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竹内涼真の心さんに“ツッコミ”せずにはいられない! 『テセウスの船』から漂う大映ドラマの香り

リアルサウンド

20/3/1(日) 6:00

 『テセウスの船』(TBS系)が予想もつかない方向へ転がりはじめている。それは、何もあらすじだけの話ではない。この作品自体が当初の想像より、ずっと多層的な面白さをはらんだドラマへと展開しつつあるのだ。

参考:『テセウスの船』第6話にして真犯人が発覚 再び平成元年に戻るも、物語は予測不能の展開に突入

 心(竹内涼真)と文吾(鈴木亮平)の父子の絆だったり、由紀(上野樹里)のたくましい支えだったり、毎回グッとくる場面が満載の本作。怪しい人物から死んでいく予測不可のシナリオと、依然見えない黒幕の正体にモヤモヤさせられっぱなしで、感涙ミステリーとして非常に高い強度を誇っている。

 だが、それだけじゃないのが『テセウスの船』の面白いところ。要はこのドラマ、ツッコミだしたら止まらない、妙な隙があるのだ。

●心さんは観る人を名ツッコミかオカンに変える

 最初にその予兆を感じたのは、第1話だった。最愛の妻・由紀を失い、悲しみに暮れる心に、義両親は「由紀はお前のせいで死んだ!」と罵倒する。そんな中、現れる母の和子(榮倉奈々)。その老けメイクを見た瞬間、瞼にたまった涙が瞬時に引っ込んで、こう思った……大げさすぎない?

 あまりに違和感のある老けメイク。当たり前だけど、ウケ狙いでやっているようには見えない。実際、この老けメイク以外は脚本も演出もハイレベル。崖下に落ちた文吾を心が救うクライマックスなんて初回とは思えない臨場感で、その後、父子で露天風呂につかりながら「佐野文吾が、俺の父さんで良かった」と心が目を潤ませる場面は胸の瞼まで熱くなった。だから、あの老けメイクは何かの見間違いなんだろうと、そっとトイレに流して、以降も心と同じ気持ちで雪深き山村に眠る謎にまなこを凝らし続けた。

 が、第1話で感じた予兆を再び感じさせる人物がいた。他ならぬ主人公の心さんである。ここからは親しみを込めて心さんと呼ばせていただくが、この心さん、父の無実を証明し、家族の幸せを取り戻すため孤軍奮闘するのだけど、ピュアでストレートな心さんは、やることなすこといちいち裏目に出てしまう。

 最初に「え?」と思ったのは第3話。長谷川(竜星涼)殺害の容疑をかけられた心さんは、金丸刑事(ユースケ・サンタマリア)を振り切り、一連の事件の記事がスクラップされているノートと自らの運転免許証を崖上から盛大に投げ捨てる。「え? 投げるの?」って思わずベッドで寝転がっていたところを起き上がってしまった。

 いや、わかる。確かにそんなノートを警察に見られたら、自分の正体がバレるからね。それでも「そんな重大な証拠を野ざらしにするのとかマズくね? せめて燃やせば?」と僕の心の伊達みきおがツッコミを入れる。

 さらに拍車をかけたのが、第5話。事件の核心を知る松尾(芦名星)がいよいよ真相を証言しようとする場で、心さんは手ぶら。「いや、ボイスレコーダーぐらい用意しろよ」と再び僕の心の伊達みきおがツッコミを入れる。今や何かあったときのために、若手社員がこっそりボイスレコーダーをポケットに忍ばせる時代。どれだけ詰めが甘いんだと、僕が上司なら小一時間机を叩いて説教する勢い。

 だがそれも、あくまで視聴者は第三者の視点から観ているからそんな冷静なことが言えるんだと、口やかましくなりそうな老婆心をなだめ、頑張る心さんを応援してきた。

 が、決定的だったのは第6話。今度は「俺が犯人だなんて証拠どこにもない」と居直る木村みきお(安藤政信)に対し、心さんが得意げにボイスレコーダーを掲げる。先週、お茶の間からさんざんツッコまれたのを反省したかのような成長ぶりだ。でも、「え? そういうの犯人に見せちゃダメじゃない? 奪われたら一巻の終わりだよ?」と、もうツッコむのも忘れて、なんだか我が子を見守る母親みたいな気持ちになってきた。

 しかし、なぜか心さんを置いて、その場を去っていくみきお。あ、良かった、ボイスレコーダーは無事だと安心したのもつかの間、心さんは再び平成元年にタイムリップ。目を覚ますと、証拠のボイスレコーダーは忽然と消えていた。って結局、盗られとるやないけ~。

 こんな調子で、いろんなところで詰めが甘すぎる心さんが気になって目が離せない。視聴者全員を名ツッコミかオカンにさせる魅力を心さんは持っている。

●『テセウスの船』は、令和時代のネオ・大映ドラマだ

 まさかこんなツッコミドラマの様相を呈してくるとは思っていなかった『テセウスの船』。つくり手たちがどれくらい意図してやっているのだろうと気になって調べてみたら腑に落ちた。このドラマ、製作に大映テレビが参加しているのである。

 大映テレビとは『ザ・ガードマン』や山口百恵主演の『赤いシリーズ』など数々のヒットドラマを手がけた老舗の制作会社。だが、その真骨頂は「大映ドラマ」と呼ばれる一連の作品群にある。1980年以降、「私はドジでのろまなカメです!」の流行語を生んだ『スチュワーデス物語』(TBS系)、「悔しいです!」と叫ぶ森田光男が語り草の『スクール☆ウォーズ』(TBS系)、初井言榮演じるおばあちゃんが怖すぎてトラウマを植えつけた『ヤヌスの鏡』(フジテレビ系)など、パンチのある作品でヒットを連発した。

 その特徴は、運命に翻弄される主人公と、波乱万丈のストーリー、荒唐無稽の展開に、大げさな演技。あとだいたい伊藤かずえと松村雄基がいる。観れば一瞬で「これは大映ドラマだ!」とわかる強烈な個性で1980年代に一世を風靡した。

 1983年生まれの私がリアルタイムで大映ドラマと遭遇したのはもっと後。1997年に放送された『ストーカー・誘う女』(TBS系)だった。当時、社会問題化しつつあったストーカーをいち早く題材に取り入れた意欲作だったが、同時期に放送されていた『ストーカー 逃げきれぬ愛』(日本テレビ系)と比べても、ストーカーの異常性に戦慄するというより、雛形あきこの常軌を逸した演技とそれにうろたえる陣内孝則の滑稽さに、笑っていいのかビビっていいのかわからず、何とも言えないめまいを覚えた。

 『ストーカー・誘う女』は最高視聴率25.6%のヒットを記録し、翌年にはシリーズ第2弾と言える『略奪愛・アブない女』を放送。こちらも赤井英和と鈴木紗理奈のまったく板についていない標準語に、軽い放送事故のような衝撃を受けた。

 この異質さこそが大映ドラマの醍醐味なんだと少年心に興奮を覚えたものの、2000年代以降、こうした大映ドラマはほぼ見かけることがなくなり、ペガサスレベルの伝説の産物になっていた2020年。まさか『テセウスの船』で大映ドラマの面白さに再会できるとは思っていなかった。

 本作が大映ドラマの文脈だと解釈すれば、第1話のあの老けメイクも大映ドラマらしいとむしろ納得。いちいち視聴者にツッコミを入れられまくる心さんの言動も、大映ドラマの十八番だ。往時のような大げさな演技こそ鳴りを潜めているものの、麻生祐未の奇怪な老女役などは明らかに大映ドラマのノリ。

 『テセウスの船』とは日曜劇場らしいスケール感と、『白夜行』(TBS系)などでTBSが培ってきた本格ミステリーのノウハウに、大映ドラマという香ばしすぎる香料をブレンドした、令和時代のネオ・大映ドラマなのだ。だから、往年のドラマファンには懐かしく、10~20代の若い視聴者には新鮮に感じるのだろう。

 もちろんサスペンスとしても家族ドラマとしても上出来なので、犯人との攻防に手に汗握るも良し。家族の絆や由紀との関係に涙するも良し。もちろん今夜は心さんが何をしでかすかツッコミ待ちをしながら観るも良し。これぞ本当の「三方良し」だ。

 古の大映ドラマファンで、まだ本作を観ていない人はぜひ今夜からでも参戦してほしい。かつて栄華を極めた大映ドラマが、この『テセウスの船』をもって今、復活の汽笛をあげようとしている。(横川良明)

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