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【re:START】キーパーソンInterview

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×対馬芳昭(origami PRODUCTIONS) 【後編】

特別連載

7-3

20/7/5(日)

4月7日の緊急事態宣言の発令の前に、あるステートメントが多くの音楽関係者に勇気を与えた。origami PRODUCTIONSによる無償楽曲提供「origami Home Session」そして同代表の対馬芳昭氏が設立した基金「White Teeth Donation」だ。そこに素早く反応したのが、Gotchだった。アーティストとして、レーベル/マネージメント代表として、それぞれのやり方を貫いて交差した〝音楽への思い〟を語る、スペシャル・セッション。

── Shingo Suzukiさんのトラックを使って作った『Mirai Mirai』について伺います。これは、古川日出男さんの小説『ミライミライ』の中に出てくるリリックのポエトリー・リーディングですね。

Gotch 古川日出男さんの『ミライミライ』という小説が、最後、表現者たちに「ペンを取れ」「マイクを取れ」と呼びかけるようなニュアンスで終わるんですよ。そこに、音楽というものは、歴史や社会に抗う、ある種の変革の力を持っているんだ、とういうようなメッセージが込められていると僕は読んだんです。それは今、このタイミングで響くなと思ったんですよ。Shingo Suzukiのクールなトラックがそう思わせてくれたのも大きいですね。だからこれは言葉を読まないと成立しないだろうと。そう考えると、もしかしたら『Mirai Mirai』の方が、僕の今言いたい強い思いっていうのは込められたかなっていう感じがしています。

対馬 その、トラックに寄り添ってくれている感じがすごく良かったですね。一方で『Stay Inside』の自然体な感じがあって、『Mirai Mirai』がそこと対照的なものになっているのがまたグッときましたね。先にトラックがあって、そこにどう合わせていくかっていうことだったと思うんですけど、見事にトラックの良さと伝えたいメッセージのバランスが保たれていて、こっちはポエトリーリーディングか!っていう最高の驚きがありましたよ(笑)。そう来るんだ!っていう。

── 比較するのもどうかと思うのですが、星野源さんの『うちで踊ろう』に首相が乗っかってしまったあの動画が、どうしてもチラつくんです。そういうことじゃないし……っていう拒絶反応とともに、この対談の最初にも出ましたが、音楽の理解のされ方というか扱われ方というか、そういうものを突きつけられた感がどうしてもあって。

Gotch こっち側がもっと意識的に関わらないといけないよなっていうのは、最初に言ったとおりなんですけど、あとはまあ、個が問われていますよね。「あなたはどうなのか」ということだけなんです、ほんとに。首相があの動画で何をやったかもそうですし、あれを見たあなたがどう感じたかもそう。そこは多様性なんです。ただ、「多様性」って言葉を使う時、みんな間違えるのは、「どうしてお前も一緒に反抗しないんだ!」とか、「反対運動に参加しないんだ!」みたいなニュアンスで用いられるけど、そうじゃないですよね、絶対。参加しない、とか、公表しない、とか、そういうのも含めて「多様性」だから。本当はものすごく難しい言葉だと思います。自分とは考え方が違う人をどうやって包摂していくかっていうか、社会の中で認めていくかっていう。その幅の分布図のことは考えないといけないんですけど。だから、僕がどうあるか、対馬さんがどうあるかってことを、俺たちはやっていくしかなくて。その集積が社会だから。自分の姿勢で見せるしかないんじゃないかな。そうなってくしかない。ミュージシャンも自分がまず変わろうよ、みたいな。「あいつが言ってない」「お前が言え」じゃなくて、あなたがどういう発信をするかだよっていう。そう思いましたね、僕は。

── そこで音楽の果たす役割というのは今後変わっていきそうですか?

Gotch どうなんですかね。でもやっぱり、みんながありのままでいいんだっていうのは、ひとつあるというか。自分のフェスの現場で言えば、見えないルールっていうものが常にあるんですよ。それは例えばみんなが「マナー」という形で言葉にして、自分だけではなく他人をも強制するような場合ですね。具体的に言えば、みんなで一緒に右手を振る、みたいなことです。楽しいと感じる反面、どこか窮屈でもある。その感じっていうのは、社会を映している鏡だと思うんですよ。当然、音楽の現場で起こっていることは僕たちに責任があるんですけどね。だから僕は、みんなが同じことをしなくても、それぞれの楽しみ方がそれぞれに成立して、結果何かひとつの反応になるんだったら気持ちのいいことだと思うから、そうなるようにしたいなって思っています。これを「魂の解放運動」って呼んでるんですけど。僕自身もステージの上でよく変な踊りとかして、ダサいとか気持ち悪いとか言われるんですけど、知ったことかと(笑)。僕の魂から出てきた僕の表現がそれなんだから、恥ずかしげもなくやるよ! と。もう、信じてやるってことです。それが価値観を変えていくことに繋がっていくと思うんです。ここ数年だと、ビリー・アイリッシュが出てきたことで何かが変わったじゃないですか。

── 『バッド・ガイ』のMVは衝撃でした。

Gotch うまくは言えないけど、ティーン・エイジャーたちの共有している感覚って塗り変わったと思うんですよ。その、〝フィーリング〟としか言い表せないものに触ることのできるのが音楽なんですよね。だから表現する僕たちが担う役割って、普段の生活とか、生きるっていうことの中に、新しいイメージやエネルギーをどんどん作っていくことなんじゃないかと思います。

対馬 mabanuaなんかとよくGotchさんの話を勝手にしてるんですけど(笑)。チューニングをしている時に、Gotchさんは低音の部分にすごいこだわりを持っていてっていうのを聞いたことがあって、確かに音源を聴いてみてもそうだなと。で、今お話に出たビリー・アイリッシュって、すごいんですよね、低音の出し方が。いびつなビートなんです。この、いびつなものって、日本人ってわりとすぐ排除する方向になっちゃうんですよ。でもそこって、Gotchさんのおっしゃった〝フィーリング〟の部分だと思うんです。歌の前の部分っていうか。そこをキャッチできるかできないかっていうところは、すごく大事だなと思います。僕は日本の教育として、「Aが正しい、Bは正しくない」じゃなくて、もっと感覚的にものをつかめるようになると、より面白い社会ができるような気がしているんですよね。もしかしたらそれは、以前にはあって、今は失われてしまったものかもしれない。そこが歯痒いというか。やっぱり大切なのは、目で見えるものだけではないですからね。見えないものをいかにつかまえられるようになるか。音楽をやっている人間、音楽を売る人間が、そういう部分をもう少し広げていくのが大事なのかなと思っています。

── 教育というのは、対馬さんがこれからやっていきたいこととして、かなり重要な部分としてあるのでしょうか?

対馬 そうですね。やっぱり音楽の聴き方が一方からしか聴けなくなっちゃってるなぁって感じるんですよ。もっといろんな角度から音楽を聴けるようになったほうがいいと思いますし──これは別に音楽だけが正しいと思ってるわけじゃないんですけど──ただ僕は音楽を売ってる人間なので、一番素晴らしいものだと信じてやまない人間としては、やっぱりこれをもっといろんな角度から理解してほしいなと思います。どうしてもヒット曲も、似通ったものになっちゃいますし、正しいと思われてる音楽もやっぱりちょっと似通っちゃう。もっといろんなものが受け入れられるようになってくれるといいなという歯痒さがあるんですよね。例えば、パーカッショニストだって、もっとスターになってもいいかもしれないですよね。ひとつの音楽だけが正しいわけではないっていうか。いろんなものが受け入れられる音楽シーンを作りたいなっていうのが、もともと思ってたことでしたね。

── Gotchさん、最後に、これからの音楽活動について具体的に考えていることなどありますか。

Gotch 今の対馬さんのお話に呼応するんだったら、ちゃんと「音楽シーン」を作りたいと思いますね。だって、芸能界しかないじゃないですか、極論すれば。テレビに出ないミュージシャンは売れてない、とか。でも素晴らしいミュージシャンは、ライブハウスだったり、ホールだったり、フェスだったり、あるいはスタジオだったり、いろんなところで音楽をやっているわけで、そういう素晴らしいミュージシャンが素晴らしいと認められるような、音楽の土台みたいなものをちゃんと作んなきゃいけないなって思います。かたやアメリカの音楽シーンを見てみれば、いろんなコラボがあったり、有名シンガーの後ろでジャズドラマーが叩いていたりだとか、そういうことが普通なわけじゃないですか。だからもっともっと裾野を広げて行かなきゃいけないし、そうすることによって音楽を始める人も増えるだろうし。僕とか対馬さんが爺さんになって、死んでいくまでに、ちゃんと根っこの生えた音楽シーンとやらを作りたいというか、ちゃんと文化として根付かせたいという気持ちが強くあります。僕が作ってる「APPLE VINEGAR」(※編集部註:Gotchが個人で作っている新人を対象にした音楽賞)とかもそういう思いがあって。ある種の同時代性を持って、それぞれの場所を豊かにすることで、最終的に「あの人たちって日本の音楽の根っこみたいなのを作ったよね」って言われて死んでいきたいですよね。

TEXT:谷岡正浩

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Gotch/「Stay Inside feat. Mabanua 」「Mirai Mirai feat. Shingo Suzuki 」

https://ototoy.jp/_/default/p/532261

Gotch

https://gotch.info/

origami PRODUCTIONS

http://ori-gami.com/

対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)

https://note.com/yoshiorigami

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