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立川直樹のエンタテインメント探偵

圧巻のパフォーマンスだった『DRUM TAO×SUGIZO』、バート・レイノルズ主演の映画『ラスト・ムービースター』

毎月連載

第59回

「‌DRUM‌ ‌TAO‌ ‌×‌ ‌SUGIZO‌」‌‌Special‌ ‌Collaboration/Photo by Keiko Tanabe

テレビも新聞も毎日、新型コロナウイルスについては時間やスペースをさいている。人と会っても絶対にコロナについての話が出てくるし、9月7日から3日間、来年4月に京都の美術館「えき」KYOTOで開催する展覧会のために撮影に出かけた京都では、いつもは人であふれている清水寺にも竹林の小径にも数えるほどしか人がいなかった。

エンタテインメントの現場でもソーシャル・ディスタンスということで入場者の数は制限されているし、またコロナが怖くて行きたくても行かない人もかなりいるという。いつ終息するのかがわからないところが、地震や水害などの災害と違って“がんばろう”という気持で解決できないのもヘヴィだが、8月29日、30日の2日間、大分県天空の展望公園・野外劇場「TAOの丘」でグランドオープン記念事業として行われた『DRUM TAO×SUGIZO』スペシャル・コラボレーションの客席で、言葉では形容できないくらいの素晴しい景色と、音楽のジャンルを完全に超越した圧巻のパフォーマンスが見事にひとつになっているのを観て、本当にもったいない、いつ正常な状態に戻れるのだろうかと心から思った。

「DRUM TAO × SUGIZO」Special Collaboration/(C)DRUM TAO

そして、京都で40年ほど前のデヴィッド・ボウイの幻影を追いかけながら撮影をしていた間に鋤田正義さんと話していた時、鋤田さんが「用事がない限り外に出ないので、家でテレビやDVDの映画を観ているけど、前に観た時に気がつかなかったことに気がついたり、新しい発見があったりしておもしろくてたまらない」と、僕がこのところ書いたり言ったりしているのと同じようなことを言っていたのと、2018年9月に他界したバート・レイノルズの主演となったコメディドラマ『ラスト・ムービースター』が重なり合ってくる。

『ラスト・ムービースター』ブロードウェイより発売中
発売日:2020年3月6日
価格:3,800円+税
発売・販売元:ブロードウェイ
(C) 2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC

バート・レイノルズ自身を彷彿とさせる映画スター、ヴィック・エドワーズの晩年を、自虐的なパロディ描写とペーソスを織り交ぜて綴った映画だが、1年ほど前の公開時に見逃していたのが残念だったと心から思える中々の1本だった。

映画の中でヴィック・エドワーズがつぶやく「時間は川のように流れていく。どんなに抗っても時は流れていく」という言葉と、「パチーノ、デ・ニーロ、ブランド、彼等はうまくやった」というクスッとさせる言い回し。全体のディテールもよくできていて、こういう小ぶりな映画はやっぱりきちんとチェックしておくべきだったと改めて思ったが、この2週間はレコードでも大きな収穫があった。

『ラスト・ムービースター』(C) 2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC

チャールス・ミンガス『The Clown / 道化師』、ルイ・アームストロング『プレイズ・W.C.ハンディ』などの名盤が懐しく胸にしみる

その最たるものが、『植草甚一の散歩誌』(晶文社刊)を久しぶりに読み返していて、そうだ、ミンガスがいたんだ、と思い出し、植草さんが絶賛しているアルバム『The Clown / 道化師』に収録されている『ハイチ人の戦闘の歌』の強烈なグルーヴ感。その濃密さはもう“ジャズ”という枠も時間も完全に乗り越えていたが、ナット・ヘントフのライナーノーツも読み応えがあって、音楽がしっかり文化として存在し、それを指示する人達がきちんといた時代を懐しく思い出したりもしたのである。

“残暑”というには厳し過ぎる暑さの中で聴いて、これは暑さも楽しませてくれると思わせてくれたヨモ・トロの『グラシアス』、ウィリー・コロンの『アメリカン・カラー』というサルサものと、ライ・クーダーとマヌエル・ガルバン共演の『マンボ・シヌエンド』というラテン系の名盤。そのトロッとしたノリと、フワッと漂うロマンティシズムにやられ、サム・クックの一連のアルバムを聴いてみたら、これがまた素晴しく、京都滞在中に行った贔屓のバー“GEAR”でかけてくれたジェームズ・ブラウンがオーケストラをバックにスタンダードを歌っている稀少盤へとつながっていった。

どの部屋にもアナログ盤が聴けるレコード・プレイヤーが置いてあるエースホテルの部屋で聴いたルイ・アームストロング『プレイズ・W.C.ハンディ』の素晴しさも忘れ難い。

ルイ・アームストロング『プレイズ・W.C.ハンディ』(発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ)

僕が“史上最強の素人”と読んでいる京都の友人Sが貸してくれたカウボーイ・ジャンキーズのライヴDVDもまったく知らなかったものだったし、ニルソンの名盤も胸にしみた。

こんなことが日々続くから、やっぱり“探偵稼業”はやめられない。今はカサンドラ・ウィルソンの濃い歌が流れている。

作品紹介

『ラスト・ムービースター』(2017年/米)

2019年9月6日公開
配給:ブロードウェイ
監督:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ/クラーク・デューク/エラー・コルトレーン/チェヴィー・チェイス

天空の展望公園 野外劇場 TAOの丘 グランドオープン記念事業「DRUM TAO × SUGIZO」 Special Collaboration

日程:2020年8月29日、30日
開催地:大分県天空の展望公園 野外劇場「TAOの丘」
※2020年9月4日に野外劇場「TAOの丘」がオープン。金・土・日・月曜と祝日はDRUM TAO LIVEを開催。 詳細はこちら

チャールス・ミンガス『The Clown / 道化師』

発売日:2012年4月25日
価格:952円+税
発売元:ワーナーミュージック・ジャパン

ルイ・アームストロング『プレイズ・W.C.ハンディ』

発売日:2013年9月11日
価格:1,800円+税
発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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