきたが、あのコワモテは実録路線で思いきり弾けていた。冗談のようにコワモテなので、現代劇よりもあらかじめカリカチュアされたテレビ映画の人気時代劇の悪役のほうがおさまりがいい気がしたが、そんな風貌がアクのあるワルたちを戯画化する『仁義なき戦い』シリーズや『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』などの“特殊現代劇”には活かされた。

1976年公開の中島貞夫監督『狂った野獣』は、バスジャックの車内を舞台にしたカーアクションに人間諷刺を織り込んだ低予算即製活劇の傑作だが、渡瀬恒彦主演で志賀勝、川谷拓三、室田日出男ら「ピラニア軍団」メンバーも総出演している(志賀が演じた女形のチンドン屋は見るからにおかしかった)。大詰めで渡瀬扮する主人公が京都府警に追い詰められながら運転するバスを横転させるというくだりがある。熱く撮影にのめりこむ渡瀬はこのバス横転を吹き替えなしの自前でやってみせたいと申し出たが、いざそれをやる段になると乗客に扮した志賀も命綱をつけて付き合ったという。というのも、渡瀬は前年に「ピラニア軍団」の発起人となって自分たち脇役を賑々しく売り出してくれた大恩人なのだった。

しかし役者という稼業は、のりやすい性分でもある。ある時は、こんなことがあって叱られた。1975年の『好色元禄マル秘物語』の際、主演に撮影所専属ではないひし美ゆり子が招かれた。同じくキャストの一人であった志賀勝は、助演だった東映専属の橘麻紀に肩入れするあまり、彼女を主演にすべきではないかと関本郁夫監督に提案に行った。というのは、「ピラニア軍団」は基本男性ばかりだが、きっぷのいい橘は軍団にいたくかわいがられて「女ピラニア」または「巫女」として準構成員扱いだったのだ。この申し出を、関本監督は「ピラニア軍団と持ち上げられて勘違いするな!決めるのは監督だ!」と一喝して、志賀は分不相応なことをしてしまったとしおしおと反省したという。これは関本監督から直接伺った逸話だが、全体として非常に微笑ましい顛末である。そしてこの時、こてんぱんに叱られた志賀は、同じく関本郁夫監督が77年に撮った『大奥浮世風呂』では『愛のコリーダ』の松田暎子とともに堂々の主演に選ばれて、荒唐無稽なコミカルさを発揮してみせた。

「ピラニア軍団」を卒業した志賀は、1980年には日本テレビの『大激闘マッドポリス’80』および続篇の『特命刑事』では、渡瀬恒彦、梅宮辰夫という2大スタアと並んで武闘派の元マル暴刑事役(といってもマル暴にしか見えない!)でレギュラーをつとめ、すっかりお茶の間にも親しまれる存在となった。私は同時代に志賀の大出世ぶりに喝采を贈りつつも、やはりこれほどのコワモテがお茶の間の人気者として馴致されるのはもったいないなという気持ちはあった。たとえば、今どきの若い観客が『悪魔のいけにえ』のチェーンソー男の日本版といって戦慄称揚する、77年の牧口雄二監督『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』の人をあやめまくる狂気の寺男や、79年の澤田幸弘監督『俺たちに墓はない』の資金源強奪を狙う怪しい男など、本当に素晴らしかったのだ。天下一の悪相に合掌。


プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』。新作『葬式の名人』がDVD・配信リリース。

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子

アプリで読む