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YUI、自然体な歌声で包み込む“あの頃” セルフカバー作に感じた進化

リアルサウンド

21/3/13(土) 12:00

 2月24日、YUIのメジャーデビュー15周年を記念したセルフカバーミニアルバム『NATURAL』がリリースされた。デビュー曲「feel my soul」や代表曲の一つ「CHE.R.RY」など全6曲が収録されている。

 2012年12月31日に活動休止して以降、ロックバンド・FLOWER FLOWERのボーカルとしての活動が主軸だった彼女がYUI名義で活動再開したのは昨年の11月。YouTube上の配信ライブ『THE FIRST TAKE FES vol.2』に登場し、8年ぶりに歌ったと言われる「TOKYO」、サポーターに佐藤嘉風を迎えた「CHE.R.R.Y」2曲を披露した。当時と変わらない胡座をかいた歌唱スタイルは懐かしさを醸成し、YUIと共に青春期を過ごしたリスナーは自身の日々を重ねながら胸を震わせたに違いない。

YUI – TOKYO , CHE.R.RY / THE FIRST TAKE FES vol.2 supported by BRAVIA

 今作『NATURAL』に収録された楽曲は、FLOWER FLOWERのメンバーと共に新たなアレンジが施され、現在のYUIが歌う形で制作された。

 全体を通して印象的なのが、YUIの存在自体を支えるかのような落ち着いたリズム隊の存在だ。バンド形態ではそれぞれの個が溶け合うことで音楽性を高めている一方、同作では歌声を引き出す土台としての役割に徹している。安心感があるからだろうか、音の上にのせられた歌声は一段と柔らかさと包容力が増幅した。

 一曲目にあたる「feel my soul」のイントロは出色の一言。ピアノの音とハミングのシンプルな構成ながら、まるでスタジアムライブのオープニングかの如く豊かな創造性を含む。1分18秒かけてようやくたどり着いた歌い出しは女神降臨を彷彿とさせるほど。ずば抜けた透明感ある声質は今も健在で、さらに成熟した美しさが加わっている。

 今回リアレンジされたのはYUI名義の中で代表的とも言える6曲だが、改めて聴いていると〈君がくれた笑顔 落とした涙は 僕の胸の 深い傷に 触れて消えた〉(「feel my soul」)、〈ポケットの この曲を 君に聴かせたい〉(「Good by days」)、〈青空にいま 叫びたいほど 君を想ってる〉(「SUMMER SONG」)など、ほとんどの楽曲に「君」が居るのに気付く。

 時には心を寄せる誰かを、時には冷静に自分自身を。一定の距離感で見つめる静かな孤独は、彼女の音楽性を語る上で欠かせない要素だ。それは聴く者に安らぎと少しの希望を与えてくれる。人との関係に躓くのも、さみしさに戸惑うのも、自分だけじゃないと。

 〈I feel my soul〉そう歌う少女は、17歳だった。儚げな佇まいと凛と鳴る声、芯の強さを感じさせる眼差し。葛藤や戸惑いを率直に綴り、自らの意志で未来を切り開いていく様。歌詞にのせられた大人と子どもの狭間で揺れる心境は、等身大のYUIそのものだったと記憶している。

 また2000年代の活躍当時は、一貫した媚びない表情と姿勢から感じた不器用さも魅力のひとつだった。活動休止を発表した際に語られた理由も大きい。「限界」を用いた率直な言葉は、彼女が真摯に追いかけた音楽家の姿と周囲の人々が期待する姿の乖離を意味していたと思う。

 求めるものと求められるもの。私たちは大人になるにつれ、迎合や妥協を心得ていく。人生は、望んだ素材だけで作られるのではないのだと知る。しかし、そんな中で絶対に譲れないことだってある。YUIにとっては、それがきっと音楽への誠実さだった。変わらず歌を愛するために、多くを手放さなければならなかった。歌い続ける自分を守るために、バンドのボーカルという新境地を切り開いた。

 時が流れ、発表された『NATURAL』で触れられるのは、アルバムのタイトルにもなった自然体のYUIだ。恋が始まる高揚感を歌った「CHE.R.RY」、夢を追いかける葛藤を描いた「GLORIA」、夏がもたらす可能性を綴った「SUMMER SONG」。聴いていると、YUIの音楽とともに駆け抜けた青春の日々を思い出す。そしていつかの自分が心に刻んだ切なさや痛みの存在に気づく。現在のYUIが歌声で包んでいるのは、あの頃の彼女と私たちなのかもしれない。

 これまで多くのアーティストがセルフカバーを発表しているが、ほぼ同時期に活躍・活動休止したレミオロメンもその1組だ。2019年春にボーカルの藤巻亮太が個人名義で『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』をリリース。同作のトレイラーでは「レミオロメンの藤巻亮太として歌うんじゃなくて、藤巻亮太の中にあるレミオロメンを大切に歌おうと逆に思えた」と語っている。両者に共通しているのは、音楽を続けたくても続けられない大きな危機に見舞われた点。だからだろうか。どちらの作品でもそれぞれの楽曲を慈しむ温度感が心地良く、過去を塗り換えるのではなく内包するような優しさに満ちている。

藤巻亮太「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」[Trailer]

 『NATURAL』では、楽曲の感想や思い出のエピソードを募るハッシュタグ企画 「#YUI_NATURAL」を展開中。復活を心待ちにしていたリスナーから、すでに多くの投稿が寄せられている。「あの頃」と対峙する照れ臭さと愛しさが、セルフカバー作品にはある。

■平井みか
在宅編集者・ライター。情報誌、フリーペーパーの制作会社で編集及び広告制作に従事。現在はフリーでWebメディアを中心に活動中。
Twitter:https://twitter.com/mica_clip

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