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『モンスターハンター』は『ソニック』『名探偵ピカチュウ』に続くか ゲーム映画化の歴史を辿る

リアルサウンド

20/11/12(木) 10:00

 Entertainment Software AssociationとNPDグループによると、2018年のビデオゲームの売り上げが438億ドル(4兆5114億円=1ドル=103円換算 以下、同様)に達し、世界の映画の興行収入は417億ドル(4兆2951億円)を超えたという。当然、その成功は映画業界にも派生し、ビデオゲームの実写作品化が、ここ数年で急激に増加した。

 だが、その一方でビデオゲームの実写化は、キャラクターや設定の相違によりビデオゲームファンを長年落胆させてきた事実もある。興行収入自体は、ビデオゲームからのファンベースがあるためそこそこだが、例えば映画批評家サイトRotten Tamotoesでの批評家の実写化作品への評価はことごとく低く(近年までその多くの作品が50%以下だった)、ビデオゲームの実写化作品は常に駄作というレッテルが貼られてきたとも言える。

 ビデオゲームの実写化作品として印象に残っているのは、映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』だ。4800万ドル(49億4400万円)の製作費をかけたものの、世界の興行収入はわずか2000万ドル(20億6000万円)で、Rotten Tomatoesでは24%という評価で、散々な結果をもたらした。ほかにも有名タイトルである『ストリート・ファイター』『モータル・コンバット』の実写もそれぞれ批評家からは厳しい評価が下された。

 今でこそ、ゲーム人口は増え、その頂点を決めるeSportsの世界大会も開催されるようになったものの、当時はビデオゲームを映画化するうえで、まずゲームをプレイしたことのない観客に、その魅力をいかに伝えるかが問題だったと思われる。そこで重要なのは、オリジナルのビデオゲームを手がけたクリエイターを参加させることだ。ところが、前述の『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』を例にとると、任天堂のスーパーマリオの生みの親・宮本茂は、同作のコンセプトを利用したということで、アディショナル・クルーという形でクレジットされているものの、スーパーバイザーやコンサルタントとしては参加していなかった。宮本自身も後のIGNとの取材で、「私はもともと任天堂IPの映像展開は否定的だった」と語っており、現在とは映像展開に関して見解が異なっていることを明かしていた。

 映画『ストリート・ファイター』にもアーケイド・ゲーム『ストリート・ファイターII』のデザイナーとして関わっていた西谷亮や安田朗はクレジットされていなかった。当時の日米合作の多くは、日本の著作権保持者がIPのライセンス契約をするだけで、制作には入り込むことができず、製作費もあまり捻出されなかった。日本側が、ライセンス料だけをもらうという契約が多く、真の意味で共同制作と言えるものではなかったのかもしれない。

 これまでハリウッドは基本的に、リスクをできる限り回避して、興行収入を稼ぐことを追求し、有名なIP(知的財産)に必死に固執してきた過去があった。ビデオゲームもそんなIPの一つ。その中でも有名な例が『バイオハザード』シリーズだ。シリーズ化された本作が新たに映画化される度に、どのように描かれていくのか期待を膨らませてあわせて作品を鑑賞するプレイヤーも増えた。批評家からの評価は低かったものの、ゲームの売上と同様に、映画の興行収入でも成功を収め、相乗効果を産むことができた。

 同様に、高いパフォーマンスを出したのがビデオゲーム『ヒットマン』の映画化だった。映画『スクリーム2』のティモシー・オリファントが演じた、完全無欠の暗殺者に仕立て上げられた主人公・エージェント47役は、企画当初は、『ワイルド・スピード』でお馴染みのヴィン・ディーゼルを主演に雇う予定だったが、ディーゼルが降板という事態に。正直、オリファントは脇を固める演技派の俳優で、主演らしい俳優ではなかった。しかし、オリファントの起用により、結果的に出演料が抑えられ、その分派手なアクションシーンに製作費を注ぎ込み、1億ドル以上の興行を収めることができた。その成功の証として、2015年には映画『ヒットマン:エージェント47』がリブート作品も手がけられている。

 もちろん、世界的な知名度のある俳優を雇うことも重要だ。なぜなら多くのビデオゲームは、カリスマ的な主人公に支えられているからだ。『アンチャーテッド』で言えばネイサン・ドレイクがいて、『The Last of Us』では、父親ジョエルと娘エリーの世紀末での親子関係が存在し、『マス・エフェクト』だったら、宇宙連合軍のジョン・シェパード少佐がいる。当然、ビデオゲームのクリエイターも、何年もかけてこうしたキャラクターを構想し、そのキャラクターを主人公として長時間プレイするプレイヤーも思い入れや愛着を抱く。そのため、その主人公が映画化される際に、どんな俳優がキャスティングされるのかは大きな注目を集める。製作陣としては、キャスティングにおいても興行面での戦略を図っていかなければいけないのだ。

 上記に挙げたように、ビデオゲームを映画化する上では、様々なハードルを乗り越えなければいけない。では批評家からの評価も高く、興行的にも成功を収めたビデオゲームの実写化作品は、どのようなアプローチで出来上がったのだろうか。

 記憶に新しいのは、映画『ガリバー旅行記』のロブ・レターマン監督が手がけた『名探偵ピカチュウ』だ。レターマン監督は生まれ育ったハワイで日本のポップカルチャーにも親しんでいたために、制作段階から株式会社ポケモンやポケモン関係者、ゲーム用3Dモデルの製作ディレクターに会い、ポケモンをどう解釈し、どういう形で描くか事前に綿密に相談していたという。さらにピカチュウを探偵というフィルム・ノワール的な世界観を描くことで子供のファンだけでなく、大人も楽しめる作品に仕上げることを当初から考えていたそうだ。事実、作品ではアニメ調のキャラクターを上手くCGでリアルタッチで捉えられている。それもあってか、興行では4億3300万ドル(445億9900万円)を記録した。もちろん、歴代ゲームシリーズ総収益ベストでポケモンが1位であることも要因としてあるだろう。

 『ソニック・ザ・ムービー』でメガホンを取ったジェフ・ファウラー監督は、本作が初の長編監督だが、特殊視覚効果の分野で17年のキャリアを持つ。ソニックを実写化するうえでは、まさに最適な人物だった。そんな彼は、ソニック・キャラクター・スーパーバイザーの飯塚隆に会い、さまざまなシチュエーションでのソニックの反応や、ソニックのキャラクターらしさに関してアドバイスを受けたことを明かしている。つまり、往年のソニックファンも満足させるものになっているのだ。デザインも、実景と俳優陣の演技が違和感なく共存するキャラクター造形が見事で、ストーリーも肩の凝らないファミリームービーとして楽しめる。さらにドクター・ロボトニック役のジム・キャリーの怪演も魅力の一つになっていた。

 今後成功が期待される作品としては、『モンスターハンター』が挙げられる。本作は、映画『バイオハザード』シリーズで監督を務めてきたポール・W・S・アンダーソン監督が、ゲーム版『モンスターハンター』シリーズのディレクターの藤岡要やカプコンと相談しながら進めていったもの。映画のストーリーは、『モンスターハンター:ワールド』の直後から『モンスターハンターワールド:アイスボーン』までの間に設定。アンダーソン監督は、小道具や衣装部門からVFXチームまで、映画『モンスターハンター』チーム全体に、映画のすべてがひとつひとつできる限りゲームに近くなるように指示したという。ビジュアルデザインからサウンドデザインまで、モンスターの最終バージョンは藤岡の見識を取り入れ「かなり細部まで忠実に」なったと明かしている。ビデオゲームの実写化にありがちな、大きなスタジオの制作に止まらず、実際にロケーション撮影を行っていることも重要だ。製作陣が行った南アフリカの撮影ロケーションは、変化に富んだ環境が豊富にあり、アンダーソン監督は「岩場やジャングルのように植物が繁茂した場所、そして地下に出来た不気味な洞窟が映画に登場する」と語っている。

 振り返ってみるとビデオゲームの実写化の成功には、映像の進歩も要因としてありそうだ。映画『ソニック・ザ・ムービー』などを手がけたビジュアル・エフェクトの会社Industrial Pixel Visual Effects、『名探偵ピカチュウ』のMoving Picture Company、『ランペイジ 巨獣大乱闘』のWETA Digital、『トゥームレイダー ファーストミッション』のSanline VFX、『モンスターハンター』のMr. X、映画『アンチャーテッド』のDouble Negativeなどのビジュアル・エフェクト会社の台頭がゲーム実写化にもたらしている影響は大きいだろう。

 また近年では、こういったビデオゲームの実写映画化作品は、IMAX 3D、MX4D、4DXなど異なった鑑賞形態で鑑賞できるようになり、ビデオゲームをプレイしているような体感を味わうことができる。技術の進歩により、今後もビデオゲーム実写化、そしてそれによる優秀な作品は増えそうだ。

参考

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_films_based_on_video_games
https://www.guidingtech.com/62684/top-video-games-turned-into-movies/
https://screenrant.com/why-video-game-movies-adaptations-fail/
https://editorial.rottentomatoes.com/article/10-awesome-video-games-that-were-made-into-terrible-movies/
https://www.gamersdecide.com/pc-game-news/21-video-games-that-they-made-into-movies
https://www.cinemablend.com/new/5-Big-Reasons-So-Many-Video-Game-Movies-Have-Failed-124247.html
https://jp.ign.com/nintendo/41425/news/

■細木信宏/Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルムスクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支局の番組「ニュースモーニングサテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして働き13年目になる。

■公開情報
『モンスターハンター』
2021年3月26日(金)全国公開
監督・脚本:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、トニー・ジャー、ティップ・“T.I.”・ハリス、ミーガン・グッド、ディエゴ・ボネータ、山崎紘菜、ロン・パールマン
原作:『モンスターハンター』(カプコン)
製作:コンスタンティン・フィルム、テンセント・ピクチャーズ、東宝
配給:東宝=東和ピクチャーズ共同配給
(c)CONSTANTIN FILM Produktion Services GmbH
公式サイト:monsterhunter-movie.jp

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