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いま、最高の一本に出会える

星野源から漂う知性と品格 俳優兼ミュージシャン活動で確立した独自の立ち位置

リアルサウンド

19/9/21(土) 6:00

 星野源主演の時代劇『引っ越し大名!』(犬童一心監督)は、江戸幕府のお達しによって、姫路から大分の長距離を大所帯で移動しなくてはならない者たちの一大引っ越しプロジェクトを描いている。星野の役は突如“引っ越し奉行”に抜擢された片桐春之介。あだ名は「かたつむり」で、引っ越し奉行になる前は、藩の書庫番として日がな一日、書庫に籠もっていた。それだけに書庫のことは知り尽くしていて、探している本がどこにあるかすぐに分かる、ある種の特殊能力の持ち主だ。

 突然、引っ越し奉行に任命されて最初はうろたえながらも、持ち前の知性と教養を駆使していい仕事をしていく。幼馴染の腕っぷしの強い武士役の高橋一生は珍しく話を散らかす係で、彼を中心に周囲の人がドタバタしているなか、春之介は冷静に物事を見極め、いざとなると頼りにもなる。その一方で、元引っ越し奉行だった人物を父に持つ、未亡人・於蘭(高畑充希)に不器用な恋心を抱きながらなかなか行動に移せない。そんな弱点ももちながら、真摯に任務を遂行する春之介の姿によって、映画はコメディながら不思議な品格が漂う。おバカな人が純粋に生きて、それが感動を呼ぶという作品もあるが、星野源の場合、コントもやっているけれど、知性と教養のある者が己れの限界を越えていこうとする、ノーベル賞受賞者の感動実話が似合う気がしてならない。

 星野源はミュージシャンであり俳優であり、どちらのジャンルでも大活躍し、そのうえエッセイ等も書いていてそれがまた面白い。作詞もするから文才が備わっているとはいえ、ずいぶんと多才だ。その脳みそのしわはきっと細かく、たくさんの情報を瞬時に処理しているのだろう。シャープな弓なりの上瞼に覆われた瞳をのぞくと、脳みそが精密機械のように動いているようだ。インタビューをしたことがあるが、質問をふむふむとしっかり聞いているその姿はまるで、人々の嘆願を聞いている良い神さま、良い殿様のようだった。それはちょっと大げさだが、この人は何を聞きたいのか受け止め、何を答えてほしいのか、というところまで考えが及んでいるような知性を感じたのだ。それゆえ、彼の鋭い瞳は嘘やいいかげんは許されない、たちまち弾かれてしまいそう。しかもそれが世間的な正しさが基準ではなく星野基準。独自の基準が、ものごとを手際よく鮮やかに仕分けしていく。その基準に我々はひれ伏すしかない。基準が独自だからこそ、映画『地獄でなぜ悪い』みたいにときとして狂気の方向に突出したり、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)みたいに仕事はできるが女性と触れ合うのは苦手というオクテ方向に突出したり、極端なところも魅力と思う。明るくさわやかな朝ドラの主題歌「アイデア」の、あとから発表されたダークサイドの深さが最たるもの。

 ところが昔の星野源は、再放送中(しょっちゅう休止しているが)の朝ドラ『ゲゲゲの女房」(NHK総合)では控えめな雰囲気でヒロインの弟を演じていた。宮藤官九郎の傑作落語ドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)では坊主頭の素朴な落語家の弟子。人気を誇った青春群像ドラマ『ウォーターボーイズ』(フジテレビ系)では多数いるシンクロ部のひとりだった。時系列的には『ウォーターボーイズ』(03年)→『タイガー&ドラゴン』(05年)→『ゲゲゲの女房』(10年)とちょっとずつ世の中に浸透して『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)で大ブレイク。下積みが長かったというわけではなく、マイペースに好きなこと(音楽とか演劇とか)をやっていたら時代が追いついたという印象で、与えられたものを懸命に演じる者というよりも、星野源自身も含んだ星野源の作品が広く好まれるようになったように感じる。だからこそちょっと知的な雰囲気漂わせる研究者的な役が似合う。つまりシンクロ部の素朴な少年とかヒロインの弟とかは役不足だったのだなという気さえする。こうして彼に合った役が来るようになって、水を得た魚のように、のびのびと演じているのではないだろうか。

 第一話で登場して以来、出番がなかなかない大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)の帝大法学部出身の外交評論家・ジャーナリストの平沢和重の出番が待たれる。この役こそ知性の極地。星野のシャープな視線が大いに生きる役だろう。第一話では1964年のオリンピック招致を目指して英語でスピーチをする場面を流暢な英語で演じた。史実では15分間(ほかの国よりは短いが端的な内容が良かったという)の演説は本編で全部使用するわけではないが通しで撮影して大変だったらしい。史実でほかの国のスピーチより短いとはいっても15分の長台詞だとしたらかなり大変。そこは舞台経験も豊富な星野だから安心とは思うが、英語で15分はなかなかハードルが高そうだ。それでも第一話を見た限りでは星野源、さすが! という感じだった。

 繰り返しになるが、お馬鹿な人物による純粋な言動の愛らしさを描くドラマや映画もすてきだが、知性や教養に裏打ちされた人物のことを描いたものも我々には必要だ。星野源はそこを担っているひとり。彼がその他の、知性派俳優と違うところは、知性という理論のほかに、芸術という感性も優れているところだ。頭カッチカチな人物としてそこに居ることで面白くするだけでなく、歌うように奏でるように柔らかく物語の道筋を案内してくれる、なかなかいない人である。無数の音を組み合わせながら感情や本能を振るわせていく、まったく音楽家最強と思わざるを得ない。(文=木俣冬)

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