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TAKU INOUE、篠崎あやと、ケビン・ペンキン……クリエイター陣が魅力を際立たせるアニメ/声優ソング

リアルサウンド

20/2/23(日) 8:00

 アニメ/声優ソングが面白い理由のひとつとして、才能に溢れたクリエイターやミュージシャンたちが制作の現場に携わっていることが挙げられます。作詞家、作曲家、編曲家、演奏家といったそれぞれの分野のスペシャリストが、アニメ作品やフロントに立つ歌い手・演者の魅力をより際立させるために磨き上げた音楽。プロの音楽家だからこそ生み出すことのできる輝きが、そこには詰まっているのです。アニメ/声優ソング周辺のオススメ新譜を紹介する本連載。今回は、参加しているクリエイター/ミュージシャンの観点から注目の作品をピックアップします。

 まずはコンポーザー/DJとして活躍するTAKU INOUEの関連作をまとめて紹介。かつてゲーム会社のバンダイナムコスタジオ(BNSI)にサウンドクリエイターとして所属し、『鉄拳』『アイドルマスター』シリーズといった人気作の音楽を手がける傍ら、外部への楽曲提供やリミックス、DJなども行っていた彼は、2018年に同社を退社後、フリーの音楽家として活動を開始。現在はトイズファクトリーにアーティストとして籍を置き、DAOKOやSTU48への楽曲提供、HOWL BE QUIETのサウンドプロデュースなど、アニメやゲーム音楽に限らず幅広いフィールドでその腕を振るっています。

Liyuu「Magic Words」

 そんな彼が作詞/作曲/編曲のすべてをトータルで手がけたのが(作詞は別名のMC TC名義)、中国出身の人気コスプレイヤーであるLiyuuのデビューシングル曲「Magic Words」。TVアニメ『はてな☆イリュージョン』のOPテーマでもあるこの楽曲は、2ステップ〜UKガラージをマッシブ化したようなダンスビートと、Liyuu自身のフルーティーなスイートボイスがギュっと凝縮した、Kawaii系フューチャーベースの究極進化系と言えそうな仕上がりに。この両者によるタッグ、実は昨年、アプリゲーム『ドラガリアロスト』の挿入歌として発表された、セイレーン starring Liyuu「Polaris」と「Singing In The Rain」に続くもの。リキッドファンク系の爽快な高速ドラムンベース「Polaris」、ローテンポの幻想的なベースミュージック「Singing In The Rain」と、そのどちらもが最先端のダンスミュージックの要素を取り入れたサウンドだったので、それらの成果を踏まえたうえで出来上がったのが、今回の「Magic Words」なのかもしれません。

Liyuu – Magic Words(TVアニメ「はてな☆イリュージョン」OP主題歌) 1cho. ver
「ミラーボール・ラブ」

 そしてもう1曲、アプリゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』より、同じくTAKU INOUEが作詞/作曲/編曲を担当した楽曲「ミラーボール・ラブ」が、2月19日リリースのCD『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 3chord for the Dance!』のボーナストラックとして初CD化されることに。昨年11月にナゴヤドームで開催された『シンデレラガールズ』の7thライブ名古屋公演において初披露されたこの楽曲は、サウンド的にはいわゆるエレクトロスウィングの範疇に入るであろう、ホーンのサウンドをエディットしたファンキーなハウス調。そこに宮本フレデリカ(CV:野麻美)、棟方愛海(CV:藤本彩花)、及川雫(CV:のぐちゆり)、荒木比奈(CV:田辺留依)、姫川友紀(CV:杜野まこ)という5人のキャラクターによる華やかな歌唱が合わさることで、ダンスフロアを彩るミラーボールのように煌びやかな楽曲になっています。TAKU INOUEと『アイマス』の組み合わせと言えば、ブラジリアンドラムンベースとキャラソンを融合した我那覇響(CV:沼倉愛美)の大名曲「Pon De Beach」をはじめ、「Hotel Moonside」「Radio Happy」「クレイジークレイジー」など数々のクラブアンセムを生み出してきただけに、この曲も今後フロアの定番曲になることは間違いないでしょう。

【アイドルマスター】「クレイジークレイジー(M@STER VERSION)」(歌:一ノ瀬志希、宮本フレデリカ)

 お次は、このところ話題作を連発している注目のクリエイター、篠崎あやとの関連作をセレクト。ヒゲドライバーやゆよゆっぺらが在籍する音楽事務所、TOKYO LOGICに在籍する彼は、作家業とは別にハードコアテクノ〜ハードスタイル系の音楽ユニット、Massive New Krewのメンバーとしても活動。DJやライブに加え、『beatmania』などの音ゲーにも楽曲提供を行うなど、マルチな才能を発揮しています。そんな彼は昨年、TVアニメ『ダンベル何キロ持てる?』のOPテーマ「お願いマッスル」の作編曲をシックスパック篠崎名義で担当(作曲はサイドチェスト烏屋こと烏屋茶房との共作)。筋トレをテーマにした作品ならではのユーモラスな歌とマッチョな合いの手、70年代のディスコ曲「ジンギスカン」を今っぽくアレンジしたようなノリの良さが受けたのか、2019年のキャラソンを代表するようなヒットになりました。

「イこうぜ☆パラダイス」

 その流れを汲むような(いい意味での)バカバカしさ満載な楽曲が、今期のTVアニメ『異種族レビュアーズ』のOPテーマ「イこうぜ☆パラダイス」。この『異種族レビュアーズ』という作品、エルフから天使まで多種多様な種族が暮らす世界を舞台に、いろんな種族とムフフなことができる風俗店での体験を主人公たちがレビューするという、こうして説明するのもアレな内容なのですが(ちなみにTOKYO MXでは第5話以降の放送が中止に)、メインキャラのスタンク(CV:間島淳司)、ゼル(CV:小林裕介)、クリムヴェール(CV:富田美憂)が歌う「イこうぜ☆パラダイス」は、まさに彼らのスケベ心をそのまま形にしたような“迷曲”に。歌詞に〈抜こうぜ 己の武器を〉〈天国イこう!生死かけて!〉といったダブルミーニングを大胆に忍ばせつつ、楽曲のアレンジはこれまた70年代のディスコヒット、Village People「Y.M.C.A.」(西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」の原曲)を引用したキャッチーなものに仕上がっていて、下ネタとはいえこの完成度は感服せざるを得ません。ちなみに本楽曲における、篠崎のクレジット上の名義はゴールデンボール篠崎。共作者のビッグマグナム橘とは、Massive New Krewの相方で同じく作家活動も行う橘亮祐のことです。

TVアニメ「異種族レビュアーズ」オープニングテーマ 視聴動画
東山奈央『歩いていこう!』

 これだけだと彼は飛び道具的な曲ばかり書く人のように思われるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。声優の東山奈央がリリースしたばかりのニューシングル『歩いていこう!』のアニメ盤のみに収録されているカップリング曲「FLOWER」も、篠崎と橘が共同で作詞/作曲/編曲を行っているのですが、こちらはいつか大きく花開くために夢に向かって進む心情を描いたエモーショナルなピアノロックチューン。その他にも、最近だとTVアニメ『世話やきキツネの仙狐さん』の仙狐(CV:和氣あず未)が歌うEDテーマ「もっふもふ DE よいのじゃよ」のキュートなラップ調、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の「comic cosmic」(作詞は只野菜摘、作編曲は篠崎と橘の共作)における賑やかなアイドルソングなど、いろんな曲調の楽曲を作れるうえに、いずれにも楽しく盛り上がれるキャッチーさがあるところが、彼の持ち味なのかもしれません。

MUSEUM-THE BEST OF MYTH & ROID-

 続いては、上映劇場数の拡大が決定して大きなヒットとなっている劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』が結んだ、日本と海外のクリエイターによる国境を超えたコラボレーションについて。本作のED主題歌を担当するのは、Tom-H@ckを中心とするコンテンポラリークリエイティブユニットのMYTH & ROID。そして、その新曲「FOREVER LOST」のアレンジを手がけたのが、同映画およびアニメ版『メイドインアビス』シリーズ全ての劇伴音楽を制作しているオーストラリア出身の音楽家、ケビン・ペンキンなのです。MYTH & ROIDといえば、ロックからエレクトロニカ、ミクスチャー、インダストリアルまで取り入れた海外志向のサウンドで知られていますが(実際に国外での人気も高く、頻繁に海外でライブを行っている)、今回はオーケストラにも精通するケビンに編曲を委ねることで新たな地平に到達。壮大に響く弦楽、幻想的なコーラス、不穏なディストーションなど、『メイドインアビス』の劇伴でも聴かれる静謐と混沌が混ざり合ったようなサウンドが、ボーカリスト・KIHOWの歌声を含むMYTH & ROIDの世界観と融合することで、自然の神秘や峻厳さを思い起こさせる崇高な音に昇華しています。例えるなら、Sigur Rósなどの北欧ポストロックに通じる雰囲気はありますが、この楽曲がもたらす景色は間違いなく唯一無二。ぜひ劇場に足を運ぶなり、3月4日にリリースされるMYTH & ROIDのベストアルバムを入手するなりして、耳にしてほしいです。

アニメ「メイドインアビス」シリーズ続編制作決定PV
DEZOLVE『Frontiers』

 次は厳密にはアニメ/声優音楽ではないのですが、繋がり的にぜひここで紹介したいのでご容赦を。その作品とは、フュージョンバンドのDEZOLVEによるニューアルバム『Frontiers』です。北川翔也(ギター)、友田ジュン(キーボード)、小栢伸五(ベース)、山本真央樹(ドラムス)という新進気鋭のプレイヤーたちから成る、平均年齢25.5歳の若手バンドとなる彼ら。とはいえ実力は折り紙付きで、2016年から年1枚ペースでアルバムを制作。今回のアルバムで早くも5枚目となります。なぜ彼らをここで紹介するかと言うと、実はこの4人、いわゆるスタジオミュージシャンとしてアニメ/声優音楽のレコーディングやライブサポートなどで活躍しているのです。なかでも角松敏生のサポートも務めるドラマーの山本は、コンポーザーとしてもいくつかのコンテンツに楽曲を提供。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の十時愛梨(CV:原田ひとみ)によるソロ曲「ヒトトキトキメキ」では、作詞/作曲/編曲を手がけています。

 バンドとしても、昨年5月に行われたキャラクターコンテンツ『ひなビタ♪』のライブイベント『日向美ビタースイーツ♪×COCONATSU Sweet Smile Merry go round』にバックバンドとして参加。演奏的に難易度の高い楽曲が多いアニソンの世界で、プレイヤーとして第一線で活躍できているのは、彼らがとんでもないテクニックの持ち主だから。『Frontiers』でも王道フュージョン曲から、ブラジル音楽、インド音楽、ネオソウル風まで、超絶技巧を駆使した様々なジャンルを横断するサウンドを聴かせてくれます。なかでも特に聴いてほしいのが、数々のアニメ主題歌を担当するシンガーソングライターのやなぎなぎをゲストに迎えたバンド初のボーカル曲「re:fruition」。昨年にやなぎの台湾公演をメンバー4人でサポートした縁が結実したこのコラボ。夜のハイウェイを疾走するようなAメロから、鮮やかな転調を経て開放感に満ちたサビへと至る高揚感、それぞれの楽器が見せ場を作りながらも、やなぎの艶やかかつエレガントな美声を盛り立てるアレンジの巧みさ、何より圧倒的としか言いようのない演奏と歌唱テクニックのぶつかり合いに、誰もが痺れること間違いなしの1曲となっています。個人的にはこの編成でアルバムを一枚作ってほしいほどの衝撃を受けました。

水瀬いのり『ココロソマリ』

 最後は、今年7月に横浜アリーナ単独公演を控えるなど、今や声優としてはもちろん、アーティストとしても絶大な人気を誇る水瀬いのりのニューシングル『ココロソマリ』を紹介。表題曲の「ココロソマリ」は、彼女がソマリ役で主演するTVアニメ『ソマリと森の神様』のEDテーマ。クリエイターという観点からは少しズレますが、実はこの曲の歌詞、水瀬本人が作詞をしています。2019年リリースの3rdアルバム『Catch the Rainbow!』のリードトラック「Catch the Rainbow!」で初めて作詞に挑戦した彼女。同曲ではファンとアーティスト活動を通じて繋がれることの喜びをシンプルなワードで形にしていましたが、初のタイアップ曲の作詞となる「ココロソマリ」では、人間の子ども(ソマリ)とゴーレムの父子のような関係性を描いた作品のテーマ性に合わせて、「親への想い」を歌詞で表現。自身が演じるソマリの目線でありつつ、水瀬が実の両親に贈る愛と感謝の言葉にもなっていて、優しい温もりを感じられるバラ—ドに仕上がっています。ただ歌が上手いだけではない、表現の部分を含めた歌唱力も込みで絶品です。

水瀬いのり「ココロソマリ」MUSIC CLIP

 同シングルのカップリング曲もまた名曲揃い。ライブでファンと一緒に歌うことを想定して制作したという「僕らは今」は、Elements Gardenの藤永龍太郎が作編曲を担当。近年は『BanG Dream!』の楽曲を多数手がけて注目を集めている藤永ですが、水瀬にも今やライブアンセムとなっているシングル曲「Ready Steady Go!」(2017年)をはじめ、人気の高いロック曲を書き贈ってきました。今回の「僕らは今」はゆったりとしたピアノバラード風で始まり、徐々に高まりを生みながら、途中で一気に弾けてロッキッシュに展開していく6分半の大曲。岩里祐穂が水瀬のライブで感じた景色を落とし込んだという歌詞も、それを会場で一緒に歌うことでより団結感が生まれるものになっていて、ライブで歌って初めて完成する楽曲と言えそう。

 もう1曲の「Well Wishing Word」は、『Ready Steady Go!』のカップリング曲「Winter Wonder Wander」に続き栁舘周平が提供した、可憐で華やかなガールポップ。頭文字が「W」で始まるワードを3単語並べたタイトルに、「Winter Wonder Wander」を知るファンなら思わずニヤリとなるし、歌詞の世界観も何となく繋がっているのが心憎いところ。しかも「Well Wishing Word」で歌われているのは、今生の別れについて。例えそこでさよならしたとしても、生まれ変わってもまた巡り合えることを確信する、その切なくもポジティブなメッセージは、ある種、究極の愛の歌と捉えることができそう。そんな楽曲を元気よく歌い上げる水瀬の明るい声音が、また逆にグッとくる要素になっています。なお、蛇足ながら、本楽曲のドラムを叩いているのは、昨年12月4日に37歳の若さで永眠したドラマーの山内“masshoi”優。シングルのブックレットには彼へのメッセージも添えられています。

水瀬いのり『ココロソマリ』全曲試聴動画

 当たり前のことですが、どんな楽曲にも、それを歌うアーティストのみならず、作り手や演奏した人、制作に関わったスタッフの想いが詰まっているもの。作品に携わった作詞家、作曲家、編曲家、演奏家を知ることは、その音楽をより深く楽しむことにも繋がります。もし、これまでそういったクレジットをあまり気にしてこなかった方は、ぜひチェックしてみることをオススメします。きっと新しい発見や感動にたくさん出会えると思うので。

RealSound_ReleaseCuration@Hajime Kitano

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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